250 発見すれど
採取していた新しい薬草の詳しい情報を知ろうと〔鑑定〕技能を使用した、まではごく普通の流れだった訳ですが、問題はその後に発生した。
調べるつもりだった『謎の薬草』改め『アップップ草』――名前はふざけたものだったが、作成する薬のランクを上げるという中級薬品作りには欠かせない素材の一つだった――の名前と説明の向こう、視界の外れにも文字が躍っていたのだ。
何だろう?と思い注目してみると……、『地下遺跡への入り口』と読めた。
「にょわあああ!?」
叫んでしまったボクはきっと悪くない、はず。
だってまさか休憩というか離脱というかした途端に、探していたそれを見つけてしまうだなんて誰も予想していなかっただろうから。
「リュカリュカ!?」
「どうかしましたか!?」
「な、何事やねん!?」
叫び声を聞きつけ慌ててやって来たみんなに、例の箇所を指さしながら告げる。
「えっと、地下への入り口を見つけちゃった」
その後、三重奏の叫び声が辺りに響き渡ったのは言うまでもない。
「それにしても、本職でもないのにようこんなん見つけられたな」
エルの口調に呆れたような色合いが混じるのも仕方がないというものだろう。
それというのもこの『入口』、どこからどう見ても風化した崩れかけた元砦の外壁の一部にしか見えなかったからだ。
それこそ彼女が言ったように本職、つまりは<シーカー>や<シーフ>といった系統の職業の人でなければ判別できないほどに巧妙に擬装されていたのだった。
「まあ、リュカリュカですもの。そういうことだってありますわ」
「そうですね。リュカリュカですから」
「いやいや、二人とも。それ、何の説明にもなってないから。というかきっと偶然だよ、偶然」
よく分からない理屈で納得しているミルファとネイトに突っ込みを入れながらも、内心ではその可能性もありそうだと考えていた。
正確にはボクではなく、プレイヤーでなければ発見することができないか、もしくは最低でもプレイヤーがきっかけを作らないと見つけることができない仕様になっているのではないかと思ったのだ。
この先に何が隠されているのかは分からないが、エルたちの反応から察するにワールド全体に関わってくるような代物が設置されているということも十分にあり得る。
そんな重要ポイントがプレイヤーを無視して解放、攻略されるようなことがあるだろうか?
まあ、『笑顔』のような大勢のプレイヤーが同時に一つのワールドに繰り出していて、NPCも含めて世界と物語を形成していくようなタイプのゲームであれば、一つの特徴としてそれもアリということになるのかもしれない。
しかし、一人のプレイヤーに対して一つのワールドが存在する形式だと、逆に特性を打ち消すことにもなりかねない。
特に『OAW』は――初期状態では――全てのイベントを体験することができる事をウリの一つにしている。よって、重要イベント発生ポイントがNPCたちによって勝手に攻略されるようなことはまずない、と言い切ることができると思えたのだった。
「それでエル、開くことはできそうなの?」
先輩ゲーマーによると、こういう所には罠や仕掛けが施されているのが定番らしい。なので、入口を見つけられたからといって簡単にその先へと進めるとは限らないのだそうだ。
先日会った時に、もうすぐ墳墓探索をすることになりそうだと話をしたところ、喜々としてそうしたセオリーなどなどを教えてくれました。
「……ダメやな。リュカリュカが言うたようにここが入口なんは間違いないみたいなんやけど、このまんまやと情報が足りてへんのか、それ以上のことはさっぱりや」
残念ながら今回もそうしたセオリーの通りだったみたい。
ただ、想定と違ったのは、
「え?ヒントも何もないの?」
「あらへんなあ……」
ええーー……。
そりゃあ、盗掘防止策として実際にはヒントなんて存在するはずがないというのは理解できる。が、ゲームなのだからそこまで難易度を上げなくてもいいのではないだろうかとも思ってしまう。
一応、見落としがないか再度〔鑑定〕技能を使用してみたものの、最初に表示された『地下遺跡への入り口』以上のことが浮かび上がってくることはなかったのだった。
「別な場所に解除のための仕掛けがあるということなのでしょうか?」
「別の場所に?そんなことがありますの?」
ネイトの呟きを拾ったミルファがエルに尋ねる。
「それなりにようあるで。一見ただの行き止まりの部屋に扉を開くためのボタンが隠されとったいうんはよく聞く話や。うちが遭遇した嫌らしいもんやと、一定数の罠を作動させることでようやく鍵が開く扉っちゅうんもあったわ」
うっわ、えげつない!
他にもエルが紹介してくれた仕掛けは、互いに目視できない場所にある複数のボタンを同時に押さなくてはいけないだとか、パーティーの誰かを残さなくてはいけない等々、仕掛けた人は絶対性根が捻くれていると思わせるもののオンパレードだった。
「後半はともかく、最初のやつは遺跡探索の基本みたいなもんやで。……って、すっかりド忘れしてしもうてたけど、そういやあんたらはまだ冒険者になってから日が浅いんやったな」
ボクとてようやく冒険者になってから一月過ぎたというところで、ミルファに至っては公主様の従姉妹と本来はこんな所にいるはずがないような良いところのお嬢ちゃんだからねえ。
ネイトからは詳しい遍歴を聞いていないのでよく分からないが、ボクたちに合流した時のレベルが七だったのでまだまだ新米の域だったと言えると思う。
「それじゃあ、引き続き怪しい所がないかを探索?」
「そうなるわ。ただ、入口が外壁部分にあったんやから、仕掛けも同じ外壁側にある可能性が高いで」
少しでも探索する範囲が狭められるならそれに越したことはないです。方向性も何も分からない状態だと、何をどう探せばよいのか分からないから精神的な疲労が大きくなるんだよ。
「あ、ミルファはエッ君とリーヴと一緒に草刈りの続きをお願い」
「わたくしだけ仲間外れですの?」
「違う違う。もうすぐお昼ごはんの時間になるから、腰を落ち着けられる場所を確保しておいて欲しいの。ある意味最重要任務だよ」
最重要任務と聞いてすぐに機嫌を良くしたミルファは、うちの子たちと一緒に張り切って草刈りを再開したのだった。
「クンビーラの公主一族の御令嬢に雑用をやらせるとか、ほんまあんたはどんな神経しとるんよ……」
「ただの適材適所だよ」
ジト目のエルからの抗議にさらりとそう答えて軽く肩をすくめると、ボクは少し離れた位置にある外壁跡の石材の塊へと向かって歩いていくのだった。