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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十五章 『銀河大戦』1 一日目午前
174/933

174 『テイマーちゃん』紹介

 気が付くと、そこは広く大きな建物の中だった。

 高い天井や殺風景な壁が学校の講堂や体育館といった場所を連想させるね。一面にはステージが拵えてある事などもそっくりだ。

 そんな場所に次々とプレイヤーたちが転移させられているのを、一段高いところからぼんやりと見つめていた。


 ここまで言えばボクがどこに立っているのかが分かってもらえたのではないかと思う。そう、何を隠そう、というか隠れようにも遮蔽物になりそうなものがまるでないステージ上に転移させられていたのだ。


 体中にバツ印を付けられていた彼らとは比較にならないくらいの注目度でございます。プレイヤーの皆の視線が突き刺さってくるのが肌で感じられるくらいだよ。

 まあ、他のプレイヤーたちからすればフードを目深にかぶった怪しい人物が一人ステージ上にいる訳だから、何が起きるのかと気になって当然なのだろうとは思う。


 一応イベント直前に『テイマーちゃん』の紹介を行うとは聞かされていたけれど、こんな展開になっているとは……。

 もっと細かく確認しておいて心の準備を進めておくべきだったと思うが後の祭りだ。

 公式イベント(おまつり)はまだ始まってもいないのにね!


 ふと右隣が光ったかと思えば、そこには見慣れた猫さんのお顔があった。


「おや?ワタクシたちが予想していたよりも緊張はされていないようですね」


 ホッとしたような、それでいて不思議そうな声音でアウラロウラさんが尋ねてくる。

 運営側の人間――猫人間?――が現れたことで、今まで以上にプレイヤーたちからの注目を浴びてしまっていたのだ。

 不躾な視線の束は暴力にも近く、気の弱い人であれば逃げ出したり失神したりといったことが発生してしまったかもしれない。


「ただ単に立っているだけなので何とか誤魔化せているってところです」


 まさかこんな所で中学時代の生徒会のお手伝い経験が役に立つとはね。

 実は全校集会で里っちゃんのふりをしてステージ上に立ったという経験があったのだ。周囲が体育館に似た見た目であることも上手く作用したように思う。


「本格的なスピーチはできませんからね。ボクができるのは挨拶くらいまでです」


 とはいえ、それは集会が始まる前の時間帯であり、集まってきた生徒たちが無駄話をしないように壇上から監視しているだけだったので、これ以上いきなりの無茶振りがこないように今の内に釘を刺しておく。

 『竜の卵』イベントをクリアしたためなのか、どうにもボクに対する運営の評価が過大になっているような気がするので、この辺りの予防線は絶対に張っておかなくちゃいけない。


「分かりました。まあ、元々リュカリュカさんには軽い挨拶をしてもらうだけの予定でしたから問題はありません。後はワタクシたちで進めてまいります」


 ワタクシたち(・・)?……ああ、『笑顔』側の運営の人たちということなのだろう。いつの間にか全員の転移が終わっていたらしく、ボクからすれば一段低くなっている床の上はプレイヤーたちで一杯となっていた。


 時刻はイベント開始の三十分前まで差し迫っている。

 転移前のメイションでは初めて他のプレイヤーと協力して行うイベントという名目で注意点が語られたが、それだけだった。詳しい内容や進め方といった部分に関しての説明にチーム分けなど、伝達事項ややらなくてはいけないことはまだまだ多く残っているのだ。

 その事が分かっているからなのか、アウラロウラさんが前へと進み出ると、プレイヤーたちのざわめきはあっという間に静かになっていった。


「少しばかり想定外の事態が起こりましたが、概ね問題なくプレイヤーの皆様方を全員転移させることができました」


 枕の一言にしては辛辣なアウラロウラさんの台詞にプレイヤーたちの間から失笑や苦笑がもれ聞こえてくる。

 所々で難しい顔をしているのは元×印の人たちなのだろうが、あらかじめ最悪の危険性を周知されていたためか、声高に反論するつもりはないようだ。


「さて、ここで皆様に二つサプライズがあります。まあ、一つは既に告知してありましたから、それほど驚きではないかもしれませんが。それでは紹介しましょう!『テイマーちゃん』です!」


 うおいっ!

 いきなりもう出番なんですかい!と、突っ込みを入れる暇もなくピカッとスポットライトが浴びせられた。


 ……ステージ端の誰もいない空間に。


「…………」


 無言で立ち尽くすアウラロウラさん。もちろんボクもどうしていいのか分からずに硬直状態ですよ。

 ステージ下でボクたちに向かい合うようにして立つプレイヤーたちが近くにいる友人、知人たちと囁き合う声だけがざわざわと空間に広がっていた。


 と、ピルルルルという甲高い電子音が鳴り響く。音の発生源はアウラロウラさんだ。

 いっそ緩慢ともいえる動作で彼女が取り出したのは、ボクたちがリアルで用いている携帯端末にそっくりな代物だった。


「はい。ワタクシです。……はい、はい。そうですか、隣の立ち位置と間違ったと。その担当者に伝えてください。あなたの昼食は一週間『獄中まず飯』にすると」


 こちらの言い分だけを伝えると、反論を聞こうともせずに通話を切り端末風アイテムを内ポケットへと仕舞うアウラロウラさん。

 それと同時に会場内のざわつきも大きくなったことから、彼女が下した沙汰はなかなかに厳しいものだったことが覗い知れた。

 ここだけの話、イベント後に獄中まず飯について知ったボクは、思わずミスをした担当者の冥福をお祈りしてしまったよ。


「ふう……。なんだかすっかりやる気が失せてしまいました。『テイマーちゃん』です」


 先ほどまでとは打って変わって凄まじく投げやりな態度で紹介されてしまった。プレイヤーの皆も呆れかえって声も出ない様子だ。

 どうすればと一瞬迷ったものの、既に紹介は行われているのでなかったことにはできない。

 フードを下ろしながら前へと進み出てアウラロウラさんに並ぶ。


「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」


 会場の数カ所で悲鳴じみた叫び声が上がる。

 多分、ここ数日で顔馴染みなどになったプレイヤーさんたちのものなのだろう。さすがにこの人数から個々のプレイヤーを発見することはできないので、叫び声が聞こえた方に向かって「驚かせてごめんね」という気持ちを込めながら微笑みかけることにしたのだった。


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