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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十四章 公式イベントに向けて
162/933

162 修行!?

「ところで、リュカリュカさんは目立つのを避けようとしていたみたいですが、はっきり言って今さらですよ」


 唐突に舞い戻ってきた話題に、いくつもの意味で絶句してしまうボク。

 いやまあ、薄々というかほんのりというか多分そうなのだろうなあ、という程度にはボクだって自分が目立っていることを理解はしていたよ。


 今だって有名人であるアウラロウラさんの後をてこてこと付いて回っている訳だし、それ以前に『噴水広場』や『屋台通り』では彼女と親しげに話しているところが目撃されているのだ。

 加えて、そんなボクたちを見て「何か起こりそうかも」と興味本位で後を付いて来ていた大勢のプレイヤーたちもいる。


 これで目立つなというのが土台無理な話で、さながら今のボクは原色の忍び装束を着込んだNINJAなプレイヤー並みに好奇の視線を向けられていたことだろう。


「少し込み入ったお話をしましょうか」


《アウラロウラがチャットを開設しました。参加要請が届いています。参加しますか?》


 猫さんがそう言った直後、視界にインフォメーションが流れた。

 チャット、要は参加者同士だけの内緒話をするための機能だね。リアルだろうとゲーム内であろうと、他人に聞かれたくない話というのはどこにでも存在しているということだね。


 え?具体的にはどんなものがあるのか教えて欲しい?

 そりゃあ、乙女の秘密とか男の子の事情とかだよ。……おおっと!これ以上は超国家級機密に抵触するので答えられないね!


 ちなみに、プレイヤー――とどうやら運営の一部AI――しか使うことができないため、『OAW』においては基本的にこの『異次元都市メイション』でしか使い道がないのだ、とどこかの機能紹介欄に書かれていたっけ。


「(これなら他の人に聞かれることはないでしょうけど、でも余計に目立つことになりませんか?)」


 すぐさま参加にチェックを入れて、アウラロウラさんに問いかける。

 最初からならばともかく、いきなり会話が途絶えてしまうのだ。しかし、身振りや目の動きなどは容易に止めることはできないので、勘の鋭い人であればすぐにチャット機能を利用しているということに気が付くはずだ。


 そして一人に知られてしまえば驚くほどの速度で拡散されていくのが世の常というものだ。

 結果、内緒話をしているとバレたボクたちはそれまでにも増してプレイヤーたちから注目されることになるだろう。


「(ええ。ですがこれも修行の一環と言えなくはありませんから)」


 が、どうやらそうした流れもアウラロウラさんからすれば織り込み済みであったようだ。

 問題は何やら妙な単語が飛び出してきたことかな。


「(修行……。そこはかとなく嫌な予感がするんですけど……)」


 まさか山籠もりをしてクマと戦ったり、時間の流れが異なる部屋に閉じ込められてみっちり戦闘訓練を行ったり……、なんてことはないよね?


「(リュカリュカさんがどんな想像をしているのか大体分かりますが……。まあ、だからあえて突っ込まないでおきましょうか)」

「(うわボケ放置とかひどいなー)」

「(とてもとても棒読みですね)」

「(その返しは、割と予想できてましたので)」


 と、おふざけはここまでにして。

 詳しい説明をお願いします。


「(プレイヤーの間で『テイマーちゃんの冒険日記』が人気になっていることは以前お伝えした通りです。その『テイマーちゃん』なのですが、近々正式に公式イベントに参加することを公表する手はずとなっているのです)」

「(……遅くないですか?)」


 先にも述べたけれど、公式イベントの開催は一週間後に迫っている。

 いくらイベントの参加に事前登録が必要ない――イベント開始の二時間前から参加申し込みが始まるそうだ――からと言って、集客の目玉の一つである『テイマーちゃん』参加の可否が明確にされていなかったというのは、おかしいのではないだろうか。


「(その点の事情は、あのミノムシとも関わりがある事なので、後で説明いたします。話をリュカリュカさんへ戻しますと、それだけ人気のある『テイマーちゃん』ですから、いざイベントが始まって紹介されますと、必然的に多くのプレイヤーから注目されることになるとワタクシたち運営は推測しているのです)」


 そこには『OAW』だけでなく『笑顔』のプレイヤーも含まれるだろうとのこと。


「(その時になって驚いて身動きができなくなるのを防ぐためにも、今の内からプレイヤーの視線に慣れさせようとしていたと)」


 否定的な視線を受けると体が竦むというのは、リアルでもよく聞く話だ。


「視線は感情に直結していることも多いからね。しかも本人は無意識だから加減が効かないのよ」


 とは、毎度おなじみ我が従姉妹様こと里っちゃんのありがたいお言葉その一です。発表やら生徒代表の挨拶やらで人前に出る機会が多かった彼女が言うと、説得力もマシマシだね。


 思い返してみれば、この街で再会してからの彼女の行動は目立つことに一貫していたように思える。

 あの失言については弁明の通りだったのだろうが、プレイヤーが多く出歩いている『屋台通り』をボクと並んで歩くことで、最終的にはそれすらも利用するようにしていたのだった。


「(今さらながらですが、本来はリュカリュカさんに確認を取り、同意を得てから行うべきものだったと認識しております)」


 判断があいまいなグレーゾーンの中でも限りなく黒に近いやり方だったように思える。運営という立場を加味するならばギルティ判決決定かな。

 ただ、その罪を目の前のにゃんこさんただ一人に押し付けるというのは、どうにも違うように感じられる。それに先ほどのアウラロウラさんの台詞には、申し訳ないという気持ちがこれでもかというほど込められているようにボクには感じられた。


「(そうですね……。関係した全ての人が連名で、あ!名前を出すのは問題があるかもしれないので役職名でいいかな。ともかく、全員からの謝罪の一言を送ってもらえればそれで不問としますよ)」


 こちらのことを思ってのことだろうけれど、善意の押し売りであったことも確かだから、二度と起こらないように釘を刺してはおきたい。

 運営としてもけじめとなる行為は必要だろうと思うから、突っぱねたりはしないはずだ。

 案の定、翌日には関係した人物全員の連名での謝罪文が届いたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり本人としては事前に連絡欲しかったですよねぇ... 運営側からすれば逃げられかねないと思うのもわかるけど
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