356 グロウアームズ
来週の月曜日からは通常通りの更新速度となります。
改めまして、本年もよろしくお願いします。
楽しんでもらえるように頑張ります。
ヘルプ欄に記されていたグロウアームズの説明は以下の通りだった。
『グロウアームズとは、高い技術によって作られた特別製の武器が名付けにより成長する力を得た物である。所有者とともに経験を積むことで様々な成長が可能となるが、レベルアップのためには特定の素材が必要となる場合が多い』
つまり今回の場合、一流のドワーフ鍛冶師であるゴードンさんたちがボク専用に作った物だったところに、『龍爪剣斧』という名前を付けたことでグロウアームズに変化してしまった、ということであるらしい。
やけに簡単に取得条件まで開示してくれたなと思っていたらそれもそのはず、このグロウアームズ、実は『笑顔』の方では結構メジャーなものとなっているのだそうだ。
そうした理由もあって未だ発見自体はされたという報告はないけれど『OAW』の方にも実装自体はされているのではないか、と以前から事あるごとにプレイヤー間では話題になっていたらしい。
ちなみにその龍爪剣斧だけど、現在ゴードンさん以下工房の鍛冶職人たちに取り囲まれるようにして、どこがどう変化したのかを細かくチェックされていた。
まあ、驚いた二人が発した声はあれだけの大きさだったからね。寝ていた人たちも飛び起きてくるってもんですよ。
「見た目には大きな変化はないようだな」
「だが中身、というか数値は変わっているぞ。攻撃力は一つ、耐久値に至っては百も減っていやがる。随分と柔くなっちまったもんだぜ」
これから長旅に出るかもしれないという時に耐久度が低くなってしまっているのは痛いなあ。
装備品の耐久値の回復のためには鍛冶技術を持ったNPCや、〔鍛冶〕の技能を持ったプレイヤーにお願いしなくてはいけないのだけど、どのくらい回復できるのかは個々人の技量によって大きく変わるように設定されているのだ。
つまり龍爪剣斧を安定して使用し続けるためには、行く先々の町や村などでしっかりとした腕前を持つ鍛冶師を見つけ続けることができるのかにかかっているという訳だね。
最悪メイションに持ち込んでプレイヤーにお願いするという手段も考慮に入れておくべきかもしれない。
そんなことを考えている間にも工房の人たちによるチェックは続いていた。
「だがその反面、今まではなかった防御力や魔法力の項目が追加されているぞ」
「今の段階ではゼロみたいだけどな」
「てことは、ミスリルのような魔法金属を使って鍛え直してやれば、今すぐにでも魔法力が上がるかもしれないのか!?」
「いや、そう簡単にはいかんだろう。こいつが本当にあのグロウアームズになっているとすれば、持ち主に使われる必要があるはずだ。そうやって戦闘の経験が積み重なったところでようやっと鍛え直してレベルを上げることができるようになるって話だ」
今の会話で分かるように、一応ゲーム内では珍しくはあるものの伝説級のアイテムというほどのものではないようだ。それこそ鍛冶師の中にはグロウアームズを作り上げて成長させることを目標にしている人たちもいるのだとか。
また、高等級冒険者とか大国の騎士団の団長クラスになれば、所有している人もそれなりにはいるらしい。
それでも一般の人からすれば一生に一度お目に掛かれるかどうかレベルのものではあるのだけどね。
ちなみに、プレイヤーの間では「自分の戦闘スタイルに沿って自由にカスタマイズできる武器」というのが一番広まっているイメージで、その次が「自分と一緒に成長していく胸熱武器」というものだったりする。
要するにそのまんまだわね。
使う側のイメージを書いたついでに作る側としての意見も書いておこうか。
ぶっちゃけ作る側、即ち鍛冶関係の職人プレイヤーさんたちからはあまり好まれてはいなかったりします。
理由は簡単。
勝手に強くなるから。
もちろん先ほどゴードンさんたちが語っていたように、節目としてのレベルアップの際には腕の良い職人による鍛え直しが必要となるので、全くの不要となる訳じゃない。
それでもしょせんは焼き直しや手を入れるという行為に過ぎず、他人の作品や過去の作品に追従することにしかならない、と毛嫌いする人も多いのだとか。
そのため、いざ製作した物が変化してしまったものは仕方がないけれど、レベルアップには積極的に関わることはしない、というスタンスを取っている人が大半であるそうだ。
もっとも、先にも述べたように『OAW』ではまだ発見事例がなかったので、どこまで『笑顔』の状況と同じになるのかは未知数な部分も多そうだけれどね。
うああ……、嫌なことを思い出してしまったあ……。
「どうした、リュカリュカ?いきなり苦虫を百匹単位でまとめて噛み潰したような顔をして?」
ゴードンさん、その例えはどうかと思う。というか、想像しただけで気持ち悪くなりそうですよ……。
まあ、心配してくれているというのは理解できるし、彼らにも関係がない訳ではない。ここは一つ、きちんと説明をしておくべきなのだろう。
「えーと、ですね。あくまでボクの知っている限りという注釈が付くんですけど、メイションではこれまでにグロウアームズが発見されたことはないらしいのですよね」
「そうなのか?俺たちが聞いたことのあるお伽噺だと、想像もつかないような凄え技術が山盛りだっていう話だったんだけどな」
一種の理想郷だとか死後の楽園的な扱いをされているらしいから、職人さんたちの言い分も分からないではない。
とはいえ実物を目にしたことがある身としては、
「それほど立派な場所ではないですよ」
と言って苦笑いするしかなかったり。
「話をグロウアームズに戻すと、存在自体は知られているけど、実際に作られたことはないみたいですよ」
グロウアームズを嫌っている可能性が高いことについては、個々のプレイヤーの考えかたが原因のものなので、話す必要はないかなと思い省略することにした。
「そんな場所に龍爪剣斧を持っていく事になるから、何だか想像もできないことが起こりそうな気がして」
ボクの言葉にゴードンさんたちドワーフ職人の顔が訝し気に歪められる。
こればかりはプレイヤーとNPCという立場の違いもあるから、簡単に理解してくれと言えるようなものではない。
ただ、あれでも厳重にオブラートに包んだ方でして。
既にボクの中では「間違いなく大騒ぎになる」という予感めいたものがあったのだった。
〇新武器の基本性能
特注品ハルバード
攻撃力6 耐久値250
一流のドワーフたちが自らの持つ技術の粋を用いて作り上げた特別な逸品。
ただし、素材がごく一般的なものでしかないため性能自体はそれほど高くはない。
龍爪剣斧(グロウアームズ・レベル1)
攻撃力5 防御力0 魔法力0 耐久値150
名付けによって誕生したこの世にたった一人だけリュカリュカのための専用武器。
変化したことで新たに防御力や魔法力を得ることができるようになったが、反面元の特徴であった高い攻撃力と耐久値は鳴りを潜めることになってしまった。
戦闘の経験を得ることで成長していくことができ、レベルアップするためには一定量の戦闘経験と特別な素材を用いた鍛え直しが必要となる。




