190 再び集合
PV40万到達です。ありがとうございます!
段々と会話が取りとめのない雑談となってきた頃、再び「ピンポンパンポーン♪」と言う声が響いてきた。
「間もなく正午、十二時となります。最初の会場へと転移いたしますので準備をお願いします」
どうやらいつの間にか集合時間になっていたようだ。その放送が終わってからそれほどしない内に、ボクたちは例の体育館のような会場へと集められていた。
ただし最初の時とは違って、それぞれのチームごとに集められているという形となっている。それと壇上にはボクと『コアラちゃん』がいない代わりに運営メンバーらしき男女が追加されていた。
それにしてもいきなり大勢がいる場所に転移させられたので圧迫感が半端ないです。
運営が配慮してくれたのか、ボクのことを『テイマーちゃん』だと不躾に見てくる人がいなかったのが救いかな。
それでも時折視線を感じることはあったけれど、それくらいのことはあるだろうとイベントに参加すると決めた当初から考えていたのでほぼほぼ問題はない。
ちなみに、やたらと圧迫感を感じたのは、それまでがチームメンバーのみがいる空間だったという反動もあるのかもしれない。
思わず所在なさげにキョロキョロと周囲を見回してしまった。
ところが、世の中何がどう関わってくるのか分からないもので、これが思わぬ発見に繋がることに。
「皆、周りにいる他のチームの人たちのことをよく観察しておいてください」
「え?」
「何か気になることでもあるの?」
「やたらとギスギスした雰囲気のチームとか、反対に和気藹々としているチームがいます」
「どれどれ……。あ、本当だ」
ボクが指摘したことに最初に気が付いたのはヤマト君だった。
なにげに彼、こういうところは鋭いのよね。
「で、それが一体どうしたんだ?」
……ただ、そのことが何を意味しているのかを考えるのは苦手な様子だ。
「多分だけど、練習や調整が上手くいったチームと、失敗したチームなんだと思う」
和気藹々としているのはボクたちと同じように練習で思っていた以上の結果を出せたからだろう。つまり、本番で当たれば強敵になるということ。
一方で、雰囲気が悪いところはその逆だと言える。が、本番ではこれまた用心しなくてはいけない相手となるかもしれない。
「調整に失敗しているのであれば、例え高レベルのプレイヤーがいたとしてもそれほど気にしなくても良いのではないですか?」
「それがそうとも言い切れないんです。一つは、今遥翔さんが言ったように高レベルのプレイヤーがいるかもしれないことです。特に戦闘特化であれば、それだけで脅威になり得ますから。そして二つ目、チーム内での連携が上手く取れないということは、どんな突飛な行動をしてくるのか予想が付かないということでもあります」
チーム戦、集団戦ということで、普通は仲間同士で弱点をフォローし合ったり、逆に長所となる部分を伸ばし合ったりしていくものだ。
しかしその調整ができなかったとなると、個人で好き勝手に動くということになるかもしれない。
最悪、チームの勝利のために頑張るという基本的な考えすら放棄している可能性もあるのだ。
「つまり、場を引っ掻き回して混乱させることにだけ力を注ぐような、はた迷惑な人が出てくるかもしれないということですか……」
頷くことでボクが懸念していたことがミザリーさんの言葉通りであると肯定する。
ちなみに、そう見せかけているだけというチームもいるかもしれない。しかしその場合も、そうした心理戦を仕掛けるだけの余裕があるということなので、用心しておくのに越したことはなかったりするのだった。
そして周囲を観察していると、とあることに気が付いた。
ギスギスしたところの中には、なんと一触即発しそうなチームもあったのだ。調整以前に意思の疎通ができているのか、チームとして成り立っているのかすら怪しいところだ。
その事を口にすると、ボクとミザリーさんを除いた『笑顔』のプレイヤー四人は眉を寄せた難しい顔を突き合わせることになった。
「あー……、もしかすると敵対しているギルドのメンバー同士が一緒になっているのかもしれない」
マサカリによると、MMORPGである『笑顔』にはプレイヤー同士の集まりであるギルドが多数存在しているとのこと。
それらは本当に多種多様で、目的から独自のルールまで千差万別なのだそうだ。
「そういう連中の中には、まあ何というかお互いをライバル視したり対立したりするギルドもあるんだよ」
と、オブラートに包んだ言い方だったが、実際は対立するどころか完全に敵対しているような人たちまでいるようで、極端なものだと出会った瞬間にPvPが始まるような関係のところもあるのだとか。
「そんな殺伐とした状況でゲームをやって楽しいの?」
「そこは本人たち次第だから何とも言えねえなあ」
「周囲に強要しないっていう基本的なマナーはしっかり守っているのよ。それとリアルの関係を持ち込んでいる訳でもないようだし、あくまでロールプレイの一環のようだから運営も今までのところは静観していた感じね」
マサカリさんから引き継いだリルキュアさんは、「今回のイベントで第三者の不利益が発生した場合、梃入れに乗り出すかもしれないけれど」と言って説明を締めくくったのだった。
そんなことをやっている間に壇上ではアウラロウラさんのお話が始まっていた。と言っても開会式の時にも説明された今後のスケジュールのおさらいや変更点の確認が中心で、目新しいことはほとんどなかった。
ちなみに、一番の変更点は練習用フィールドでの成績優秀の発表だった。
当初の予定では今発表することになっていたのだけど、運営内から「本番の時に不利になる可能性がある」という指摘が出たため、本番終了後の明日の夕方、表彰式の時に一緒に発表することになったのだそうだ。
それと、開会式の時の『笑顔』運営氏のアウラロウラさんへの態度がマナー違反に当たるとして、正式に『笑顔』側から『OAW』側へ謝罪が行われたのだった。
「同じ会社内で元は同じとはいえ、今は別のゲームとしてそれぞれ成り立っていますから、明確な態度を示すべきだと判断したのでは。『テイマーちゃん』と『コアラちゃん』の突っ込みのお陰で深刻に捉えるプレイヤーはいなかったようですけれど、けじめは必要だと考えたのだとすれば納得できる流れですね」
大人って色々と大変だ。
それよりもボクとしては、そこまで深く読み解けるミザリーさんの正体の方が気にかかっていたりするのですがね!
感想にて読者様から『笑顔』運営氏の態度について指摘を受けまして、「その通りだわ!(苦笑)」と思い急遽今話の最後に対応を付け加えさせて頂きました。
確かに無意識だったとはいえ運営の、しかもお偉いさんが進んでマナー違反をしちゃいけませんよね。
ただ、あまりクドクドと説明すると蛇足になるので、簡素に抑えさせていただきました。




