201 オーバーロードマジック
一回戦を一位の成績で通過した『キングオブデビル』。その一人がやったことにおおよその見当は付いたのだけど、それをチームメンバーたちに説明しても良いものなのか判断が付かなかった。
なので、さっさと分かる人に尋ねてみることにしましょうかね。
アウラロウラさん、へーるーぷー!!
「はい。呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃんです」
「どうわ!?」
唐突に現れたにゃんこさんに、マサカリさんが叫び声をあげて飛び退る。
さすがは戦闘系高レベルプレイヤーだね。何が起こったのか理解できてはいなくとも、すぐさま行動に移れるように体が反応していた。
ちなみに、残る皆はというと目を丸くして硬直してしまっていた。
まあ、いきなり目の前、しかも例の映像を確認するために円陣を組むようにしていたど真ん中に登場されれば、そうなっても仕方がないというものだろう。
「はあ……。確かに呼びましたけどね。ほとんどタイムラグなしに、そんな場所に出て来るのはどうなのかと思いますよ」
それ以前に、チャット内会話かメール機能を使って運営の見解が返ってくるのだとばかりに思っていた。
「内容が内容でしたので、これは我々運営が出張るべきだと判断しました」
しれっともっともらしいことを言っているけれど、いきなりボクたちの目の前に出てきた理由にはなっていない。
どうせアウラロウラさん特有のいたずら心が疼いてしまい、他の運営が反応するより先に動いたのだろう。
しばらく半眼でじとーっと見つめていたが、素知らぬ様子を貫かれてしまった。
「こういうところを見ると、本当にAIなのだと痛感しますね……」
「え?どういうこと?」
ミザリーさんの言葉の意味を掴みかねたのか、ヤマト君が頭上に?を浮かべている。
「私たちプレイヤーの場合、ずっと見つめられていると居心地が悪く感じてしまうものなのよ」
リルキュアさんの説明に「なるほど」と納得するヤマト君。これに類似したことなら誰しも一度は体験しているだろうからね。
他の皆もそれぞれその当時のことを思い出したのか神妙な顔つきになってしまっていた。
とはいえ、こちらの体はあくまでもアバターであり、良くも悪くもリアルの体の機能全てを再現している訳ではない。
さっきの例でいうと、いくら見つめられたところで冷や汗をかいたりはしないし、目も泳いだりはしないのだ。
だから誤魔化すという行為への難易度は、リアルに比べるとはるかに低くなっているはずなのだけれど……。実際には平然としておられずに、何かしらの馬脚を露わしてしまうのでした。
「なかなか興味深いお話ですが、時間もないことですし本題を進めましょう」
まったくくもって正論なのだけど、アウラロウラさんにそれを言われるとつい「なんだかなあ……」と思ってしまうね。
これ以上突っ込んでも時間の無駄にしかならないだろうから諦めるけど。
「わざわざアウラロウラさんがやって来たということは、ボクの予想が見事的中していたということでファイナルアンサー?」
「………………正解です」
溜め長いよ!
高額賞金が掛かった大一番の難問に挑んでいる訳じゃないんだから、もっと素直に答えていただきたい。
「『テイマーちゃん』が考えていた通り、件のプレイヤーはレイン系の魔法にMPを過剰積み込みさせることによって強化しています」
「うわお!そこまで言っちゃって良かったんですか?」
ヒントくらいは出してくれるだろうと思っていたが、まさか解答を明示してくるとは。
「元々『笑顔』の方では知る人ぞ知る技術という扱いになっていましたからね。『OAW』の方でもそれなりの数のプレイヤーがその存在について耳にするようになっていますから、公表しても問題はないと判断しました。というか、『テイマーちゃん』くらいですよ、律儀に我々に確認を取ってきたのは」
オーバーロードマジックに思い至ったボク以外のプレイヤーたちは、すぐにチームメンバーに教えていたらしい。
「ですから、全てではありませんがそれなりの数のチームがあのカラクリについて知っているということになります。まあ、世の中の多くの物事と同じように、対処できるかどうかは別問題ということになるのでしょうけれど」
アウラロウラさんはちょっぴり皮肉気にそういったけれど、全く分からないことに応対することに比べればはるかにマシというものだと思う。
「それでは、ワタクシからの説明は以上とさせていただきます。引き続き合同公式イベント、『銀河大戦』をお楽しみください」
深々と頭を下げたかと思うと上空から光が降り注ぎ、彼女の体はその光に溶けるように消えていったのだった。
まるで昇天か成仏したかのような退場の仕方です。今回も最後まで芸が細かいことで。
「な、なかなかに強烈な人だったな……。あ、いや、AIだったか」
「あはははは。まあ、今日日プレイヤーでもあそこまで濃い人はなかなかいませんからね」
呆然とした雰囲気で感想を口にしたマサカリさんに、遥翔さんが苦笑いしながらそう付け足した。ロールプレイしている人は数多いけれど、あの猫さんは間違いなくそれとは違った方向性で濃ゆいよね。
「でも、実際に会ってみると彼がやらかしてしまったのも分かる気がするわ。『笑顔』で蓄積されてきたNPCのデータをフル活用して、さらにその上を行っているような調子なのだもの」
プレイヤーと運営という違いはあれど、『笑顔』関係者としては気になってしまうものであるようだ。
さて、短時間ながらアウラロウラさんが引っ掻き回してくれたお陰で、ボクたちの発する空気はすっかり弛緩してしまっていた。
できる事なら、このままのんびりと雑談にふけっていたいところだ。が、残念ながら時間が押してきている。急いでオーバーロードマジックについての詳しい説明をしておかないと、第二試合に間に合わなくなってしまう。
知っているという人たちがいる以上、使える人だっていると考える方が妥当だ。そして次の対戦相手の中に該当する人がいないと言い切ることはできない。
何より、対戦相手は開始直前のそれぞれの舞台に送られるまで分からないようになっている。それこそ『キングオブデビル』と勝ち合わせてしまう可能性だってあるのだ。
「駆け足になりますけど、MPの過剰積み込みについて説明していきますね」
すぐに聞く体勢になってくれたチームメンバーの皆を前に、ゾイさんから教わったことを懸命に思い出していくのだった。




