367 お久しぶりな人たちとの再会
その建物に入った瞬間「いらあーしゃいませえー!」という威勢のいい声に迎えられた。
よく通る声だったことに加えて声量自体も大きかったこともあって、うちの子たちが揃ってビクリと肩をはね上げて驚いてしまっている。
ボクはというと「コントに出てくる居酒屋とかガソリンスタンドの店員さんみたい」などとどうでもいいことを考えていた。
「お客様は初めてのご利用ですね。施設の利用のための説明は必要ですか?」
周囲のプレイヤーたちのざわめきを一切気にすることもなく、淡々と声をかけてくる受け付け担当のNPC。
そのAIらしいと言えばそれまでな対応に、ちょっぴり寂しさを感じてしまうのはアウラロウラさんに毒されてしまったためなのかな。
ぼんやりとそんなことを考えながら頷き返すと、さっそく説明を始めるNPC。
外見はかなりな美人さんな上に、誰の好みなのかスタイルも抜群なお姉さんだったが、どこか感情が欠落したような声の響きは寒々しく感じられてしまう。
改めて本編側で接しているNPCたちも強烈な個性を持ったキャラクターたちばかりなのだと再認識することになったのだった。
ところで、最初の「いらっしゃいませ」は誰が言ったんだろう?
さて、施設についてなのだけど、部屋数に制限はないので基本的には個々人で借りることができるとのこと。
広さや天候などは以前説明した通りだけれど、地形も板の間の床や乾いた地面に始まり、障害物のある森の中や街の裏路地など様々な特殊な空間が取り揃えられているのだそうだ。
「二手に分かれて砦やお城を攻めたり守ったりなどもできます。もっとも相応の人数がいなければ無意味に広い空間を走り回るだけとなってしまうでしょうが」
このように大勢で遊ぶこともできるようになっているらしい。
他にも観客席を設けることもできれば内容を完全に秘密にすることもできるようで、観覧目当てに定期的にこの練習場へ通うプレイヤーもいるとのことだった。
「観客は不可に……、はできそうもないかな」
そっと視線だけで見回してみると、明らかに期待した目をしている人たちが多数見受けられた。
公開しないとなると、暴動とまではいかないにしてもちょっとした騒動が起きてしまうかもしれない。スクショに動画など一切の撮影は禁止というところで手を打つのが妥当なところかな。
経験値取得の追加機能はリアル課金が必要だし、ミルファとネイトとのレベル差がついてしまうので今回はなしで構わないだろう。
身体を動かすこと、ボクに関しては龍爪剣斧の扱いになれることが目的だから、広さに地形や天候も初期設定のままで問題なしかな。
「後は……、どうせなら対戦相手がいた方がやりやすい?」
「そうですね。こう言っては何ですけれど、わたしたちの本体がまだ私たちと一緒に動くことに慣れていませんから、こうした機会を利用して連携等を見ておく必要があるかもしれません」
「リーネイの言う通り、せっかくこうしてわたくしたちを含めたテイムモンスター全員が揃っているのですから、全員での動きを確認しておくべきですわね」
確かにチーミルたちを交えての戦いとなると、合同イベントの時にユーカリちゃんと戦ったきりとなる。能力値等に差がある以上、単純に仲間たちの代わりだと考えていると思わぬ失敗をしてしまうかもしれない。
ここはやはりチーミル、リーネイだからこそできる動きに沿った連携の仕方などを考案しておくべきだろう。
「了解。相手の強さは後からも変更できるようだから、一旦ボクよりも少し弱い十レベルで設定しておくね。数は一体で大きさは……、ボクよりも一回り大きい中型で」
ちなみに敵となる相手の形はデフォルトだと人型の魔物となるとのことで、小型だとダークゴブリンで中型だとオーガ、大型だとジャイアントになるそうな。
設定項目はこのくらいかな。後は実際に戦ってみて細かい変更を加えていけばいいだろう。
それでは指定された部屋に向かいましょう。
「あれ?『テイマーちゃん』じゃないか!」
と思った瞬間、背後から呼びかけられる。
それまでとは比べ物にならない勢いでざわめき立つ周りのプレイヤーたち。
それはそうだろう、「話し掛けてみたいけれど抜け駆けになるのはまずいかも?」と遠慮したり、「お前いってみろよ!」と押し付け合っていたり――気付いていないと思っていた?ちゃんと見えてますよお。ひっひっひ――していたところに、いきなり割って入るようにしてきたのだから。
しょせんは居合わせた人たちで共有していた暗黙の了解に過ぎないことでしかないけれど、それでも横入りには変わりがないのだ。
マナー違反だと文句をつけられてしまっても仕方がないというものだろう。
そして本来であれば当事者というか、図らずとも元凶となってしまっているボクが口を挟むと余計にこじれてしまう可能性が高いため、関わり合いにならない方が良いのだけれど……。
どうにも先ほどの声が聞き覚えのあるもので、その口調も親しげであったことに興味をひかれることになった。
「あれ!?もしかしてヤマト君!?それにミザリーさんも!?」
果たして振り返った先にいたのは、合同イベントでチームメイトとなった漫画の主人公のようなツンツンヘアーの美少年なヤマト君と、同じくチームメイトだったダークエルフ風な外見のミザリーさんだった。
「お久しぶりです、『テイマーちゃん』。さっそく大発見をしたようですね」
「今までの事も含めて、別に狙ってやっている訳じゃないんですけどね……」
くすくすと笑うミザリーさんに対して、ボクの表情はきっと微妙なものとなっていただろう。
本当に、どうしてこんな面倒なことになってしまったことなのやら……。
そんな苦悩を察知した、という訳ではないのだろうけれど、真顔になったミザリーさんは突然ボクに近寄ってきて、
「あの全体インフォメーションで流れてきたエリア移動解除のキークエストをクリアしたのも、『テイマーちゃん』なんですよね?」
小声でそっと耳打ちしてきたのだった。
まあ、二人を含めてチームメイトになった五人にはキャラクターネームを告げていたので気付かれて当然だわね。
「バレちゃいましたか。その通りです」
この二人であれば誰彼構わず言いふらすようなことはしないだろうから、話してしまっても問題ないはずだ。
その考えは間違いではなく、
「分かりました。このことは私と彼の胸の内にだけ止めておきます」
秘密を伝えた直後に、ミザリーさんはそう言って約束してくれたのだった。




