354 NPCたちの最高傑作
本日二話目です。
「ほれ。これが約束していた品だ」
そう言ってゴードンさんが差し出してきた新しいハルバードは、一般的な物やこれまで使用してきた物とは大きく異なっていた。
が、それ以上にボクが驚いたのは、
「これ、試作って感じじゃないですよね?」
どこからどう見てもそれが完成されていたことだった。
念のため〔鑑定〕技能を使用してみたところ、『特注品ハルバード』とだけ表示されていて、試作品であることはどこにも記されてはいない。
しかもですよ!その説明にはなんと、『一流のドワーフたちが自らの持つ技術の粋を用いて作り上げた特別な逸品』と書かれているではありませんか!?
うぉいうぉい、十二レベルでやっとのこと駆け出しを卒業したばかりのボクが持っていいようなものじゃないよ、これ。
熟練の域に達した人たちが、さらなる高みを目指すために製作依頼を検討するような、まさに逸品と呼ぶにふさわしい代物だよ!
「明らかにボクが持つには分不相応な気がするんですけど……」
少々どころではないほど情けないことだけど、誓って言える。
今のボクではこのハルバードの実力を引き出すことなど到底できはしない、と。
「そうはいってもこいつはお前さんに合わせて作っておる。リュカリュカ以外の誰が持ったとしても上手く使うことはできんだろうよ」
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべて、ずいとハルバードを差し出してくるゴードンさん。
「受け取ってくれ。興が乗ったどころか悪乗りしちまったことを否定はせんが、その分わしらの全力を込めている。お前さんとお前さんの大事なものたちを守る一助になるはずだ」
その言葉に部屋の中を見回してみると、奥様を含めて全員が深く頷いていた。
「……ズルいですよ。そんなこと言われたら受け取るしかないじゃないですか」
ひったくるようにしてハルバードを受け取ると、視界が滲んでいることに気が付かれないようにそっぽを向く。
が、視線が集まっていることがはっきりと分かってしまう。
まったくもう!困った人たちなんだから!
そして数分後。ようやく落ち着きを取り戻したボクは、改めて受け取ったハルバードを眺めていた。
さすがボクに合わせて作られただけあって、吸い付くように手に馴染むのを感じる。
余談だけど、部屋にいるのはボクとゴードンさんと奥様の三人だけだ。
他の職人さんたちはいい加減体力の限界のようだったので休んでもらうことにしたのだった。
「昨日、リュカリュカの動きを見て一番扱いやすいだろう形にしてみたというところだな」
柄の長さはおおよそ一メートル強くらいと、初心者用の武器として調整してもらった短槍くらいの長さにまで縮められていた。
以前のハルバードに比べるとかなり短めだ。が、全長という点ではそれほど違いはなかった。
「これ、槍の穂先というよりは短剣かそれ以上の長さですよね」
そう、柄が短くなった分だけ先についていた刃が長くなっていたのだ。
これだけを見れば長い柄を持つ剣のようですらある。
「他の部分もそうなんだがバランスの関係で武器の部分は全体的に肉厚にしてあるから、強力だし頑丈だぞ」
わーお、つまりは凶悪ってことでもあるね。道理でずしりとした重さを感じる訳だわ。
次にハルバードのもう一つのメイン武装である斧刃の部分だけど、これは随分と小さめになっていた。
「リュカリュカの体格上、重さを利用して攻撃するというのは得意ではなさそうに思えてな。実際昨日も振り回すところまでは良かったが、止めることには苦労していただろう」
ゴードンさんの指摘に首を縦に振ることで肯定の意を示す。
訓練や実戦でも上手く命中させられた時はまだしも、避けられた時や流された時などには大きな隙ができてしまっていたものだった。
「穂先を長くしたのはそれの対策も兼ねてということだな。振りによる攻撃の時も、基本は先の剣の部分でこなし、斧刃はここぞという時の決め手として使うようにしてみてくれや」
普段は剣先を用いて薙刀のように取り回して、いざ大ダメージ狙いの時には斧刃でガツンとやる、という扱いになりそうだね。
短いと言っても一メートル以上はある上に重量もあるから、柄の端をもって振り回せば十分以上の遠心力も得ることができるだろう。
そして、ある意味これの目玉ということになるのかな。斧刃の反対側の部分です。
長さの方は精々二十センチといったところだろうか。以前使用していたものは単なる円錐形の突起だったのだが、こちらは楕円の円錐といった様子で柄の方に向かって少し湾曲していた。
しかも内側が先にいくほど鋭く刃物のようになっている。鎌を分厚くした、というのとは少し違うね。
何だろう、つい先ほどもこれに似た形状のものを見た気がする……。ふと、お腹を出したドラゴン――こう書くと、童話か童謡のタイトルみたい――の姿が頭をよぎる。
「……あ、もしかしてドラゴンの爪?」
「ほほう。気が付いたか。そっちのエッ君だったか?そいつの爪やブラックドラゴン様の爪をモチーフにしてある」
なるほど、言われてみれば確かにエッ君の足の爪にも似ているように思えてくるかな。
「昨日の動きを見ていた限り、単なるバランス取りのための飾りではなく、しっかりと使いこなそうとしているのが分かったからな。それなら相応に作っておく必要がある、ってとこまでは良かったんだがな……」
中途半端なところで言葉を区切ったことを不思議に思って見てみれば、どことなく気まずげな顔になっている。
ああ、多分これが悪乗りしたっていうことの気がする。
そんなボクの予想を裏付けてくれたのは、奥様によるゴードンさんたちの暴走の暴露だった。
「リュカリュカちゃん、聞いておくれよ。この人たちときたら、やれ鈎爪形が良いだの剣状が良いだの、いやいやハンマーにして打撃攻撃もできるようにするべきだの何だの言って、夜中の間中大騒ぎしていたんだよ」
「お、おい!?」
「なんだい、本当のことじゃないかい。あれがなければ徹夜する羽目にはならなかっただろうに」
えー……。
つまりなんですか?徹夜してしまったのはこれを作るのが難しかったとかそういう理由ではなく、ロマンを語り合っていたせいだと?
その気持ちは分からなくはないけれど、ゴードンさんを見る目が微妙に白いものになってしまったのは仕方がないことだと思う。
明日も一日二回更新予定ですよー。




