199 大規模強力魔法
一回戦を終えたボクたちは、再びチームメンバーだけの個別の空間へと送られていた。
一方、負けたチームの人たちは試合前の体育館のような場所へと集められているようだ。
三十五マスという好成績で一回戦を勝利したけれど、やはりこの世の中、上には上がいるもので、成績上位の十組にすら入ることができてはいなかった。
それでも二十番手以内――十七番でした――には入っていたようなので好調な滑り出しだったと言えるだろう。
ちなみに、ユーカリちゃんが所属している『コアラちゃんと楽しい仲間たち』は三十九マスで九位につけていた。
「まあ、『コアラちゃん』たちくらいならまだ分かる。だけど、一位の六十八マスはおかしくないか!?」
叫び声じみたヤマト君の主張も良く分かる。なにせ二位でも四十七マスと、二十以上もの大差がつけられていたのだから。
「ですが運営が何も言わずに公表している以上、特に問題となるような行為はなかったということなのではないでしょうか」
「そう、ね……。明らかな違反行為やバグを利用したようなものであれば、放置しているなんてことはあり得ないでしょうし」
「証拠を見つけてやると息巻いていた連中も、ほとんどが試合の動画を見て静かになったらしいぞ」
公式サイトの掲示板を覗きながらマサカリさんがプレイヤー側の様子を教えてくれた。
今回は『笑顔』と『OAW』の両運営が主催する公式イベントであり、試合中は常に監視の目が光っている。その上映像記録も残されていて誰でも自由に閲覧が可能ということで、不正が付け入る隙なんて全くないと言って良いほどだ。
「ほとんど、ということはまだ少しは騒いでいる人たちがいるってことですか?」
「ああ、こいつらは何にでも噛みついたり文句を言ったりするやつらだから気にするだけ無駄だな。今回も「運営の思惑には乗らない」だとかなんとか言って、イベント自体には参加していないはずだ」
はあ?参加もしていないのに文句だけ言っているの?
そもそも、それって楽しいの?
「ええと……、その人たちは一体何がしたいんでしょうか?」
「さあなあ。掲示板でも何度かその手の質問がされたんだが、「答える義理はない」だとか「高尚な理念に則っている」だとかよく分からん事ばっかり言って会話にならんから、今じゃ何か書き込んできてもスルーしておくのがマナーみたいになってるからな」
スルーがマナーって……。リアルだとすわいじめか、ってことで問題になりそうだね。
まあ、マサカリさんの話を聞いた限りによると、会話のキャッチボールができなかったため仕方がなしにそうなったという流れのようだけど。
「あの連中のことはもういいって。それより今は一位のやつらだ。なあ、本当のところあんな好成績を出せるものなのか?」
ヤマト君の疑問に頭を捻る。
できるのかどうかで言えば実際に結果を叩き出しているのだから、可能だということになってしまうのだろう。でも、それを納得のいく形で説明してみろと言われれば、ちょっとどころではなく難しいことになりそうだ。
「……だあー!ダメだ!さっぱり分からん!」
「自分もこういうことには向いていないようです……」
「私もお手上げね」
「……理屈としては他のチームのプレイヤーたちの大半を延々と足止めできればいい、ということだと思うんですが……。その方法となると、果たしてできるものなのか分かりません」
うん。ボクもミザリーさんと同じことを考えました。
例えばロボットに『じゃんけん勝負』で勝利した後の移動不可時間を利用するとかだね。ただ、これはせいぜい十秒間なので現実的じゃない。
となると一番あり得そうなのは、死に戻りによる一分間スタートマスから移動できなくなる、リスタートペナルティということになりそうだ。
そしてここでミザリーさんと同じ問題に突き当たる。
どうすれば三チームの合計十八人ものプレイヤーを何度も死に戻りさせることができるのか?
「あの、このまま訳も分からずに考えているだけだと深みにはまっちゃいそうですから、一位のチームの動画を見てみませんか?もしかすると何か参考にできる事もあるかもしれないですから」
幸い、二回戦開始まで三十分近くある。
ところどころで再生速度を上げてやれば数分で確認できてしまうはずだ。
「そうね。自分の頭で考えることは大事だけれど、全ての答えを出さなければいけないことでもないものね」
リルキュアさんの言葉にハッとする皆。
会話の流れからついつい自力で正解に辿り着かなくてはいけない気分になってしまっていたようだ。
「ありました、この動画ですね。パーティーの共有機能を使いますので、皆さん各自スクリーンを展開してください」
いち早く動画を発見してくれていた遥翔さんの指示に従って画面を呼び出す。
「それでは再生します」
最初はそれほどおかしなところは見受けられなかった。
強いて言うならば一位となったチーム、『キングオブデビル』だけがメンバー全員バラバラになって動いているということくらいだろうか。
「はあああ!?なんだこりゃ!?」
状況が変わったのは数分後のことだ。『キングオブデビル』の一人が敵対するチームメンバーたちがいるマスに入ったかと思うと、直接戦闘を選択していきなり魔法で攻撃を始めたのだ。
もちろん戦い方を宣言している以上、敵対するチームへの攻撃は反則でも何でもないのでこの行為自体は何ら咎められるようなものではない。――のだけれど、その一回の魔法だけで対象となっていた敵対チームの全員を倒してしまったとなると、やはり驚かずにはいられない。
「真っ白に見えたけど、今のは炎よね?……ということは〔火属性魔法〕ということになるの?」
「恐らくですが、上級の属性魔法で最後に習得することのできる大規模強力魔法なのではないでしょうか。それまでの魔法とは違って、あれだけは各属性ごとに異なる形態だという話ですし、見たことがない魔法だったことにも一応の説明が付きます」
大規模強力魔法。名前からも想像がつくように広範囲大威力の超強力な攻撃魔法だ。
その属性の魔法を極めた証とも言われていて、ミザリーさんの説明にあったように上級まで育て上げた属性魔法技能の最後の最後にようやく習得できるという、ある意味ご褒美的な魔法だ。
ボクの『OAW』内での知り合いで言うと、辛うじてデュランさんが使えるかもしれないといったところかな。断定できないのは本人から聞いた訳ではないから。
ゾイさんは複数の属性に手を伸ばしているため、そこまで熟練度が上がっていないとのことだった。
「無名のままそこまで熟練度を上げていたやつがいたとは。とんでもないプレイヤーがいたもんだな……」
マサカリさんの呟きにボクたちはただ頷くことしかできなかった。




