188 タイムアタック 後編
今話でようやく五十万文字越えとなりました。(多分、間違っていないと思われます……)
一話の文字数が少ないのんびりペースですが、更新頻度はできるだけ変えないように頑張りますので、これからもお付き合い頂ければ幸いです。
一方、リルキュアさんは開始前の宣言通りにきっちりと自分の役割をこなしてくれていた。
彼女の身長に対してだと少し高い位置にあるスイッチを懸命に押し、対ロボット戦では『じゃんけん勝負』で瞬殺していったのだ。
トテトテと走るその姿は愛らしく、後から映像を見直した際には録画したものだと分かっていたはずなのに、ボクとミザリーさんは思わず「頑張って!」と応援してしまったほどだった。
ところで『じゃんけん勝負』なのだが、一回目の練習の時も含めてリルキュアさんも遥翔さんも負けなしだったため、ボクたちチームメンバー一同は「熟練度が高い技能があれば確実に勝てる」ものだと思い込んでいた。
実はこれが大きな間違いであり、この後の本番で大苦戦する大きな原因となってしまう。
まあ、それについてはまた後ほど詳しくお話することにしまして。ここでは『じゃんけん勝負』についての補足をしておくね。
簡単に言ってしまうと、どれほど技能熟練度が高くなっていたとしても、百パーセント絶対に勝てたりはしないように設定されていた。公式イベント『銀河大戦』終了後に運営から公開された情報によると、勝率は最大でも九十五パーセントまでに止めてあったのだそうだ。
つまりどんなに高レベルで技能熟練度を高めているプレイヤーであっても、残りの五パーセントを引き当ててしまえば通常通りのじゃんけんになってしまい、そこからはプレイヤー本人の運勝負となってしまうということだね。
事実イベント後の『笑顔』の掲示板では、マサカリさんと同程度かそれ以上のレベルのトッププレイヤーが『じゃんけん勝負』で敗北したことを証拠の動画付きで公表していたのだそうだ。
そして今回の作戦において、そうなってしまった場合のフォローについては一切考えていなかった。
もしもこのタイムアタック中に、遥翔さんかリルキュアさんの二人の内どちらかでも『じゃんけん勝負』に敗北する確率を引き当ててしまっていたら、その瞬間にボクたちの挑戦は終わることになっていただろう。
話を戻そう。こんな風にチームメンバーたちが頑張ってくれていた時にボクはというと……、走っていました。
対ロボット戦では『じゃんけん勝負』ですらまともに勝つことができなかった。戦闘では完全に役立たずなお荷物だった訳で、その時のことをかえりみて、というか現実を見据えてスイッチマスを専門に担当することにしたのだ。
難点はマスの配置が決まっており、なおかつ他のチームからの邪魔が入らない練習用フィールドでしか通用しない作戦だということかな。
本番ではマサカリさんに付いて回りながら、周辺のマスの先行調査を行うということになる気がする。
さて、現在のボクの能力値だけど〈敏捷〉は八と、上から数えて四番目だったりします。しかし、軽装でありリアルとの体格とほとんど違いがない――キャラクターメイキングを行ってからの数か月でボクも成長しているのですよ!――ということで、走る速さだけで言えば遥翔さんに次ぐ状態となっていた。
「一撃で粉砕とか!?」
マサカリさんが「おりゃ!」という掛け声と同時に振り下ろした斧をまともに受け、ロボットが機能停止していく。
そんな様子に思わず突っ込んでしまいながらボクは一番間近の担当するスイッチマスへと駆けていた。
「それっと!」
リルキュアさんが最初のスイッチを押すのを横目で見ながら目的のマスへと入ると、中央にふわりとスイッチが拵えられた台が出現する。
設定としては各マスにプレイヤーが侵入することで、光学迷彩が解除されるということらしいのだけど、個人的には床からせり出してくるとかの演出の方が好みだったり。
なんだかそちらの方がSFっぽい感じがするので。
……え?そんなことない?あれ?
などとやっている間にスイッチまで残り数メートル。できるだけ速度を落とさないように心がけながら、歩幅を調整していく。
「とりゃ!」
ペシンと右手の掌を叩きつけてそのまま次のマスへと向かう。その頃には無事にスイッチを押せたことを示すようにマスの床全体が青く輝いていた。
そんな時、視界の右前方に大きな物が現れて動き出したかと思うと、「『じゃんけん勝負』!」という声が聞こえてあっという間に停止してしまう。
「おおう!遥翔さん素早い!」
秒単位で撃破ですよ。ところが直後にマスの外周に沿うように光の壁が立ち上がる。『じゃんけん勝負』のデメリット、十秒間の移動禁止時間が始まったらしい。
「お先です!」
すぐに次へと移動できるよう端にまで進んでいた遥翔さんに一声かけてから、ボクは次のマスへと移る。そして二つ目のスイッチを押したところでバキッ!という破壊音が聞こえてくる。
マサカリさん、二体目も一発KOだったもよう。
次のマスでは方向転換する必要があるので、頭の中で大きく回り込むようにラインを描く。
ここで問題となるのが目的と別のマスに入らなくてはいけないということ。これについてはお互いに了承済みではあるのだけれど、困ったことにそこはロボットマスなのだった。
「うひい!」
重低音を響かせてロボットが起動、ボクの方へと足を踏み出してくる。いやはや、無視して通り過ぎるだけとは言っても威圧感が半端ないです。
泣きそうになりながら目的のマスへと逃げ込んで、曲線を描くようにしながら中央のスイッチを目指す。
「よいっしょお!」
床の色が変わったことで三つ目のスイッチも無事に押せたことを確認するとさらに先へ。再びロボットマスを経由して怖い思いをしながら次の目的地へと逃げ込み、四つ目のスイッチをバン!
これで残るスイッチは二カ所。後もう一息だ。
「マサカリさん!向こうのロボットマスをお願いします!」
「任せとけ!」
予想以上に足止め時間が長かった遥翔さんが、予定よりも早くノルマを完了させたマサカリさんにヘルプをお願いしているのを背中で聞きながら、ボクはさらに足に力を込めて加速していく。
五つ目のスイッチを押し込み、最後のマスへと入る直前に、
「ロボットマスには俺たちが行くからな!」
「頼みます!」
というヤマト君と遥翔さんのやり取りが聞こえる。
「これでラスト!」
六つ目のスイッチを押しながら台に寄り掛かることでスピードを無理矢理落として、他のメンバーたちの様子を見ようと振り返る。
ミザリーさんとヤマト君がそれぞれの得意技でロボットを停止させた向こうで、遥翔さんがスイッチをしたのが見えた。
その右側では戦闘が終わったことを表すようにマサカリさんが得物を仕舞っている。
さらに視線を動かしていくと、少し離れた場所でリルキュアさんがサムズアップしている姿が。
視界の隅のミニマップは全てのマスの色が青く変わっており、その下に表示された数字は五十三秒で止まっていたのだった。
〇練習用フィールドの配置と各人の移動ルート
ABCDE
1 Sスロスロ
2 スロスロス
3 ロスロスロ S…スタートマス
4 スロスロス ス…スイッチマス
5 ロスロスロ ロ…ロボットマス
リルキュア……A1~A5→B5
リュカリュカ……B3→C4→D5→E4→D3→C2
※担当したマスのみ。途中で擦り抜けているマスについては記載していません。