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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十一章 不機嫌な日常
296/933

296 ズバッと言うです

「僕に意見するなんて生意気、だ……ぞ……」


 ボクの言葉に一瞬強気を取り戻して反論しようとした男性だが、こちらの怒りの雰囲気にのまれてしまったようだ。

 それでも何とかギリギリ最後まで言葉を紡ぐことができたのは正直驚きだった。できることならその根性をもっと別の方面へと向けて頂きたかったところだ、なんて思ってしまったのはきっとボクだけではないはず。


 まあ、だからこそ容赦も何もいらないと腹が決まった。

 これまで以上に強く目元に力を込めながらキッとそいつを見据える。


「あの子がどれだけの苦労と努力をしてきて、どれだけの想いでその一つ一つを推し進めたのかも理解しようとしていないくせに、あの子の成果を語ろうとするな」


 実はこれ、常日頃から感じていたことだったりする。

 どこの誰かも分からない人が、それまでの経過を一切無視して結果だけを切り取るように見て語るというやり口に、ボクはほとほと嫌気がさしていたのだ。


 この傾向はやたらと里っちゃんを持ち上げようとする連中や、反対に無闇に蔑もうとしている人たちの両者に強く見られるものだった。

 前者は生徒会()という立場を利用するようにして、まるで何もかもを彼女一人でやり遂げたかのように演出しようとするし、後者は後者で結果に付随して発生したごく小さな問題を重箱の隅を突くことに終始して、それまでに行ってきた仕事やその内容の一切を切り捨てようとしていた。


 そこに彼女を(いつく)しもうとか育もうとかいう意思は全くなくて、ただ自分たちの駒として有用であるか、それとも邪魔になるのかだけで判断しているように感じられたのだった。

 そして今、目前にいるこの男からはそんなやつらと同じ匂いが強烈に発せられていた。


「あの子は単に才能に恵まれていただけじゃない。その能力の上に胡坐をかくだけじゃなくて、そこからさらに努力することができる人なんだ。だからといってそれを周りに押し付ける訳でもなく、皆が力を発揮できるようにもしてた」


 そう考えると、里っちゃんのゲーム好きは会話のきっかけになったり話題の提供となったりと、重要なコミュニケーションツールとして作用していたのかもしれないね。

 成績優秀で運動神経も抜群、おまけに容姿もハイレベルな美少女となれば、高嶺の花で話しかけ辛い存在だと思われてしまってもおかしくはないもの。


「本当にあなたにそれができると思っているの?人の表面しか見ようとせずに、そして上っ面だけでしか他人と接しようとしていなかった薄っぺらのあなたが?」


 結局のところ、彼の問題点はそこにあるのだと思う。

 中学時代の成果――それに加えて、もしかすると夏期講習でのテストの評価などもあったのかもしれない――だけで里っちゃんを見ていたり、面白可笑しく脚色された噂を真に受けてボクに接触しようとしたりと、判断の基準となるものを全て自分の外に置いてしまっているのだ。

 いや、それどころか最終的な判断すら、外部の評価や噂をそのまま真に受けてしまっているのかもしれない。


 客観的な目線だとか第三者的観点だとか言葉を飾ったところで、そんなことでは自分の意見や考えがない事に変わりはない。

 むしろそういう位置に立っているからこそ、自分はどういった考えになり、どういう風に行動しようとしているのかをしっかりと打ち出さなくてはいけないだろうと思う。


「そんな人と一緒に仕事をすることになるだなんて考えただけでも疲れそうだし、ましてや下に付くなんて苦労しかないのが分かりきっているので絶対に嫌だから」


 ボクの雰囲気にのまれている今ならば、いくら都合の良いことしか聞こえない構造となっている耳でも拒否しているということが伝わることだろう。

 もちろん、後で好きなように解釈し直されることがないように、はっきりした言葉を選択しておくことも忘れない。

 後、先生たちには証人になってもらおうという狙いが少々あったりもしますです。


「優、そのくらいでもういいんじゃないかしら。噂を丸のみにして裏付けすらまともにできないんだから、放っておいてもきっとこれ以上は何もできはしないわよ」


 雪っちゃん……。ボクのことを(たしな)めているように見せかけて、実は止めを刺しにいってるよね、それ。

 あわよくば副会長だった彼女も引き入れようと考えていたのか、その一言で顔面蒼白となっておりますよ。


 それにしても思った以上に良く薬が効いているようだ。これまでの彼であれば青くなるどころか、一つの指摘も受け入れようとすることなく真っ赤になって逆上していただろうからね。


 そしてボクたちから明確な否定の意志を突きつけられた男性は、これまで以上にがっくりと肩を落として先生たちに連行されていったのだった。

 その姿は登場した時の自信に満ち溢れた堂々したものから打って変わって、しょぼくれて弱々しいものとなっていた。

 まあ、だからと言って同情する気なんてさらさらないけどね。


 しかし、微妙にいたたまれない感じになってしまった教室内の空気は気にかかるところ。


「あ、そう言えば最後まであの人の名前を聞いていないや」


 そう言った瞬間、「えー……」という非難とも呆れともつかない声や盛大なため息――こちらは真横から聞こえてきたので雪っちゃんに間違いないね!――に乾いた笑い声などが色々な所から聞こえてきたのだった。


 ……ふむ。身体を張っただけのことはあったかな。

 とりあえず教室内の換気には無事成功したもようです。


 それと彼の名前に関してだけど、最初の態度が失礼千万だったこともあって「興味ない」と撥ね退けてしまったから、その後も聞く機会がなかったというのが本当のところだ。

 クラスメイトの中にも直接の知り合いになっている人はいなかったのか、彼が名前で呼びかけられることはなかった。先生たちがやって来た時にはさすがに名前を呼ぶのかなと思っていたので、ものの見事にスルーされてしまったのは予想外だったけどね。


 まあ、ボクの頭はそれほど出来が良いものではない。覚えるつもりがない名前なんてあっという間に忘れてしまうことになっただろうから、最終的な結果は同じだっただろう。

 特に今は『OAW』で謎解きの真っ最中なので、余計なことで記憶容量を使用したくないという気持ちもあった。


 そんなことを考えていたため、


「『最強生徒会のツートップ』だなんて大袈裟な言い回しだと思っていたけど、案外的を射たものだったのかも」


 ボクたちの話を聞くために残っていた先生の一人がそんなことを呟いていたとは、ついぞ気が付かないままとなってしまうのだった。


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