360 『テイマーちゃん』の相談事
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「スミスさんも相変わらずなようで……」
「うん?まあ、『テイマーちゃん』のお陰で売り上げの方も順調だったことだし、確かに元気ではあったな」
苦笑混じりに言うと、生真面目な顔でそんな答えが返ってくる。
今のやり取りで気が付いたかと思うのだけれど、このスミスさん、真正の天然さんだったりしてしまうのだ。
先の台詞も今の会話も、振りをしているだとか装っているだとかいうことは一切なく、正真正銘本心からの言葉だったりするのだった。
あくまでボクの予想なのだけど、以前出会ってお世話になった先生さんからの紹介ということで、リアルの方では教育関係か公務員といった職業に就いているような気がしていた。
ああいったある種堅実さがウリの職業であれば、天然な性格もそれほど欠点にはならないように思えたからだ。
もちろん、これにはボクの偏見なども加わっていると思うので、正解かどうかも含めてはっきりしたことは不明なのだけれどね。
さて、彼の人物評はこのくらいにしまして。
「ところで、メールには相談したいこととあったが、何かあったのか?」
折よくあちらからも水を向けてくれたことだし、ここまで来た用を済ませることにしましょうか。
「ええと……、まずは謝らなくちゃいけないことからお話します。スミスさんから買ったハルバードを壊してしまいました」
「壊した?耐久値の回復を怠ったということか?」
スミスさんの視線が鋭くなる。
いくら練習用の試作品とはいえ、自分が作ったものを粗雑に扱われて喜ぶような人はいないだろう。よって、彼の怒りは当然のものだとは思う。
「実はあるイベントの攻略で酷使してしまうことになりまして。街へと帰ることもできないまま、耐久値オーバーになっちゃいました」
ここは素直にあったことを話しておく。変に取り繕ったところで、いずれ嘘だとバレてしまうと思ったからだ。
そうなってしまえば再び信頼を得ることなんて絶対にできないだろう。
「なんだと!?つまりイベントで遠征に一回出向いただけでぶっ壊れてしまったということか!?」
「一応、そういうことになります」
どうやらその答えが意外だったらしく、スミスさんは驚いた表情を浮かべた後、難しい顔になって何やら考え込んでしまった。
「ううむ……。『テイマーちゃん』の取り扱い自体にも悪いところがあったのだろうが、それだけが問題とも思えない。いくら練習用として作ったものだったとはいえ、耐久度だけは序盤の町や村で売られているNPC製のものとタメを張るくらいはあったはずだからな」
要するにこんなことで一々武器が壊れていてしまっては、イベントなんてこなせるものではない、ということであるようだ。
そして彼の言い分が間違っていないという証拠となるのだろうか。スミスさんが口にすると同時に、野次馬なプレイヤーたちもまたざわつき始めたのだった。
「一体そのイベントでは何と戦ったんだ?」
「えーと、多分ゴーレムということになるんだと思います。ボスクラスのが二体と、雑魚は強いのから弱いのまでたくさんで、回数はどんなに少なく見積もっても二十回を下回ることはなかったと思うから、総数で言えば六十から七十体くらいは倒したと思います」
「おいおい、戦闘回数からするとクエスト換算で五等級程度の難易度はありそうだぞ、そのイベントは」
「え?そうなんですか?」
「ああ。しかもただのクエストではなくて、『ダークゴブリンの住処にさらわれた子どもを助け出せ』とか『ギガントアントの巣を潰してくれ』とかいう連戦を前提にしたやつだ」
お、おーう……。何ということでしょう。まさかそんなとんでもない場所にレベル十で放り込まれてしまっていたとは……。
でも、あのイベントはエリア間移動を解放するためのキーイベントでもあったのだよね。
それを考えれば、それくらいの難易度に設定されていたとしても不思議ではないのかもしれない。壁画とかで頭の方もかなり使わされたものね。
「ああ、そうか。そういうことだったのか……!」
そんなことを頭の中で思い巡らせている間に、スミスさんもキーイベントのことに思い至ったようだ。
「あの全体インフォメーションの時、どこかで聞いた名前だとは感じていたが、あれのことだったんだな?」
いくぶんか声量を下げて野次馬さんたちに聞こえないようにこっそりと尋ねてくる。
「割と不本意ながら、そういうことになっちゃうみたいです。詳しい内容については『冒険日記』の時にということで。とはいえ、今はもうボクの手を離れて運営預かりとなってしまっていますけど」
「なるほど。道理で『冒険日記』の更新が遅くなっている訳だ。無闇に公開していてはすぐにあのことに結び付けられてしまうだろうからな。さすがに名前を出してしまった以上、運営も慎重にならざるを得なかったんだろう」
多少の食い違いはあっても、大まかにはスミスさんの言った通りなのだろうとボクもにらんでおります。
「ともかく、そういうことであれば納得だ。ことさら酷い扱いをしていたのでもないようだし、こう言っては何だが、それがあのハルバードの寿命だったんだろうさ」
長引かせてしまっては不用意に周りの人たちに余計な情報を与えてしまいかねない。
そうした判断もあったのだろう、スミスさんはそう言って一旦話を区切ったのだった。
「で、まさか今のが相談事だった訳じゃないんだろう?」
うはー……。言うべきかどうかを未だに悩んでいたことを見透かされていたようで、ちょっぴり居心地が悪くなってしまいそう。
まあ、ここまで言ってくれたのを無碍に扱うというのも失礼な話なので、ここはすっぱり諦めて喋ってしまうことにしましょうか。
「実はその後にもいろいろありまして……」
と、クンビーラに戻って来てからのこと、褒美として新しいハルバードを作ってもらえることになったことについて話していく。
周りの野次馬?どうせどうやったところでどこからか聞きつけて集まってきただろうから、気にするだけ無駄です。
それに考えようによっては、知らないところでいつの間にか拡散されてしまうよりも、公開する情報などをコントロールできるかもしれない今の状況の方がマシかもしれない。
「それでもって、本編内の馴染みになったドワーフの鍛冶屋さんたちが悪乗りして作ってくれたのがこれです」
アイテムボックスから取り出した龍爪剣斧をスミスさんに手渡す。
「……まあ、なんだ。オンリーワンの形状をしているのを見た時点で嫌な予感はしていたんだが……。こうくるか……」
そう言った後に彼が吐いたため息は、まるでこの世の疲労だとか苦悩だとかを体現しているように見えたのだった。




