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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十二章 ここからはボクたちのターン
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135 イベントの連動

「いきなり黙り込んでどないしたんや?」

「ごめん、ちょっと黙っててくれる」


 エルフちゃんの呼びかけを片手で制して、再び思考の海の中へと潜っていく。


 まず、前提として相手は強い魔物を欲しているんだよね。だけど、強い魔物を捕まえるとなると当然そのリスクは大きくなる。そうすると捕まえるためには何かしらの手段が必要となる。クンビーラと争わせて弱らせようとしているのも、その一つということらしい。


 でも、果たしてそれだけだろうか?ボク自身ならどうする?

 弱点を見つけ出してそこを突く?有効だけど、やり過ぎて倒してしまっては意味がない。そもそもの話、レベル差が大きい強力な魔物となんて戦いたくもない。


 それならどうすればいい?

 決まってる。強くない状態のもの(・・・・・・・・・)、例えば子どもなどを捕らえればいいのだ。育成には時間と労力とお金が必要かもしれない。それでも失敗して何も得られないことに比べればはるかに大きな成果となるだろう。


「……同じことを考えた人がいても不思議じゃない。あの時、エッ君と出会ったのはそういうことなの?」


 ゾクリと背筋が粟立つ。はじめは『自由交易都市』だからなのだと思っていた。でも、よくよく考えてみればあの子と出会ったのは入り組んだ裏路地の先のスラムだった。


 『竜の里』から首尾よく卵を盗み出したところまでは良かったけれど、その後ブラックドラゴンが追いかけてくるとは予想外の展開だったのかもしれない。

 逃げられないと悟った本物の犯人たちが自分たちの所属を知られないようにするため、クンビーラの裏稼業の連中に売り渡したのだとすれば、エッ君を捕まえようとしていたのがやけにヘッポコな連中だったことにも一応の説明がつく、かもしれない。

 もしかすると、追いかけてきたブラックドラゴンにクンビーラを襲わせることも計画の一つだったのかも。


 ただ、これはあくまでもボクの仮説でしかなく、しかもランダムイベント『竜の卵』には続きのお話が用意されてはいるが、さらわれた背景などの詳しい内容は一切不明ということになっているのだ。

 まあ、続編が正式に実装された時点で新しく設定が追加されるという可能性はあるだろうけれど。


 ここでボクが思い出したのが、おじさんがブレードラビットをけしかけてきた時のことだ。本来あの『突然の襲撃』イベントはブラックドラゴンとは全く関係のなく、発生条件も有力者と一定以上仲良くなるというものだった。

 つまりですよ、同じように『竜の卵』イベントと連動してしまったイベントがあったのではないかと考えたのだ。


 これは少し情報を漁っておく必要があるかもしれない。

 こういう時は……、うん。一旦リアルに戻ってネット等を活用する方が良さそう。戦闘中など一部を除いて、大半の時と場所で自由にログアウトできるのは『OAW』の利点の一つだよね。

 まあ、強制時間経過など全ての機能を使う場合には、宿のお部屋や拠点(ホーム)を利用しなくちゃいけないようになっているけれど。


 それはさておき、悩んでいるように見せかけたまま思考だけでログアウトを選択してリアルへ。




 眩暈(めまい)にも似た感覚が起きるのも一瞬のことで、すぐに意識が鮮明になってくる。同時に横たわったベッドの感触やヘッドギア型のディスプレイの裏に映し出された映像など、五感も働き始めたのを認識する。


「あー……。ネットであれこれ調べるのなら、ゲームだけログアウトしてダイブは続けたままでも良かったかも」


 そう思ったのも束の間、呟いた声がかすれていることに気が付いた。暑さ対策の空調により、思っていた以上に乾燥してしまっているようだ。

 ちょうどいいので、少し休憩にしよう。


 自室から出た途端に湿度たっぷりな暑苦しい空気の抱擁という熱烈歓迎を押しのけて、一階へと向かう。週末日曜日の午前中ということでリビングでのんびりテレビを見ながら洗濯物をたたんでいる母親――自分の分はちゃんとボクがたたんでますよ――と二言三言の言葉を交わしながらキッチンへ。


 冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぐと、ゴクゴクと音がするような勢いで飲み干していく。

 自分で思っていた以上に喉が渇いていたもようです。麦茶が喉を滑り落ちていく感覚が心地良い。あ、もちろん空いた片手は腰に当てていますよ。


 生き返った気分で片付けを済ませると、お小言を貰わない内にさっさと退散する。実は最近、気難しい年ごろの娘さんを演じておけば母親はともかく父親はあまりとやかく言わなくなることを発見したのです!

 ふふん。ボクだっていつまでもいい子ばかりではいられないのですよ。


 さてさて、自室へと戻ってきたところでさっそくログアウトしてきた本題の調査を開始です。

 お昼も近い時間帯だからフルダイブは止めておいて、ヘッドギアのVR機能だけを起動させてネットへ接続。他人がいないことが前提にはなるけれど、感覚的に操作できるからVRでのネット検索はかなり楽に感じられるね。


 まとめに攻略、個人的な感想など複数の『OAW』について取り上げたサイトを同時に開いて、それえらしい記事や項目を探していく。


「ん。これとかが良さそう」


 しばらくあちこちを見て回ったところでボクの目に留まったのは、闘技場関連のイベントやクエストをまとめたものだった。


「一応、基本的なところから確認しておいた方がいいよね。えーと、なになに……」


 まず、闘技場は四つのエリア全てに存在するようになっているようで、身分を問わずに多くの人たちの娯楽として成り立っているらしい。

 これについてはゲームの方の都合っていう面が強いような気もする。


 そしてこの闘技場だけど、エルフちゃんから聞いたように大きく分けて人対人、人対魔物、魔物対魔物の三種類があるみたいだ。細かく言えば参加人数などいろいろなコースがあるようだけど、その辺りの詳しいことについてはまた後日ということで。


 ともかく、そんな風に様々な種類があることから、闘技場では人気の剣闘士だけでなく強い魔物がいつも必要となっている、ということであるようだ。

 そのためか闘技場の周辺の街では討伐ではなく、魔物を捕獲してくるといった類のクエストもあるらしい。

 某狩ゲームとは違って弱らせて眠らせれば終わりという訳ではなく、闘技場に引き渡すまではお仕事であるためか、かなりの高難度になっているもようです。


 プレイヤー、NPCを問わずに〔調教〕技能を用いて一時的に仲間にする、という方法でクエストを熟すテイマーもいるようだ。


「ブレードラビットを操っていたおじさんも、普段はこういうお仕事をしていたのかもね」


 NPCの一人ひとりにまで細やかな背景設定がなされていることに改めて気が付かされたのだった。


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