177 イベントのルール説明
「あー、コホン!それじゃあ説明を続けるとしようか」
微妙な雰囲気から一早く立ち直ったのは『笑顔』運営氏だった。
さすがはイベント進行役としてこの場にいるだけのことはある、ということなのかもしれない。
まあ、でも実はそれよりも先に『コアラちゃん』が正気に戻っていたようなのだけど。……いや、この言い方は不適当かもしれない。それというのも彼女、ずっと平常通りだったような気がするからだ。
もちろんボクもずっと彼女一人のことを注視していた訳ではないので断定はできない。
が、一度目の空気が固まってしまった時も、二度目の静まり返ってしまった時も、彼女自身が驚いてそうなったというのではなく、周囲の様子に合わせた結果だったのではないかと思えてしまうのだった。
と、色々と気になるところがある人だが、今は一旦置いておいて運営氏の説明に耳を傾けることにしよう。
「今回の合同イベント『銀河大戦』だが……、まあ、背景設定の方についてはまた後で説明するとして、どういった進め方になるのかを解説させてもらう」
まず、チーム編成は運営側によるシャッフルで決められるとのこと。
しかも『笑顔』『OAW』関係なく全プレイヤーが混ぜ合わさったチームとなるらしい。というのは建前で、実はあらかじめ別口で行われたアンケート結果を参考に混合チームに編成される人はお互いのゲームに隔意を持っていない人ばかりが選ばれるのだそうだ。
まあ、この点に関しては後日知ったことなので、その時のボクは割とドキドキものでした。
一チームの人数はパーティー最大数と同じ六名。
この辺はせめて慣れている人数でイベントを進めてもらいたい、という運営側の配慮が感じられるような気がしないでもないのかもしれない。
一方でゲーム内でのパーティーとは異なる部分も多い。
一番の違いは行動を共にしなくても良いという点になるだろう。六人全員がバラバラになるのでも良いし、二人ずつや三人ずつ行動するのも可となる。もちろん六人が一塊になって動くというのもアリなのだ。
各チームの戦略の違いが最も分かり易い形で現れる部分だとも言えるだろうね。
「そしてプレイヤー諸君に戦ってもらう舞台となるのが、これだ!」
運営氏の掛け声に合わせて投影されたのは、いくつもの四角いマスに区切られたボードのようなものだった。
「これは宙域各所に設置されている兵器の集積施設のようなものだ。一マス当たり二十メートル四方の広さがある。それが縦横十掛ける十の百マスとなっているぞ。中に潜り込むことはないから、厚みに関しては気にするな!」
つまり一辺が二百メートルの巨大な平面型の施設ということらしい。
そして各マスにいるロボットを倒したり、中央に置かれている制御スイッチに触れたりすることで、そのマスがプレイヤーの陣地となるという設定であるようだ。
プレイヤーはチームごとに施設の四隅にそれぞれ初期配置され、制限時間内に一番多くのマスを陣地にしたチームが勝利ということになるとのこと。
「戦闘マスでも絶対に戦わなくてはいけないということじゃないぞ。ロボットからは逃げ回ってスイッチマスばかりを陣地にしていくというのも一つの手だ」
「もちろん他のチームが陣地としたマスを奪うことも可能ですよ。初期状態よりも面倒にはなる予定ですが」
制御スイッチの場合は、中央と四隅の計五カ所の内の三カ所に触れる必要があり、ロボットの場合は初期よりも二割から三割り増しくらいの強さとなってしまうのだとか。
「そうそう。ロボットとの戦闘だが、通常の戦いを行ってもいいし、最も高い熟練度の技能に依存した『じゃんけん勝負』でも構わないぞ。ただし、『じゃんけん勝負』の場合は次のマスに移動できるようになるまで、若干のタイムロスが発生するようになっているがな」
技能熟練度さえ高ければ生産職であってもお荷物にはならないということだね。ベストなのは通常戦闘の速攻で倒すことのようだけど。
「ロボットの強さは侵入してきたチームの誰かを基準として、その半分の強さになるように設定されています。基準となるメンバーはランダムで順繰りに決まっていきますので、運が悪いと一番レベルの低い人が一番レベルの高い人を基準としたロボットに当たってしまうということもあり得ますので、チーム戦力を分散させる場合にはそうした点も考慮してください」
「それとロボットとの戦闘が行われている最中のマスに別チームのプレイヤーが入ってきた場合だが、通常戦闘を行っている時に限りもう一体ロボットが新たに出現することになる。そして、先に倒した方のチームがそのマスを陣地となるという流れだ」
一方でスイッチマスは、マスに入った順番に関係なく先に中央のスイッチを押したチームの勝ちという扱いとなるみたい。
「それじゃあ、『じゃんけん勝負』をやっている時はどうなるんだ?」
「良い質問ですね。その時には先に勝負をしているチームに優先権が与えられます。じゃんけんという勝負形式の上、技能熟練度によってボーナスが与えられるのでよほど運が悪くない限りはすぐに決着がつくことになるでしょう」
大人数ならともかく、一対一で何度もあいこになることの方が珍しいものね。
「後は……、プレイヤー同士での戦闘関連か」
その言葉が発せられた瞬間、緊張感が高まるのが分かった。空気が一気に張り詰めて痛みを感じてしまいそうになるくらい。
気の早い人になると、隣同士で好戦的な笑みを向け合っている始末だ。
「まず、それぞれの初期配置マス、ここは戦闘不能になった場合のリスタートポイントでもあるんだが、ここに別チームは入ることができないようになっている。制限時間内でのゲームオーバーはないということだな。そして肝心のプレイヤー同士の戦闘だが、ロボットと同じく通常戦闘か『じゃんけん勝負』かのどちらかとなる」
「この選択権はレベルの低いチームの方に与えられることになっています。もしも同レベルの場合はランダムで決定されます」
これだと大半は『じゃんけん勝負』が選択されそう。
「ただし『じゃんけん勝負』となった時には、ロボットとの対戦時のような熟練度ボーナスがない代わりに、レベルの高い方が『三回勝負』か『一回負け無効』のどちらかを選べるようになる」
つまりレベルが高い方が多少は有利になるということのようだ。
それでも通常戦闘よりは勝ちの目がありそうだから、やっぱりこちらが選択されることが多くなりそうだね。
〇イベントフィールドについての補足
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一辺が20m×10マス=200m
四隅の■が各チームのスタートマス。他チームのスタートマスには侵入できない。
□にはロボットマスかスイッチマスがそれぞれ48マスずつ割り振られる。
初期状態ではどちらなのか分からない。擦り抜け可能。
図では縦長ですが、実際には正方形となります。
〇ロボットのレベル決定手順
αマスにAチームのメンバーが侵入……Aチームメンバーの誰か÷2レベル
続いてβマスにAチームのメンバーが侵入……αマスで選ばれなかったメンバーの誰か÷2レベル
以降、一廻りするまで同手順。
※出現したロボットを倒しているかどうかは影響しない。
※敵チームの陣地になっている場合は、強さが二割から三割り増しとなる。
〇ロボットを倒さずに放置しているマスに別のチームが侵入してきた場合
(例)αマスにAチームのメンバーが侵入後放置、そこにBチームのメンバーが侵入して来た
……Aチームのロボットのデータは残されたまま、Bチームメンバーの誰か÷2レベルのロボットが出現する。
※Bチームも放置し、再度Aチームのメンバーが戻ってきた場合には残されていたデータのロボットがしゅつげんする。
※Bチームが勝利以した場合には、残されていたAチームのデータは破棄される。