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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十四章 次の冒険に向けて
339/933

339 リュカリュカ 対 ハイパー何とか

 開始の合図と同時に、ハイパーの人たちはボクのことを半円状に取り囲むように動いていた。

 ……え?だからどうしたの?普通そこから数人の同時攻撃とか、巧みな連携の時間差攻撃とかが飛び出してくるものじゃないの?

 そんなボクの疑問はどこ吹く風で、ほぼほぼ正面に立っていた男Aがおもむろに口を開いた。


「さあ、どうする?今からでも謝れば許してやらないこともないぜ」


 今さら何を言っているのでしょうね、この人は。百万歩譲って極めて好意的に解釈するならば、彼らなりの親切であり優しさのつもりだったのかもしれない。

 まあ、顔に張り付いた下卑た笑いが全てを台無しにしていた訳ですが。


 結局のところ、こいつらの狙いはその表情の通りということなのだろう。要するに勝者の権利と称してボクにえっちぃことをしようと企んでいたみたいですよ。

 エロ同人みたいに!


「いくら言葉を尽くそうとしても、相手がそれを理解できないならやるだけ無駄ってものだよね」


 ふっと鼻で笑ってからそう言ってやると、途端に男たちの顔が朱に染まっていく。言葉の裏に込めた「バカと会話をする気はない」という意味合いにはしっかり気が付いてくれたもよう。

 しかし彼らにはそれが限界だったようだ。この時のボクは既に口調や仕草を臆病な女の子から元に戻していたのだが、その事には一切反応しなかったからだ。


「付け上がりやがって!せっかく俺たちが下手に出ていたっていうのによ!」


 あれで下手とな!?

 上下の感覚が狂ってるんじゃないの?


「適当に遊んでやろうかと思っていたが、全力で潰してやる!」


 良かったね。負けの定番パターンを回避できたじゃない。

 でも、今のセルフでフラグが建ってしまった気がしないでもないけれど。


 いずれにしてもボクの方は本気も本気でいかせてもらうよ!


 前方へ踏み出した一歩目の右足をフェイントにして、左斜め前へ駆け出す。

 目指すは半円状に広がった男たちの――ボクから見て――左から二番目、六人の中で唯一遠距離攻撃が可能な弓使いのおっさんだ。


 戦っている最中で身動きが取り難くなっている状態の時に、遠距離から狙撃されることほど恐ろしいものはないからね。

 加えて、遠距離攻撃職の<シューター>は腕の可動範囲を広く取るためだとか、後方に位置することが多いからだとか、様々な理由から基本的には軽装備である事が多い。この男Bもその例にもれず、〔鑑定〕によると他の連中に比べて明らかに防具の質が低かった。

 少しでも人数の差を縮めておきたいボクとしては、真っ先に狙うのは当然の相手だったという訳だ。


 だけど、それは当然向こうも分かっていたことのようで。


「お見通しなんだよ!」


 と男Bの両脇にいた男Cアンド男Dが割り込んでくる。

 ふむ。向かって右手の男Cは片手剣と小さな盾という素早さや手数重視の剣士タイプで、左手側の男Dは体がすっぽりと隠れてしまいそうな大きな盾持ち、つまりはパーティーの盾役を担っているということか。


 そんな彼が左端にいたというのはちょっとどころではなく配置がおかしい気がする。

 が、それを言うならそもそも<シューター>まで一緒になって半円の包囲を敷いていること自体が異常な訳で。

 深く考えていられる余裕もないので、この件はまた今度ということで。


「邪魔!」

「どぅわあ!?」


 得物の長いリーチを生かして、向こうの攻撃圏内に入る前に突きを繰り出す。右手だけの牽制の一撃だったが、まさか斧頭の付いた武器で突いてくるとは予想もしていなかったようで、剣士の男Cは奇妙な叫びを発しながら慌てて飛びのいていた。


「ちっ!だが、来ると分かっていて通すものかよ!」


 迂闊に近付くのは危険と判断したのか、盾男こと男Dは弓使いとボクの間を断ち割るような位置でどっしりと身構えた。

 確かに仲間を守るという意味ではよい選択だったのかもしれない。

 しかし、その動作は弓使いの攻撃を邪魔するということでもあった。


「おい!射線をふさぐんじゃねえよ!?」

「うるせえ!いい加減に曲射の一つくらい撃てるようになれよ!」


 案の定視界を塞がれてしまった弓使いの男Bは、つがえていた矢を下ろす羽目になってしまっていた。

 そして曲射が使えないという重要な情報もゲットです。これでいきなり頭の上から矢が降ってくるのを気にしなくて済む。


「教えてくれてありがと。お礼に冷たいお水をプレゼントしてあげる。【湧水】!」

「なごぼっ!?ごばぼぼばば!?」


 突然顔を覆った水の塊に成す術もなくもがき苦しむ男D。

 よし。先ほど思い付いたばかりだったので、ぶっつけ本番になってしまったが上手くいったようだ。でも思った以上にえぐい絵面になってしまい、内心ビビっていたのは秘密です。


「ごばぼぼばっ!?がふっ!ぜひゅー……」


 結局水の塊は数秒も持たずに消えてしまったが、男Dはすっかり戦意を喪失してしまったようで、自前の大盾に体を預けるようにしてもたれかかってしまったのだった。


「何をしやがった!?」


 悲鳴じみた声を背中に受けながら、盾役の左側を回り込む――右側ではなかったのは男Cからの攻撃を用心したためだ――ようにして擦り抜けて奥にいる弓使いの男Bに肉薄する。


「これで二人目!」

「しまっ――」


 どごっ!という鈍い音を立てて先端の斧、その根元の部分が弓使いの腹部にめり込んでいた。


「がっ、は……!」


 気を失ってどさりと地面に倒れ伏す男B。


「峰打ちでござる」


 いやあ、いくら訓練用の模造武器とはいえ、軽装の鎧に斧刃を打ち込むのは気が引けてしまいまして。

 ともかくこれで一人を戦闘不能、一人を戦意喪失に持ち込むことができたことになる。


 それ以上に大きいのが包囲網を破り、なおかつ遠距離攻撃の手段を喪失させたことだ。

 まだ四人もいるので予断を許さない状況に変わりはないけれど、これでいきなり背後からブスリとやられてゲームオーバーという展開だけは防ぐことができる。


「こいつ、戦い慣れてやがる……!?」

「冒険者になりたての口だけの女じゃなかったのかよ!?話が違うじゃねえか!」


 おやおや?なんだかとっても重要なワードが聞こえてきた気がしますですよ。どうやらハイパーの彼らに妙なことを吹き込んだ黒幕がいるらしい。

 これ、勝たないと教えてもらえないよねえ……。


 はあ……。負けてもいいからデュランさんたちが戻ってくるまで時間稼ぎをするだけの簡単?なお仕事のはずだったのに。


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― 新着の感想 ―
[一言] なんと言う小物感。 なんと言う噛ませ犬感。 とんでもねぇぜ、ハイパープレ……イス……テー○ョン?は。 ……あれ、名前が違ったかな?
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