270 見直してみよう
今日も今日とて暗い地下遺跡の中ですよ。
こんにちは、リュカリュカです。
あれからうちの子たちも交えて六人で色々と頭を悩ませたのだけど、壁画の謎を解くことはできずに休憩することになったのだった。
雑魚魔物ことポップモンスターとはほとんど戦ってはいないものの、あの不細工なドラゴン風ガーディアンゴーレムとの熾烈な戦いもあったのだ。疲れていて当然だった。
ボクの方もいい機会だったので、いつもよりは少し早いけれどログアウトすることに。
リアルに戻ると熱いシャワーを浴びて頭の中の煮詰まった思考を洗い流し、クーラーの効いた部屋で気分をクールダウンさせたのでした。
さすがにこの時季はいくら田んぼの多い片田舎と言っても夜でも暑い。いや、むしろ熱い熱帯夜となってしまっている。本当に文明の利器様々です。
一応、『OAW』や『笑顔』の公式掲示板等で大陸統一国家や『古代魔法文明期』のことを調べてはみたのだけれど、成果としては今一つといったところだった。
まあ、大陸統一国家のことはつい先日も有志の人たちによるまとめに一通り目を通したばかりだったからねえ。わずか数日の間にそうそう新しい情報が飛び出してくることなどなかったようだ。
『古代魔法文明期』についても似たようなもので、ミルファやエルが説明してくれたことをより分かり易く編集してくれていた感じだった。そのため分かり易くはあったものの、目新しい情報を発見することはできずじまいとなってしまったのだった。
収穫という観点からはほとんど外れということになってしまったけれど、それでも一日置いて気持ちをリセットできたことは思いの他良い効果を発揮することになった。
ログインしてすぐにある事に気が付くことができたのだ。
「ねえ、思ったんだけどこの壁画全部で一つのことを表しているんじゃないかな?」
そう、二枚だけの繋がりを考えるから訳が分からないことになるのではないかと思ったのだ。
こうやってわざわざ飾ってあるくらいだから、これら全てが謎解きのヒントになっているのかもしれないのだ。
「言われてみたらその通りかもしれん。あの二枚が似とるからついついムキになって考えてしもうたわ」
その辺はゲームの補正というよりも、ボクたちの思考に引きずられた部分があったんじゃないかと思う。だから恐らく、エル一人であればもっと早くこの方針へと辿り着けていたような気がするよ。
「しかし、リュカリュカはようそのことを思い付いたな」
「一日ゆっくり考え直す時間があったからだね」
「一日?」
「あ……。ごめん、間違えた。一日じゃなくて一時間だね」
さらりと訂正しながらも実は内心ではドッキドキものだった。幸い今回はエルだけではなくミルファやネイトにも怪しまれることはなかったけど、うっかりと口を滑らさないように気を付けておかないと。
それにしても、なんだか最近はリアルでの優華としてのものと、『OAW』でのリュカリュカとしてのものの二重生活を送っているような気分になりがちなのよね……。
問題ないとは思うけれど、知らない間に優華とリュカリュカの意識が乖離していたなんてことになっても困る。一度里っちゃん辺りに相談してみるのもアリかもしれない。
まあ、今は壁画の謎解きを優先しよう。もう少しで何かが掴めるような気がしないでもないかもしれないとボクの乙女の勘も輝き叫んでいるのです。
という訳で今度は右から左へと、先ほどとは逆の順番で見ていくことにした。
え、その理由?単に今休憩していた場所から近い壁画から見ようとしただけですが、何か?
「まずは、平原の中にある街だね」
「わざわざ周囲に畑を描き込んでいるくらいですから、実り豊かな土地だったということも表現したかったのかもしれませんわね」
なるほど。そういう捉え方もできるのか。もしもそれが壊滅してしまったのだとすると、大災害なんて言葉では言い表せないくらいの被害が発生してしまったかもしれない。
それこそ、栄華を誇っていた文明が消滅してしまうほどに。
おっと、いけない!こうやって仮説を立てることにばかり捕らわれてしまったから、昨日は頭がパンクしてしまったのだ。
まずは全ての情報を取り込まないとね。
「そして次が謎の魔導機械。周囲の人たちがとっても良い顔をしているから、いいことがあったと考えても問題ないよね?」
「真ん中の機械、でしたか?そのカラクリの完成を喜んでいるのではありませんか?」
ネイト、鋭い!その流れはアリだと思う。
……っとと。仮説以下略です、はい。
「真ん中にあったのは、ああ、鉱山やつだね」
「しっかし、原石からこないに綺麗やったら素人目にも価値があるいうて分かるやろうし、盗掘やら何やらで管理が大変な事になっとったやろうな」
確かにそうだけどさ……。やっぱり裏社会に長年いると考えもそっち方面に染まりがちになるのだろうか。そんなちょっぴり方向違いの意見を受けながらも次の壁画へ。
「もはや山というよりも柱だよね。おおう!天を支える柱とか何気にカッコイイ言い回しかも!?」
「……喜んでいるところに水を差すようで申し訳ありませんけど、それ、昔から良く言われている言葉ですわよ」
「そうやな。むしろ使い古されとるやつやで」
「なんとっ!?……くっ、まさか時代が既にボクに追いついていただなんて……」
「ああ、まあ、もう、それでええわ……」
エルの言い方がとっても投げやりに!?ちょっとからかい過ぎたかな。それにしてもどこの世界での人たちも似たような感想を持つものなんだね。
はい、そこ!運営というリアルの世界の人間が作った世界だとか冷めた指摘は要りませんよ。
「実際は深い森が周りを取り囲んでいるので、このように見えるものではありませんね」
「そうなの?」
壁画からはすそ野の一部に木々が密集している様が見て取れるだけなのだけれど。
「平野部の北側は比較的狭いですが、それでも数日は歩かないとふもとにまで辿り着けないそうです」
ネイトの話によると、山岳地域となる南方はとんでもなく広大な樹海となっているらしい。生息している魔物も強力なものが多く、大霊山の威容も加わって周辺は半ば禁足地帯となっているのだとか。
そして最後、例の島の壁画に前に戻ってきた。
「そういえば、島だ島だとか言っていたけれど、本当は島じゃないかもしれないんだった」
そんなことまでド忘れしていたとは……。昨日のボクたちは相当頭が煮詰まってしまっていたんだね。




