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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十三章 ここはどこだ?
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148 魔物はどこに?

 街道のド真ん中だけど、不意の襲撃を受けないためにも立ち止まる。

 幸か不幸か近くにはボクたち以外の人はいない。が、別にどこかの誰かに仕組まれたのではなく、クンビーラの記念式典が行われているためにそちらに人手が集中しているだけだろう。ハレの日だから普段以上に財布の紐も緩みがちになるだろうしね。


「これなら思いっきり動き回れそうだな」

「周りの被害を気にせずに立ち回れるのはありがたいぞい」


 どこから取り出したのか弓に軽く矢をつがえていつでも引けるようにしながら、凶暴な顔つきになるおじいちゃん。微笑んでいるはずなのにとっても怖いよ!?

 さらにゾイさんも周囲に握り拳ほどの火の玉や土塊を浮遊させて、完全な臨戦状態だ。

 それにしても、頼もしさよりも先に不安感に駆られてしまうのは何故なんでせうか?


「いやいや、おじいちゃんもゾイさんもほどほどのところで加減して下さいよ。地形が変わったなんてことになったら、どんなお説教をされるのか分かったものじゃないんだから!」


 放置していた結果「やり過ぎて周辺環境が被害甚大!」という未来がありありと目の裏に浮かび上がってきて、慌てて二人に釘を刺す。

 ネイトに叱られてしまうのは本気で勘弁なのですよ。ガクブル。


 こちらが戦いの準備を整えたことで、場の緊張感がさらに増していく。

 これは……、どこかからこちらの様子を探っているということなのだろうか?しかし多少の起伏はあるけれど、基本的に周囲には開けた草原地帯が広がっているし、身を隠せそうな場所はほとんど見当たらない。

 少し離れた場所にあるのも、林というよりは木々が数十本寄り集まっているだけだ。しかも密集具合もそれほどではなく、幹と幹の間からは向こう側の景色――代り映えのしない草原だけど――が透けて見えていた。


 敵のいる方角が分からなければ動きようがない。

 結局、遊撃役のエッ君と盾役のリーヴはボクと一緒に馬車の荷台に留まることを余儀なくされていた。


 一応、リーヴは〔聖属性魔法〕技能の【ホーリーボール】という遠距離攻撃の手段も持ってはいるのだけれど、魔力の値が四と低いことや【ブレスヒール】という回復魔法も使えるようになっているということでMPは温存していく方針だ。


 エッ君は……、〔不完全ブレス〕技能の威力が未知数過ぎる。

 下手をすればおじいちゃんたち以上に環境破壊をしてしまいかねないので、〔瞬間超強化〕と〔竜帝尾脚術〕での接近戦闘を主体にしてもらう予定。


 そしてボクはというと、いつもの短槍を両手で持ちいつでも魔法で攻撃ができるように準備をしていた。とはいえ、下手に同時に攻撃するとゾイさんの魔法と影響し合って威力の低下につながる可能性もある。初撃は任せて第二派での攻撃が役割ということになりそう。


「ちっ!プレッシャーをかけてこっちの疲弊(ひへい)を狙う腹積もりか」


 しかし、こちらの戦闘準備が完了しても敵は一向にその姿を見せようとはしなかった。


「おじいちゃんやゾイさんに恐れをなした、なんてことは考えられない?」

「それならこの張り詰めた空気も弛緩しているはずだぞい。戦う意欲は失っていないと考えておくべきだぞい」


 ボクの予想はゾイさんによって即却下されてしまった。まあ、自分でも甘い期待だなとは思っていたからショックではないけれど。

 やはりおじいちゃんの疲弊狙いという予想が一番あり得そうな流れのようだ。奇しくもゾイさんが言っていた「一筋縄ではいかない」というのが証明された形となってしまった。


「……このまま続くのは不味いな」

「かといって誘い出すにしても、居場所が分からないのではいざ交戦となった時に不利になってしまうぞい」


 物理と魔法という違いはあっても、おじいちゃんもゾイさんも攻撃という役割に特化している。長い冒険者生活で〔警戒〕や〔気配遮断〕といった技能も習得はしているものの、それほど熟練度は上がっていないという話だった。

 ボクもまたネイトというその道の先達がいたものだからそれなりにしか熟練度の獲得はできていない。

 つまり何が言いたいのかといいますと、


「敵、どこ?」


 という状況に陥ってしまっているのだった。


「うーん……。こういう時は考えられる可能性を片っ端から上げていくのはどうかな」


 そうすることでこちらとしても、最適ではなくとも対応するための心構えくらいは持つことができるのだ。と、語っていたのは例によって素敵に不敵で無敵な従姉妹様です。


「ふむ。こうやってただ待っているだけではどうせジリ貧なのだ。リュカリュカの思い付きに乗ってみるのも一興か」


 語尾なしの真面目口調ということは、ゾイさんは賛成してくれるということだね。


「戦うつもりがあるってことは、ある程度は近くにいるってことだろうな。姿をくらましているとなると、擬態もしくは透明化か?」


 そしておじいちゃんはすぐにいくつかの案を上げていく。

 擬態というと保護色とかそういうやつだよね。


「透明化はマジックアイテムの中でも貴重で、しかも魔力消費がはげしいらしいから、ただの魔物が使いこなしているとは思えんのだが?」

「ここはそういう先入観なしで考えていきましょう。思い込みで裏をかかれるのは嫌ですから」


 ゾイさんの反論にストップをかける。どうせ大半は頭の片隅に置いておくだけになるのだから、色々な案が出てきていた方が良い。


 それにしてもさすがはファンタジーな世界。まさか透明化できるアイテムがあるとは。


「透明ってことなら今もボクたちの上空を飛んでいるっていう可能性もあり?それなら逆に地面の下というのも――」


 そんな思い付きを口に出した瞬間、軽い地響きと共にどこからともなくゴボッゴボッ!という異音が聞こえてきた。


「これはいかんぞい!」


 真っ先に反応したのはゾイさんで、荷車に繋がれた馬たちに向かってピシャリと鞭を当てた。

 すると当然、ボクたちが乗っている荷馬車が動き出す訳で。


「うわっとお!?」


 慣性の法則に従ってよろめく身体を必死になって足腰で支えて、何とか転倒することだけは避けた。

 が、耐えられたのはボクだけだったようで、うちの子たちは二人とも荷台の上にゴロンゴロンと転がってしまっていたのだった。

 平素であればそんな二人の姿に笑いが込み上げたところなのだろうけれど、この時ばかりはそんなことを言っていられる余裕はなかった。

 動き出した荷車のすぐ背後、つまり直前までボクたちがいたその場所を大量の土砂が噴出したかと思えば、巨大な影が現れていたのだから。


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