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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十章 地下遺跡探索2
279/933

279 覚悟を決めろ

 天然物にしろ加工品にせよ、蓄魔石から魔力を取り出す技術は『古代魔法文明期』には発達していない。

 そうなるとこの壁画に描かれている――ボクたちの予想が正しく、なおかつ史実を元にしていると仮定してだが――のは、彼の時代の出来事ではないということになる。

 それでは、一体いつの時代のことなのか?


「答えは簡単。……というか、他に選択肢がないよね」

「そうやな。ここで実は第三の選択肢があった言われても誰も思い浮かばんのとちゃう」

「そもそも私やリュカリュカはともかく、ミルファやエルからそうした話題が飛び出したことがない時点で、誰も知らない可能性の方が高いのではないでしょうか」

「ふむふむ。ネイトの言うことも一理ありますわね。本心としましては誰にも知られていない未知の文明という予想外の展開に(あこが)れるものがないとは言いませんけれど」


 ミルファの軽口に揃って苦笑いになるボクたち。


「今は少々情報過多なところがあるものね。できる事ならそうした心躍る流れは、また今度ということにしてもらいたいよ」


 心底疲れたようにそう言うと、今度こそみんなの口から笑い声が漏れ出したのだった。


 おっと、仲間内で和むばかりして答えを言うのを忘れていた。まあ、バレバレのような気もしますが一応発表しておこう。

 壁画に描かれていた時代とは、この『アンクゥワー大陸』に大陸統一国家が築かれていた時代のことだと思われます。


「あの一連の壁画は、当時の首都だった街を空へと浮かべた様子じゃないかと思うんだ」


 ここから先は完全にボクの予想となるので、そのつもりで聞いて頂きたい。


 そもそも、どうしてそう考えたかという理由から説明するべきだろう。大陸統一国家の時代に大陸を四つに区分したことは以前にもお話した通りだ。

 それじゃあ王や元首といったトップがいたのはどこ?加えて大抵は直轄地だとかそういう場所があってもおかしくないところなのだが、そういった所も存在しておらず大陸はきっちりきれいに四分割されてしまっていたのだとか。


 そこでボクは考えました。「実は『アンクゥワー大陸』じゃないところにトップがいる場所があるんじゃね?」と!


 しかしそうは言っても、別の大陸などから支配となるとリアルでの植民地のようにひたすら搾取する関係となってしまうかもしれない。それでは逆に今の人たちに人気があることの説明がつかなくなる。

 まあ、不満が発生しないように上手く支配していたということもあるかもしれないが、こういうことはどこかしらから漏れてしまうものだからねえ……。


 そんな思いを抱いていたところに今回の壁画の登場となった。

 そして大陸統一国家と結びついた途端、「これだ!」と思ったね。


 今から思い返してみると、みんなが納得していた『古代魔法文明期』時代のことだという説に猜疑心(さいぎしん)を感じてしまっていたのは、心の中にこうした考えがあったからなのだろう。


「空飛ぶ島なら象徴としても申し分ないし、逆に技術力の高さを見せつけて威圧することだってできる」

「確かに、上に立つべきものが座す場所としてはこれ以上ないと言えるかもしれませんわね……」


 位置的にも空の上だしね!と絶好のボケポイントではあったが、混ぜっ返せるような雰囲気ではなかったのでお口チャックです。

 ボクは空気を読める子なので。


「大陸統一国家は成立から全盛期から分かっとらんことばっかりやから、実はそんな秘密があったとしてもおかしはない、か……」


 本当に『OAW』の運営は便利な逃げ方を考えたものだよね。というか、いくら何でもアバウト過ぎて、もはや設定と呼ぶことすらできないような気もする。

 逆にわざと情報を隠しているということも考えられる――むしろそちらの線の方が濃厚かも……――のだけれど、再び世界を支配しようとした妄執に取り付かれてアンデッド化した狂った王だとか、主の最後の言葉を忠実に守り続ける悲しきロボットだの、碌でもない未来しか思い浮かばないのでとりあえず気にしないことにする。


「この時点でわざわざリュカリュカが言ったということにも、当然意味があるのでしょうね」


 さすがはネイト、するどいなあ。

 ……なんて、ここまであからさまにやったのだから、察しない方が無理があるというものか。


「この奥にあるのは十中八九この空飛ぶ島に関わることだろうなと思ってさ」


 恐らくはどくどくへび、もとい『毒蝮』が言っていた「世界を支配する」ための何かも、空飛ぶ島(これ)かこれが関係するものである算段が高い。

 きっとこれまでとは危険の度合いも段違いになってしまうことだろう。生半可な覚悟で首を突っ込んでいい問題じゃない。


 最悪リセットでやり直すことができるとしても、そんな状況には陥りたくはないというのが本音だ。

 なぜなら、それはきっと誰かが命を落としてしまった時だと思うから。


「どうせリュカリュカのことですから、わたくしたちの心配でもしていたのでしょう」


 ミルファにズバリと本心を言い当てられてしまい、返す言葉に詰まるボク。

 思えばこれが敗因だった。


「ですが、冒険者に危険はつきものでしてよ」

「しかもその見返りが、これまで誰からも発見されることがなかった大陸統一国家のものかもしれないとなれば、諦めて手放すなどという選択肢は存在しませんね」


 挑発的な目を向けるミルファに、好奇心を抑えきれないらんらんと輝く瞳で見つめるネイト。


「リュカリュカが何でそんなに怖がっとるんかは知らん。けどな、もううちらはとっくの昔に腹を括ってしもうとるんよ。ええ加減あんたも覚悟を決めや」


 うぐ……。エルに指摘されてしまったように、一番覚悟が中途半端だったのはボクだったようだ。


 改めて仲間たちを、そして大切なうちの子たちを見やる。

 誰一人としてこの先に待ち構えているだろう困難に怖気づいた様子はない。それどころか、その先にある素晴らしい景色のことしか頭にないようですらある。


「困難を乗り越えた向こう側にある景色って、とってもきれいなんだよ」


 ふと、里っちゃんが言った言葉が思い浮かんできた。あれは確か中学の時のことだ。どうして面倒な生徒会長になんて立候補したのかと尋ねた時の答えだったと思う。

 あの時はそう言い切った彼女の微笑みに引き込まれてしまって、それ以上何も言うことができなくなったのだったか。


 しかしさしもの彼女であっても、空飛ぶ島からの景色やそこからの眺めを見たことはないだろう。

 今度はボクが、そんな素晴らしい光景を見せてあげるのも一興かもね。


 そういえば、あの台詞には重要な続きが存在していたのだった。


「すっごく腹立たしいけどね」


 内心で「まったくだ」と頷きながら、ボクは不敵な笑みが浮かんでくるのを止めることができなくなっていた。


最後の里香の台詞の「腹立たしい」には様々な意味が込められています。

あまり細かく解説するのも無粋な気がするので、これ以上は読者の皆様に自由に想像して頂ければと思います。

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