210 三回戦5 最後の大詰め
まあ、ですね。自信を取り戻したからといって勝利することができるかと言えば、そうではない訳でして。
元々『じゃんけん勝負』は挑まれる側のレベルが高い方が有利になっている。結局ボクは二人目でスタート地点へと返却されることになりましたとさ。
「むしろ一人には勝利できてしまったことの方が驚きなのだけど。その相手のプレイヤーって、さっきから話に出てきているレベル四十の人でしょう?」
「そうです、そうです」
「その結果だけを聞くと大金星よね」
「実際のところはそのプレイヤーさんの自滅に近い状況でしたけどね」
どうにもボクに対して苦手意識が付いちゃったみたいで、出す手がことごとく大外れになってしまっていたのだ。
そしてボクの敗退後、残った三チーム七人でマス取りのための仁義なき戦いが繰り広げられたのだとか。
その隙に遥翔さんがこっそりと他チームの陣地となっていたマスを頂いたり、その他のメンバーが足元固めと防衛線の守りに注力したりと頑張ってくれたお陰で、何とか他のチームに追いつき、時には追い越せるまでになっていたのだった。
まあ、残念ながらリルキュアさんは強いプレイヤーと遭遇してしまったためにボクと一緒にスタート地点でお留守番ということになってしまっているけれど。
ふむ。こうやって振り返ってみると、『じゃんけん勝負』に負けはしたけれどギリギリ自分の役割は果たすことができたという感じかな。
「残るペナルティタイムはボクが二十秒ちょっとで、リルキュアさんが三十七秒ですか……」
残り時間も少ないので、このままチームの皆に任せてしまっても良いくらいなのだけど。
ただ、勝利を確実なものとするためにはもう一押しが欲しいというところ。
「とりあえず皆がいる前線まで行くのは確定事項よね」
「ですね。そこからどうするかが問題なんですが……。ここは一つ全員で攻め込んでしまいましょうか」
「全員って、まさか戦闘が得意なマサカリたちだけじゃなくて、私たちもってこと?」
「もちろんボクたち含めて全員ですよ!どうせ時間は後わずか。どさくさ紛れでマスを取ることができれば勝利は確定ですぜ、姐さん!」
「誰が姐さんか。まあ、ペナルティになったところで大して損になる訳でもないし、チャンスではあるってことなのかしら」
さすがはリルキュアさん。残り時間が一分を切ることになるので、通常よりもリスクが少なくなっているところにも気が付きましたね。
さらに拮抗に近い状況らしく、どのチームもあっちこっちでマスの取り合い状態になっている、つまりこちらに注意を払っている人の数が少ないのも今が狙い目である理由の一つだ。
「運が良ければ最後の最後で、一気に数マスを自陣地化することができるかもしれませんよ!」
「『テイマーちゃん』……。まったくもってその通りなのだけど、なかなかに悪どい手のように思えてしまうわ」
苦笑いを浮かべつつ、リルキュアさんが素直な感想を述べてくる。
意識の隙を突くようなやり方なので、その言い分は否定できないところはあるね。正面切って名乗りを上げて正々堂々と戦う事に比べたら、どうしてもずるっこに思えてしまうだろう。
この辺りはそれぞれの感性の問題だから仕方のない部分はあると思います。
「えーと……、どうしても気が乗らないということなら止めますけど」
「いいえ、やりましょう。ああは言ったけれど、戦術としては有効だってことは理解できるから。それに、どうせなら勝ち上がっていきたいものだわ」
気を遣ってくれた部分もあるのだろうが、そこは同じチームの仲間同士だ。多少の融通は聞かせてくれるということなのかもしれない。
それに今回の公式イベントはトーナメント形式だから、負ければそこまでになってしまう。そうした後がないことも含めて、勝ちたいという欲求が少なからずあるということなのだと思う。
「(皆さんお疲れ様です。スタート地点よりボクこと『テイマーちゃん』がお知らせいたします)」
まずは情報の共有でメンバーに連絡を取る。
「(ぬおっ!?なんだ、また何か考え付いたのか!?)」
「(こっちはいつでもいけるぞ!向こうの連中、牽制ばっかりでいい加減飽きてきた)」
「(という状況なので、作戦があるならヤマトさんの集中が切れる前にお願いします)」
防衛線にいる三人はにらみ合いに近い状態だから余裕があるみたい。
「(すみませんが自分はもうギリギリなのでこれ以上は!)」
「(遥翔さんはそのまま色々な所を逃げ回って引っ掻き回してくれれば問題なしです!)」
「(ら、らじゃー!)」
対して前線のさらに先にいる遥翔さんは本人の言う通り他チームのプレイヤーに捕まるかどうかギリギリで走り回っているようだ。
それだけでなく時折マスを自陣に変化させていた。
いや、まぢでどうやっているんですかそれ?
「(残り時間が少なくなってきたので全員で一気に攻め込みましょう!)」
「(全員で!?でも守りの方はどうするんだ!?)」
「(そこはボクとリルキュアさんで対応しますから大丈夫!)」
まあ、主にリルキュアさんになると思うけど。
それと多分他のチームは慌ててしまってそれどころじゃなくなるような気がする。
「(言ってるそばからペナルティタイム終了!ささ、ずずいっと行っちゃってください!)」
スタート地点から駆け出しながら、作戦開始の合図を送る。
「お、おう!」
「よっしゃ!任せろ」
「(後ろはお願いします)」
言うや否や三人は近くの敵チームのマスへと侵攻しては迎撃に近付いて来たプレイヤーを撃破していた。
お、おおう……。守りの態勢が続いたことで結構ストレスが溜まっていたのかしらん。
加えてマサカリさんの方はロボットマスだったらしく、すぐに一つ自陣が増えていましたよ。
「(リルキュアさん、お先です!皆にはああ言いましたけど、どんどん前に出てくれていいので、お願いしますね)」
「(了解。ヤマトたちのいる方から駆け上がるわ。『テイマーちゃん』も頑張って!)」
見た目美幼女の応援を背に受けながら最高速でひた走る。いやまあ、チャット内会話だから実際には直接頭の中に響く形なのだけど、そこは気分優先というか演出優先ということで!
一体誰に向けてのものなのか謎な弁解をしている間にマサカリさんの近くにまで到着です。
予想した通りここにきての大進撃にどこのチームも慌てて防戦一方になってしまっている。もちろん、敵陣側で遥翔さんが暴れてくれていたからこそだろうね。
「(今が攻め時です!このチャンスをものにしちゃいましょう!)」
と、勢い込んで進んだまでは良かったのだけど……。
「ぬおお!『テイマーちゃん』!今度こそは負けんぞ!」
三度目の正直とばかりに立ちはだかったレベル四十のプレイヤーさんによって、あえなく返り討ちとなり、終了の合図をスタート地点で聞くことになってしまったのだった。
え?リルキュアさん?
敵チームのロボットマスを自陣地化して、しっかりと勝利に貢献していましたよ。