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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十四章 公式イベントに向けて
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166 ファンは人形造形師(志望)

 人気があるとは言われていたけれど、まさか『テイマーちゃん』のファンだとまで公言している人がいるとは思わなかった。

 しかもそれを直接聞かされるとか、どんな罰ゲームですか!?

 ……まあ、目の前で生きいきと語っている彼女の方が、後々の公式イベントの際のネタばらしで頭を抱える羽目になってしまうのだろうけれど。


 それよりもボクとしては誰一人としてこの状況を止めようとしていないということの方が気にかかる。いくら自分第一で他人との関係が希薄になっている昨今とはいえ、何の反応もないというのはいかがなものなのでせうか!

 まさか露天商のお姉さんのマシンガントークは、誰も止めなくなるくらい日常茶飯事なんてことは……、さすがにないよね?


 余談だけど、いずれボクも『異次元都市メイション』へとやって来て他のプレイヤーたちと交流を持つことになるだろうという予想から、『テイマーちゃん』の外見に関しての情報には規制がなされていた。『冒険日記』にすらそれらしい記述は一切記載させないという徹底ぶりだ。

 個人的には仮初の体(アバター)とはいえ個人情報の保護に力を尽くしてくれているようで好感を持っていたりします。

 が、それが『テイマーちゃん』を語る人物が現れる一因となってしまっていたのだから、なかなか難しいものだ。


 そんなボク、じゃなかった『テイマーちゃん』のファンの露天商の女性はというと、相変わらず止まることなく喋り続けていた。

 よくそこまで話し続けていられるものだと感心する半面、彼女の目がらんらんと輝いていてちょっと怖い。


 ……おんやあ?比喩表現じゃなくて本当に瞳が光り輝いておりますよ!?

 黄色系統の色合いで、身近にあるもので例えるなら自動車のフォグライトのような感じだろうか。


「あ……。ごめんなさい。驚かせちゃったね」


 ようやくボクの様子に気が付いのか、ハッと我に返って謝る露店主さん。小声で「またやっちゃった……」と呟きながら頬を赤くしてはにかむ。


 可愛いじゃないか。よし、許そう!


 ちなみにこの女性、猫系のセリアンスロープで感情が昂ると瞳が光り輝くという特徴を持っているのだとか。

 そして彼女のオリジナル設定かと思いきや、なんとなんと『OAW』には既にそうした種族が実装済み――ただし、どこに住んでいるのかは教えてはもらえなかったらしい――であり、それもあって簡単にキャラクターメイキングで選択することができたのだそうだ。


「でも、感情で目が光るなんて、かなり不利な弱点になりませんか?」


 戦う時にしろ、交渉する時にしろ、感情の変化はつきものだと思う。訓練などである程度は抑えることはできたとしても、全く感情を表に出さないようにするのは至難の技ではないだろうか。

 ところが、そんなボクの考えを聞いたお姉さんはなぜか微笑ましいものを見るような目つきになって微笑んでいたのだった。


「ふふふ。弱点は弱点なりに利用する方法があるものなのよ」


 例えば交渉の場合、分かり易い弱点を見せつけることで、そこに相手の意識の大半を向けさせるのだとか。その裏で最終的には自分に有利なように話を進めていくのだそうだ。

 うーん……。商売の駆け引きは奥が深い。


 ああ、でもそういえば中学生時代に、里っちゃんが生徒会の報告書にわざと訂正されるような箇所を残したまま先生に提出したことがあったね。

 案の定書き直しをさせられることになったけれど、いつもならばなかなか許可が下りない学校行事後の内輪の打ち上げが、その時だけはやけに簡単に行えたような覚えがある。


 当時は先生の誰かが味方をしてくれたのだろうくらいにしか思わなかったが、もしかするとあの時の里っちゃんは露天商のお姉さんが言ったのと同じようなやり方をしていたのかもしれない。

 まあ、今さら聞いたところで「さあ、どうだったかな?」と適当にはぐらかすばかりで教えてはくれないのだろうけれど。


 と、従姉妹子様の毎度ながらの活躍は置いておくとして、露天商のお姉さんの方へと話を戻すとしようか。


「あ、挨拶がまだだったわよね。私はケイミー。<人形造形師(ドールマイスター)>志望の<クリエイター>よ」

「あ、ども。<テイマー>のリュカリュカ・ミミルです」

「へえ。ファミリーネームまであるんだ」

「あはは。こういうゲームは初めてだったんで、気合が入っちゃいました」


 ファーストネームとの兼ね合いなどもあるし、名前一つをとっても凝り始めるときりがない。そのためか運営調べの統計によると、ファミリーネームを付けているプレイヤーは全体のおよそ三分の一くらいだとなっていた。

 ちなみにミドルネームまで考えている人は全体の約一割とのこと。どうせ凝るならば、と突き詰めてしまう人も結構多いようです。


「<ドールマイスター>って、確か三次職ですよね。そんな先のことまで考えているということは、リアルの方でも人形作りが趣味だったりするんですか?」

「こらこら。頭の中で想像するのは構わないけれど、プライベートや個人情報に関わることを口に出しちゃいけないわよ」


 ケイミーさんに指摘されて慌てて口を押える。

 とはいえ、もう言ってしまったとなのでどうしようもないのだけれど。


「ごめんなさい」

「許しましょう。私は口が軽くて聞かれてもいないのに自分から話しちゃうような性格だから全然気にしないけれど、そういうことに神経をとがらせている人もプレイヤーの中にはいるから用心すること」


 そう前置きをした後、彼女は自分のことについて色々と話してくれた。

 いわく、ボクが予想した通りリアルでも人形作りが趣味なのだが、材料費や完成品の置き場等々の問題があり、満足いくほど趣味に没頭できていなかったのだとか。


「その点、VRゲームの中なら置き場所に困ることはないし、こうやって作った子たちを販売することで自分の腕を客観的に知ることもできるもの。その上ファンタジーな世界観だから、色々と題材にできそうなものがいっぱいあるのよ」


 わざわざVRゲームにしたのも、それなりの理由があってのことのようだ。ゲームを長続きさせる一因にもなるし、こういう点があるのは良いね。


 ふむふむ。この人の作ったものであるならばゲーム的な性能はともかくとして、作りが悪いなんてことはなさそうだ。


「ケイミーさん、この二つの人形を売ってもらえませんか?」


 とボクが指さしたのは、もちろんミルファとネイトの人形だった。

 こういうのもきっと、一つの縁というものだろうからね。


「うええ!?ホントに?ホントにいいの!?」


 ……なぜにそれほど驚くのか。

 ここだけの話、早まったかもしれないと心の中でちょっぴり後悔してしまったのだった。


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