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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十二章 ここからはボクたちのターン
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133 超秘密会談

 お城に着くまでの間に血沸き肉躍るような大冒険が発生するはずもなく、ボクとエルフちゃんはグラッツさんや騎士さんたち――中央広場の騎士団詰所で数名追加された――に付き添われて無事にお城へとやって来ていた。


 え?そんな街中で襲撃を受けたのはどこの誰だ、だって?

 あー、あー。キコエナーイ。


 ……と、まあ、冗談はここまでにしまして。

 今のように護衛を付けてもらったり、周囲に意識を張り巡らせていたりするためか、あの時以来事件らしきものは起きてはいなかった。これはボクたちだけでなく、貴族なども同様だ。


 エルフちゃんによると、現在敵方の勢力は仕事を受けた首謀者と思われる男ただ一人しかいないため、手当たり次第に攻撃はできなくなっているのだろう、ということだ。

 ただ、これから先合流してくる仲間がいないとも限らないので、警戒は緩めない方が良さそうとのこと。


「ただあいつ、陰険そうやったし手柄は全部ひとり占めしたいタイプやったから、その可能性は低いような気もするけど」


 ハッと小馬鹿にしたように笑うエルフちゃん。まあ、一時とはいえ義賊なんてことをやっていたのだから、反りが合うとはとても思えない相手だ。


「それとあちこちで式典はド派手にやるって喧伝して回ってるやろ。どうもそれが(やっす)いプライドを刺激したみたいやで。絶対に台無しにしてやるいうて息をまいとったから案外当日までは大人しいままかもしれん」


 ふみゅ。こちらの狙い通りに動いてくれているというなら御の字なのだけど。

 常に気を張っておくのはとってもに疲れるので、これだけでもかなり有益な情報だと言えそう。エルフちゃんを引き込めたのは色んな意味でプラスだったね。


 まあ、ぶっちゃけ、ゲームとしてみると町や村などは安全地帯という扱いなので、その枠を破壊してしまうようなことはなるべくしたくないだけ、なのかもしれない。

 なんて身も蓋もないことを頭の片隅で考えていたりもしたのだけれど。


 さてさて、お城に到着すると、すぐに公主様と宰相さんに会うことができた。「昨夜の一件」とか「緊急を要する」とか、それっぽい言葉を入れたのが良かったみたい。

 さらに「極秘の情報」の一文が効いたのか、なんと侍従さんたちだけでなく護衛の近衛すらなしで面会してくれたのだ。


 これにはボクも驚いた。エルフちゃんなんて驚きを通り越して呆れているくらいだったからね。

 当の本人たちは「自分で、しかも人前で茶を入れるのは久しぶりだ」と何やら楽しそうにしていたけど。


「ぶっふうううう!?」

「がはっ、こほっ!?」


 えー、そのお茶ですが、ボクが話し始めた瞬間に盛大に二人のお口から吹き出されるという悲しい結果となってしまいました。

 あ、一瞬だけど虹が見えた!などと彼らの正面に座ったまま暢気(のんき)なことを考えていられたのは、咄嗟に横を向いてくれたお陰だ。

 二人が紳士で助かったよ。


「りゅ、リュカリュカよ。今、何と言った?」

「え?だからこっちのエルフちゃんが昨夜(ゆうべ)お城に忍び込んでいた曲者(くせもの)です」

「……その通りなんやけど、もう少し言い方っちゅうもんを考えて欲しいわ」

「そんなの取り繕うだけ無駄むだ。むしろかえって怪しまれると思うよ」


 里っちゃんによると、「情報を小出しにするのは交渉をする時。信用や信頼が欲しいなら最初から全部の情報を開示しておくべき」なのだとか。

 実際、敵方の首謀者はボクたちの情報を小出しにしたためにエルフちゃんに不信感を与えてしまった。そしてその結果、こうして彼女がクンビーラ側に付くという事態にまでなっている。


「確かにその言い分には一理あるとは思うが……」

「さすがにそこまで明け透けにされると、な……」


 と、何やらぐちぐち言っていましたが、時間がもったいないのでさっさと情報の共有から始めましょう。


「ふむ。ではこちらの思惑通り、敵が動くのは式典の時ということになりそうなのだな」

「そうです。そちらの挑発にあえて乗り、それを叩き潰すことで自分の力量を見せつけようっていう腹ですわ」

「伝え聞く性格の通りだな」


 宰相さんが言ったように、実は敵方の首謀者はそれなりに名前の売れた人物であるようだ。

 裏社会の人間が表の人たちの間で有名になっている時点で、それってどうなの?と思わなくもないけれど、こちらではそういうものらしいので突っ込みはなしの方向でお願いします。


 そして肝心の有名になっている性格だけど、自己顕示欲が強い、その一言に尽きるらしい。

 なんでも、某怪盗のように犯行現場に自分の仕業だと分かるような痕跡を残していくのだそうだ。

 特に多いのが蛇を模した落書きで、そのため、『毒蝮どくまむし』という通称まで着いてしまっているのだとか。


「いや、蝮って毒蛇の代表格ですよね?どうしてわざわざ上に毒って付けたの?」

「そう言われてみれば、毒毒蛇って言っているようなもんやんな。あいつの性格からして実は自分で言い出したんかもしれん」


 自称『毒蝮』……。

 痛い!とっても痛々しいです!


「一応聞いておきますけど、他の事件の隠れ蓑にするためだったり、捜査のミスリードを誘うためだったりという線はないんですか?」

「ない。むしろ自分の起こした事件が目に付くようにするためなのか、やつが犯行を行う前後は不自然なほどに平穏になるとも言われている」


 うわあ……。どこまで自己主張が激しいんだか……。

 でも、見方を少し変えると「世間を騒がせることでしか自分をアピールできない不器用な人」とも捉えることができる。

 だからといって容赦をする気もなければ、その人の自由にさせるつもりもないけれど。


「ところで、『毒蝮』に仕事を依頼したのは一体どこの誰なのだ?」

「それを話す前に、ウチがどう扱われるんかを聞いておきたいです」

「ううむ……。差し当たっては私の直轄の配下ということにするか」

「宰相さんの?」


 あら、これは予想外。てっきり公主様直属となるのかと思っていた。


「叔父上、申し訳ないがよろしくお願いします」

「構わんよ。その代わり表の情報網はそろそろヴェルに引き渡すぞ」

「分かりました」


 実はとっても重要なやり取りを目の前でされている気がする……。

 エルフちゃんも頬が引きつっておりますよ。


「ああ、言っておくがリュカリュカたちも彼女と同等の立場なのだぞ」


 はい?


「あの調査の一件についてだ。私個人の依頼として冒険者協会を通しているとはいえ、クンビーラの機密についての調査なのだから。組織内での立ち位置を明確にしておくのは当然のことだろう。まあ、臨時の立場ではあるがな」


 知らない間に重要ポストに就けられていたみたいです。

 臨時だけど。


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