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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十七章 『銀河大戦』3 二日目
221/933

221 原因究明

 エキシビジョンバトルでの変更点について話し合っていたところ、突如近くの床に魔法陣が描かれ光り輝き始めた。


「今度は何事だ!?」


 と周囲の人たちが騒然とし始める中、ボクは一人落ち着いて状況の推移を見守っていた。

 理由としては、一つは慌てた雰囲気に乗り遅れてしまったこと。こういう時に周囲の空気に乗り遅れてしまうと、逆にひどく冷静になってしまうものだったりするのだ。

 そしてもう一つ、ゲーム本編ならばともかくプレイヤーばかりが集まっている現状でそんなことをやらかす心当たりが一人しかいなかったから、である。


 そしてその予想に(たが)うことなく、収まった光の中から現れたのは、なんかもう、腐れ縁と言ってしまってもいいんじゃないかな?とすら思えるほど良く知った人だった。


「ぐーてんもるげん」


 リアルでの中学時代からのクラスメイトのように、気軽な様子で片手を上げながら挨拶をしてきたのは、言わずと知れたにゃんこさん(アウラロウラ)さんだった。


「なんでドイッツ語!?」

「凄え……。近くで見たら本当に猫人間だ」


 そんな彼女を見てざわつき始める『笑顔』プレイヤーたち。それなりに目撃機会が増えてきた『OAW(あちら)』とは違い、『笑顔(こちら)』ではまだまだ馴染みが薄い存在だ。昨日初めて彼女の姿を見たという人も多いだろうから仕方のない反応ではあるね。


 当の本人は『迷子探索班班長』と書かれた腕章に誰も触れないことが不満だったようだけど。

 もちろんボクも突っ込まないよ。確実に話が脱線することは目に見えていますので。


「おはようございます。アウラロウラさんがやって来たということは、原因の特定が完了したということでしょうか?」

「さすがは『テイマーちゃん』ですね。よくお分かりで」


 すぐに本題に入ったので少しばかり寂しそうにしながらもその通りだと答えてくれる。

 しかし、珍しいことにその後に「ただ……」と歯切れの悪い言葉がくっ付いていた。


「すぐに解決するのが難しい、もしくは解決するためには手間と時間が掛かる、といった辺りですかね?」


 思い付いたことを口に出してみると、残念ながら当たっていたようで神妙な顔で頷いたのだった。


 さて、勘の良い人ならもうお気づきのことだと思うけれど、ボクの台詞は単に言い方を変えただけでどちらも同じことを指している。

 要するに、エキシビジョンバトルの開始時間までにボクが本来いなくてはならないはずの場所に戻ることはできない、ということだ。


「困りましたね」

「いや、全く困っているようには聞こえなかったんだけど!?」


 おっと、いけない。内心の「リーダーなんて訳の分からない重責から逃れることができたかもしれない」という気持ちが知らず知らずの内に声に現れてしまっていたらしい。

 頑張って語尾に音符()お星さま()が付くのは回避したが、声音自体は変えられなかったようだ。

 とりあえず、言い繕おうとすると余計に怪しいことになるので、ここはしれっと何食わぬ顔でスルーしておきますよ。


「先にワタクシの方から原因と現状をお知らせしますので、その後にどうするのかを判断すれば良いのではないでしょうか」


 アウラロウラさんがそう提案してくれたので、これ幸いと従うことにしたのだった。

 ところが、彼女の第一声はまさかまさかの言葉だった。


「狙った訳ではありませんよね?」

「はい?」

「ですから、二人で共謀してわざとこの状況を発生させたのではありませんよね?」

「ちょっと待ってください!まさかボクが疑われているんですか!?なんで!?というか二人!?」


 何がどうなっているのかさっぱり分からないボクは、本日一番の混乱の大渦に巻き込まれてしまっていた。


「その様子からすると、やはり無自覚で偶然の一致だったということのようですね……。『テイマーちゃん』、疑うような真似をして申し訳ありませんでした。ですが、前提としてこれだけは確認しておかなくてはいけなかったのです」


 深々と頭を下げるアウラロウラさんを見て、頭の中で急速にパニック状態が収束していくのを感じた。


「とりあえず、説明の続きをお願いします」

「分かりました。今回の件ですが分かり易く噛み砕いて言うと、転移の際に『テイマーちゃん』と『コアラちゃん』の認識を取り違えてしまった、ということになります」

「ということは……」

「はい。ご想像の通り『コアラちゃん』は本来あなたが送られるはずだった『OAW』プレイヤーの待機場所にいます」


 先ほどの二人というのは、ボクとユーカリちゃんを指していたのだった。しかも話はそれだけでは終わらなかった。


「実はあなた方二人は、全くの同時刻に転移装置に足を踏み入れていたのです。その上、体の動きも完全に寸分の狂いもなく一致していました!」


 叫び声に近い口調で言い切ったアウラロウラさんは、画面を展開するとその時のボクとユーカリちゃんの姿を見せてくれた。


「うっわ!完璧なシンクロ状態じゃん!?」

「装備品が違うから辛うじて別人だと分かるけど、そうでなければ見分けがつかなかったかもしれないわね……」

「凄え。双子凄え」


 呆気に取られていたボクの代わりに、映像を見た周囲の人たちが次々に感想を口にしていた。

 本当は双子ですらないとカミングアウトしたら、どんな反応をされるのか見てみたい気もする。逆にちょっと怖いものがあるかもしれないが。


「折悪くと言いますか、お二人ともそれぞれのゲームの方へと一旦ログインして、そこから会場となっている特別区画(専用サーバー)に移動したことも悪い方向へと働いたようです。仮にログイン時に直接こちらへと来て頂いていれば、プレイヤー認証があるので間違うことはなかったと思われます」


 会場が設置されたサーバーは外部とは直接的には接していないために、セキュリティ等の機能がそれぞれのゲームの者よりは一段階低く設定してあったのだそうだ。

 これは問題点などが発生した時に、アウラロウラさんたちスタッフが臨機応変に介入することためでもあったらしい。


「体形から動きまで全て同じで、肝心の顔つきも皆さんご存知のように瓜二つでしたから。この管理システムでは正確に判別することができなかったようです」


 それでも二分の一の確率で正しい方へと送られたかもしれないのだから、つくづく今回は運が悪かったということなのかもね……。


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