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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十七章 『銀河大戦』3 二日目
225/933

225 巨大ロボ発進!

 激突とは言ってもすぐさま大規模な戦闘になるのではなく、にらみ合いや相手の出方を探り合うという小競り合い程度が続くものとなっていた。

 まあ、開始から十分の間はリスタートペナルティが適用されるので、両者とも無理は禁物だと考えているのかもしれない。


 そして、硬直している隙を突くようにして、三分の一くらいの人たちが戦列を離れてばらばらに後方へと下がって行く。


「ほうほう。まずは一気に押し込まれないように大勢で前線に向かっておいて、そこから様子見をしながら後退してマスの陣地化を進めていくと」


 ボクのような素人目線から見ても上手い作戦のように思える。『笑顔』の方だけじゃなく『OAW』側にも大人数での戦闘に慣れた人が混ざっていたのかもしれないね。

 このままの調子で推移するなら、大きく状況が変化するのはリスタートペナルティが消滅する十分後になりそうだ。


「でも、運営がそんな消極的な展開を見逃してくれますかね?」


 ボクの言葉にあちらこちらから「え?」という疑問の声が上がる。

 スクリーンから聞こえてくる音声が比較的静かだったこともあって、ボクの呟きは思った以上にたくさんの人に聞こえていたようで。


「確かにここの運営ならまどろっこしいことを嫌うかもしれないな」

「だけど、いくら運営と言っても直接手を出すようなことはしないでしょう?」

「さすがにそこまでやっちまうと、プレイヤーからの信頼も何もかもなくしてしまうだろうからなあ」

「だよなあ。仮にも数年間はサービスを提供し続けてきているんだし、その辺のプレイヤーの心の機微とか、世間の反応とかはちゃんと理解しているはずだぜ」


 その点にはボクも賛成だ。それに何よりそこまで自分たちの都合や好みを優先させるような人たちだとは思いたくはない。

 ただ、


「戦況が硬直しないように、あらかじめ仕込んであるという可能性はあると思うんです」


 例えば、両者ともに行動せざるを得なくなる第三の勢力になるような存在とか。


「仕込むって……、まさか、隠しボス!?」


 と誰かが叫んだと同時に、スクリーン内でも大きな動きがあったようだ。聞こえてくるいくつもの悲鳴じみた声から察するに、どうやら本当に隠しボスが登場してしまったらしい。


「ちょっ!?でっか!?」

「何だよあの大きさ……。十メートルくらいはあるんじゃないのか?」


 ずんぐりとしたその体形は通常のロボットと変わらないが、問題はそのサイズだ。

 目算で近くにいたプレイヤーの人たちと比べてみても六倍くらいはありそう。運営がイベント後に公表した設定によると、頭の先端までの高さが十メートルと四十センチ、横幅は十三メートルもある大型拠点防衛用ロボット、というのが隠しボスの正体だった。


「こんなに大きなロボットをどうやって隠していたんだか」


 まあ、ゲームだから何とでもなるということなのだろうけれど、これほど「隠し」という言葉と合わない存在もないように思えてしまう。


 などとボクたちが他人事のように考えている間に、スクリーン内の当事者たちは行動を開始していた。

 物理、魔法を問わず遠距離攻撃ができる人はその場から攻撃を、直接接近攻撃が得意な人は巨大ロボの元へと移動し始めたのだ。

 反対に隠しボスから遠ざかっていく人たちもいる。レベルが低かったり戦闘が不得手だったりする人たちだろう。


「ペナルティがある状態だとどうしても腰が引けるから一旦下がるのは正解ね」


 そういう状態だとどうしても攻撃に身が入らないのでダメージは低くなりがちだ。

 加えて無意識に体の動きが悪くなっていることも多いので防御面でも能力が低下することになる。当然周りの人がフォローに入らなくてはいけなくなり、その分攻撃の頻度が下がることも見逃せないマイナス要因だ。


 何よりそうした不安定な気持ちは伝播しやすい。ただでさえ強敵と向かい合っているのだから、気持ちくらいは強く持っていないと戦線があっという間に瓦解してしまいかねない。

 そのため、こういう時こそ先頭に立って皆を引っ張って行けるような人が必要になるのだけれど。


『いやっほう!俺様が一番槍だぜい!!』


 スクリーン内で大騒ぎしながら巨大ロボに突撃して行っている人がいる。いや、あなたの武器はどこからどう見ても槍じゃなくて金棒ですよね?というか金属バット?

 それに遠距離攻撃系の人たちが既に何十発も攻撃を当てているから一番とは言えない気がする……。


『おりゃ!』


 ガキン!と良い音を立てたまでは良かったのだけど。


『か、堅え……。手が……。!!!?げひゃあ!?』


 ゲシッ!

 ゴロゴロゴロ。

 バタリ。


 衝撃で手がしびれてしまったのか、立ち止まってしまったのが運の尽き。巨大ロボが歩く動作に巻き込まれるような形で蹴り飛ばされた彼は、転がって行った先で動かなくなってしまったのだった。

 さらにHPもなくなってしまったのかスタート地点へと強制送還されていた。


『えええええー……』


 そのあまりにも情けないやられっぷりに、スクリーンの中では不満声の大合唱が巻き起こる。


「定番と言えば定番の流れだけど、巻き込まれる側は堪ったものじゃないわね」

「しかも隠しボス、攻撃されたことに気付いてなかったわよね?反撃じゃなくてただ歩いただけでしょ」

「他のプレイヤーたちの反応からして、あらかじめ打ち合わせていたネタって訳でもなさそうだ。ということはあいつ、素であれなのか?」

「まあ、ロールプレイという可能性もあるから……」

「震え声で言われても説得力ねえよ。むしろ余計に疑ってしまうわ」

「それ以前に懲りた様子もないあの態度を見ると、どうやっても素だとしか思えないから」


 ほら、と指さされた方を見てみると、先ほどの突撃していった彼がスタート地点で『頑張れ!俺様が復活するまで耐えてくれよ!』とか叫んでいた。

 うん。それ、応援というよりは自分の状況に酔っているだけだよね。


「これは少なくとも隠しボスを倒しきるまでは、あのプレイヤーに振り回されることになりそうよね」


 隣のお姉さんの予想は見事的中して、件のプレイヤーは周りの迷惑もかえりみずにひたすら巨大ロボへと突撃を繰り返していくことになる。

 最初こそ歩調を合わせるように注意していた人たちも、『大丈夫だ!必ず倒してみせるから俺様に任せておけ!』という斜め上の返答についには説得を諦め、巨大ロボの反撃に巻き込まれないように用心するのみとなるのだった。


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