24 エッ君のステータス
えー、エッ君のステータスですが、〔鑑定〕を使うまでもなく普通に確認することができました。
ステータス画面の下部にテイムモンスターの項目が追加されていて、そちらを開くとエッ君のステータスが表示されたのだ。
そして肝心のステータスがこちら。
名 前 : エッ君
種 族 : ドラゴンパピー(エッグ状態)
職 業 : テイムモンスター
レベル : 1
HP 40
MP 35
〈筋力〉 7
〈体力〉 4
〈敏捷〉 5
〈知性〉 3
〈魔力〉 7
〈運〉 4
物理攻撃力 7 物理防御力 4
魔法攻撃力 7 魔法防御力 7
〇技能
〔瞬間超強化〕(1)〔竜帝尾脚術〕〔不完全ブレス〕
〇装備 手
・なし
〇装備 防具
・なし
種族はテイムする時にも言われていた通り、ドラゴンパピーのエッグ状態という変わり種?なのはいいとして、テイムモンスターって職業なの?
それはともかく、能力値は筋力と魔力の二極集中といった感じだ。まあ、ブラックドラゴンをぶっ飛ばしたくらいだから、理解できなくはない。もっとも、それだけが理由じゃなかったのだけど、それはまた後でお話することにする。
体力が低いのはエッグ状態である影響の気がする。どう言いつくろっても卵は卵、耐久面では劣ってしまうということなんだと思う。
運が少し低いのは……、さらわれて来ちゃった訳だから当然なのかも。
そして一等低い知性だけど、これは決しておバカという意味ではなく、技能の熟練度上昇を抑える狙いがあるように思える。
それというのも、エッ君が持っていた技能は三つだけだったのだけど、どれもとんでもない強さを誇るものだったからだ。
〔瞬間超強化〕…一秒にも満たない刹那の間だが、全能力値を爆発的に強化できる。強化する割合によって使用するMPが異なる。
〔竜帝尾脚術〕…太古に竜族を統べた竜帝が興したとされる技の一つ。主に尻尾や脚を用いた格闘戦術。
〔不完全ブレス〕…ドラゴンのドラゴンたるゆえんであるブレスを吐くための技能。だが、色々と足りていないため、不完全なものにしかならない。使用するには大量のMPが必要となる。
もう、どこの主人公ですか?っていうくらいのハチャメチャぶりだよ!本当にこんな子をテイムモンスターにして大丈夫だったのかのかしらん?
もちろん、今さらダメと言われても返すつもりはないけど。
もうエッ君はうちの子なのです!
とりあえずあの小さなエッ君が巨大なブラックドラゴンをぶっ飛ばせた理由が、一つ目の〔瞬間超強化〕の技能にあることは間違いないだろう。
その後にぐったりとしていたのはMPを一気に消費してしまったからなのだと思う。
余談だけど、技能の下に(1)と記されているのは熟練度のようで、ブラックドラゴンへの攻撃を行ったことでしっかりと獲得していたらしい。
そして後気になるのが、装備が何もないというところだ。
武器の方はともかく、防具というか衝撃を吸収できるような何かを身に着けさせておきたい。見た目が卵だからね、何かの拍子に割れてしまいそうで、ちょっぴり怖いのですよ。
お金が溜まり次第、何か考えることにしよう。
「それでエッ君はどの技能の熟練度をアップさせたいのかな?」
尋ねると体を傾けて悩み始めるエッ君。その愛らしい仕草に思わず和んでしまう。
ちなみに、ボクの個人的な意見を述べるなら〔竜帝尾脚術〕かな。基本的にMPを使わないこと、どんな場所でも臨機応変に使用できそうなことがその理由だ。
ぶっちゃけてしまうと、残りの二つは威力が大き過ぎるように感じられるのだ。森を消し飛ばしてしまったとか、街の外壁に穴が開いてしまった、ということが普通に起こりそうで、ちょっぴり、いや、かなり不安だったりする。
とはいえ、ここはエッ君の自主性に任せるつもり。なにせ最終的にはどれも鍛えていく必要がありそうだし。
正直なところ、もしかすると熟練度が上がることで制御力も上がっていくかもしれないという淡い期待もありますです、はい。
そして悩むこと五分、エッ君は自分では決めることができずに泣きついて来たため、ボクなら〔竜帝尾脚術〕を選ぶことをその理由も含めて説明してあげた。
「だけど別に今すぐに決めなくちゃいけないってことはないんだよ」
偉そうなことを言ったけど、ボクだって自分の技能ポイントの使用先を決めかねているのだから。
結局その一言が決め手になったようで、エッ君の技能ポイントの使用も、また後日ということになったのだった。
何とも優柔不断なボクたちだけど、こうやって色々と悩み考えることも『OAW』の楽しみ方なんじゃないかと思う。
……よし。自己弁護完了!
「悩んだら本格的にお腹が減ってきちゃったね……」
よくよく考えたらエッ君に出会う前に、屋台で焼かれているお肉の良い匂いを嗅いで――食べた訳じゃないです――以降、何も口にしていないんじゃないだろうか。
この宿に着いてからも疲れから、そのままログアウトしてしまったはずだ。
ステータスを開いてみると、空腹度がとんでもないことになっていた。表示そのものも注意を示す黄色を超えて橙色になっているし、このまま放置していれば近い内に赤色表示になってしまい、『飢餓』の状態異常が発生してしまいそうだ。
これはピンチが危険だと、エッ君を抱いたままボクは急いで一階にある食堂へと向かって行くことになったのだった。
「おや、お嬢ちゃん。ようやくお目覚めかい?……なんだか顔色が悪くないかい?」
会って早々、女将さんから心配そうな顔を向けられるボク。ちょっとどんな顔色になっているのか不安になってきた。
ちなみに現在のゲーム内時間は午前九時。ようやく、なんて言われても仕方のない時間帯だった。
「あー、お腹が空いているだけなので大丈夫です。そんな訳なので朝ご飯を下さい」
「なんだそうだったのかい。私ゃてっきり昨日のことでどこか怪我をしていたのかと思ってしまったさね」
見ず知らずのはずなのに優しい言葉をかけてくれる女将さんに心が温かくなる。
が、お腹の方は急激に空腹を訴え始めていた。食堂に充満している美味しそうな匂いに触発されてしまったみたい。
「うぅ、限界がやってきそうなので、早めにお願いしますぅ……」
「あはははは。すぐに持ってきてあげるから、好きな席に座って待ってな」
「はいぃ……」
「そうだ、その子の分はどうするさね?」
ふらふらと手近な席へと歩いていると、女将さんから問われる。
「その子?」
「そう、その子」
と指さした先にいたのはボクに抱かれてぶらぶらと足を揺すっているエッ君だった。
「えーと……、一応ボクと同じく一人前をお願いします」
「はいよ。椅子に座る前に倒れるんじゃないよ」
遠ざかっていく女将さんの笑い声を背中に、四人掛けの丸いテーブルへと辿り着いたボクは、やっとのことで席の一つへと腰を下ろす。
こんな具合で、ゲーム二日目はどうにも締まらない朝の一コマから始まることになったのだった。