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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十一章 お城での一夜
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118 見た目も大事よ

「あの、ちょっと無作法になるのですけれど、許してもらえますか?」

「これも食事時の余興の一つと考えれば問題ないだろう」


 言いながら公主様が左右に目を動かすと、公主妃様と宰相さんがゆっくりと頷いた。

 許可が出たみたいだね。


「それではちょっと失礼して……。あの、パン籠を配膳用手押し車(ワゴン)に積んでこちらに持ってきてくれませんか」


 侍女さんたちにお願いする間に、席を立って部屋の隅へと向かう。


「お持ちしました」

「ありがとうございます」


 運ばれてきたパン籠を見ると、いくつかの大きさのパンが雑多に放り込まれて山になっていた。

 「はあ」と小さくため息を吐くと、まずはワゴンの上に布巾を広げてパンを大きさごとに仕分けしていく。


「あの……、何をなさるのでしょうか?」

「料理というか、食べ物には見た目も結構大事なんですよ」


 不安そうに尋ねて来た侍女さんの一人にそう返すと、取り出したパンを再び籠の中に、今度は種類ごとに丁寧に並べ直していく。

 フランスパンのような固めで少し細長いものは縦にして半ば籠から飛び出すように並べる。

 後は比較的大きめのものや生地がしっかりしたものから順番に置いて行き、柔らかい種類のものが潰れてしまわないようにすれば出来上がりだ。


 店頭ディスプレイ用の食品サンプルを作ったり、メニュー表を飾る写真を取ったりする本職の人からすれば粗が目立ちまくりだろうけれど、先ほどまでの適当山盛り状態に比べれば見映え良くなったはずだ。


「まあ……!」

「こちらの方が食欲が湧いてくるような気がします」


 良かった。侍女さんたちにも好評みたい。

 これなら少なくとも全く受け入れられないということはないだろう。


「はい。それじゃあ、テーブルまで運んでください」


 そしてワゴンが運ばれていった先のテーブルでは小さく歓声が上がっていた。


「いかがですか?」


 席について尋ねてみると、公主様たちは輝くような笑顔を向けてくれた。

 うっ!美形揃いだから余計に眩しく感じちゃう!?


「これは……。正直驚いたぞ」

「美味しそう!」

「ええ。本当に美味しそうですね」


 服装その他のことから予想はついていたけれど、美的センスが異なるという訳ではなかったようで一安心だ。

 控えていた執事さんたちも興味津々な顔で観察しているから、明日以降は盛り付け方にも工夫がされるようになるんじゃないかな。


「料理など味が全てだとばかりに思っていたが……。これを見せられると考えを改めざるを得ないな」

「味がいい、美味しいのは大前提だと思います。でも、それを食べる前から感じることができれば、そして食卓を囲む人たちで共有することができるなら、食事はもっと楽しいものになると思います」


 宰相さんの呟きに「聞きかじりの知識でごめんなさい」と思いながら説明をする。


 ちなみに、この視覚による情報共有が有効なのは食事だけじゃなく、音楽など他の五感が中心となることでも当てはまるらしい。


「コンサートやライブでやたらと派手な演出をすることがあるよね。あれも視覚によって情報を共有することによって、会場内にいる人たちの一体感を高めることを狙ったものなの」


 と教えてくれたのは、言わずと知れたボクの従姉妹様の里っちゃんです。

 ただし欠点というか難点として、ある程度同じ素地が必要になってくるそうだ。料理で例えるならば、どんなに綺麗な盛り付けがされていたとしても、全く見たこともない食材を聞いたこともないような手法で調理されたとなると、味を想像することができないため美味しそうだと思うことができないという訳だ。


 クンビーラでうどんがすんなりと受け入れられた背景には、食材の一つとして常日頃の調理に取り込まれたから、という点もあったのかもしれない。

 そういう意味ではソイソースの発見が少し遅れたのはちょうど良かったとも言えそうだ。


「まさかリュカリュカにこんな特技があったなんて。人は見かけによらないものなのですわね」


 ミルファ、後でしっかりお話しようか。


「とても素敵なことですが、これは食べることに苦労しないだけの余裕があって初めて成り立つことのようにも思えます」


 ネイト……。その通りだとは思うけど考え方が重いよ……。


「ならばこのうどんも、もっとよい盛り付け方があるということなのか?」


 公主様がそう口にしたことで再びボクに視線が集まってくる。


「……好みなどもありますから、絶対の正解はないとまずは理解しておいてください。あくまでボクの考えですけど、他の具材が全てうどんの下に隠れてしまっているのはもったいないと思います」

「だが、うどんがメイン食材なのだから、それを一番目立つところに配置するのは当然ではないかね?」

「何もうどん全部が見えなくする必要はないんです。各具材を一つずつ上に飾り付けるようにするだけでも印象は変わってきますから」


 実際にうどんの下に沈んでいたダイコンやニンジンなどの具を取り出して並べて、それを疑問に思っていた宰相さんへと見せる。


「ううむ……。確かに、この方が()える気がするな」


 そこまで神妙な顔で唸るほどのことでもないような気もするが、彼らにしてみれば大きな発想の転換ということなのかもしれない。


「後は器かな。料理の一番の主役はやっぱり食べ物じゃないでしょうか。だからお皿などの器は脇役、引き立て役になる物を選んだ方が良いと思います」

「今は食器の方が主役になってしまっている、ということですね?」


 公主妃様の問い掛けに、首を縦に振ることでその通りだと答える。より正確に言うなら、脇役が主役を押しのけて舞台上で好き勝手やっている感じだろうか。

 まあ、上に乗っている料理を全部食べることで、隠されていた絵柄が見えるようになる等の仕掛けも楽しいけどね。子どもに完食させる訓練をする時とかには大いに利用できるし、その辺りはやり方次第、使い方次第ともいえるのだろう。


「例えば、淡い色合いのスープを目立たせるならば白色の器が効果的だと思いますし、逆にうどんの白さを際立たせたいなら暗色系の器に盛りつけるといいと思いますね」

「面白いな。食器一つでこれほど様々な違いが出てくるものなのか」


 偉そうな物言いをするならば、人も物の使い方次第、ということになるのかもね。


「この話は料理長たち厨房の者にも伝えておくとしよう。なに、頭の固い連中でも実演してみせれば納得することだろうさ」


 公主様?悪戯を思い付いたようなそのお顔がとっても不安にさせられてしまうのですけど?

 くれぐれも穏便にお願いしますよ。


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