117 お食事会
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ありがとうございます。
テーブルには四つの席、ボクとミルファにネイトの三名だけでなくリーヴのものまで用意されていた。
エッ君は当然のようにカストリア様に捕獲されて、彼女の膝の上です。
その様子を公主様を挟んで反対側の席に座っていた男の子、ハインリッヒ君――まだ紹介されていないから暫定だけど――が羨ましそうに見ていたのだけど、果たしてそれは公主妃様だったのか、それともエッ君だったのか。
そんな男の子をそのさらに隣に座った宰相さんがちょっぴり寂しそうな顔で見ていた。
完全に孫にダダ甘なおじいちゃんポジションな彼の姿に、ちょうど真向いの位置に座ったミルファが呆れたように頭を振っている。
ちなみにボクたちの席の並びは、公主妃様に近い側からミルファ、ボク、ネイト、リーヴの順になっている。ピグミー体形のリーヴにはわざわざ専用の椅子を用意してくれるという念の入り様です。
「さて、すっかり時間も遅くなっている。少々無作法にはなるが内輪だけの席であることだし、自己紹介は食事をとりながらにするとしよう。料理を運んでくれ」
公主様が指示を出すと、後方に控えていた執事さんたちが恭しく礼をしてから、きびきびと配膳を始める。
洗練された動きは、つい見惚れてしまいそうになるね。
それにしてもどうやってモーションを取り込んだのだろうか?やっぱり高級レストランとかの本職さんたちに協力をお願いしたのかな?
「それでは、食事を始めるとしよう」
そんなリアル側の事情に思いを巡らせている間に、料理が運ばれ終わっていたようだ。公主様の言葉に合わせるように各人がお祈りのような動作をしてから、料理へと手を伸ばしていく。
あれ?自己紹介は?と思わないでもなかったけれど、こうしている間にも料理はどんどん冷めていっている。まずは食べることに集中するべきなのかもしれない。
さてさてその料理なのですが、お城の料理長が気合を入れただけあってどれも美味しそうだ。
……問題は、器と中身が合っていないことだろうか。
はい。何を隠そう本日のメイン料理はうどんだったのだ。しかも香りから察するにソイソースを使った純和風テイストな一品。
うどんを少し持ち上げてみれば、具材として出汁で良く煮込まれたダイコンやニンジンに鳥肉、そしてキノコの類が見える。
そういえば『宿・料理店連盟』で本格的にうどんを提供するようになった時、ソイソースを使ったうどん料理の一つとしてしっぽくうどんのつくり方も教えたこともあったね……。
まあ、料理そのものに文句はない。
ただ、さっきも言ったように器が、ねえ……。スープやシチューなど入れるような深さのある洋皿なのは仕方がないとして、金銀を始めとしてやたらと原色を塗りたくった装飾過多なのはいただけない。
やっちまった感があるというか、悪い意味での和洋折衷となってしまっていたのだった。
せめて白磁ベースのシンプルな柄の食器であれば、違和感も少なかったものを……。
「うん。味は良いだけに見た目が惜し過ぎる……」
出汁の方も市場にあった昆布っぽい海藻や乾燥キノコを使って旨味をしっかりと取り出したようで、体に沁み込むような優しい味に仕上がっている。
高価なソイソースを少量で済ませるため裏技的に教えた技法も取り入れている辺り、お城の料理人たちはかなりの腕前でありながら柔軟な思考の持ち主のようだ。
……だから、器がこんなことになってしまったのかのかも?
ふと気になってテーブルの上を眺めてみれば、籠に山積みになっているパンなども見た目があまり重視されていない気がする。
そういえばしっぽくうどんの方も、具材が全てうどんの下に隠れていたっけ。
「ふむ。リュカリュカよ、何か気になる事があるようだな」
公主様に言われてハッと顔を上げると、テーブルについている人たちだけでなく、給仕をしてくれていた執事さんや侍女さんたちもボクのことを見つめていた。
どうやら気が付かない間に随分と挙動不審な態度を取ってしまっていたようだ。
ホームでもある『猟犬のあくび亭』でなら、「いやん。恥ずかしい」などと言ってボケるところだけど、さすがにここではそんなこともできるはずもなく。
さて、どう言って凌ごうかと頭を悩ませる。
「うどんは元々そなたの郷里の料理だったと聞く。だとすれば我々の知らない作法もあるだろう。全てを取り入れる事はできないかもしれないが、先人への経緯は払うべきだとも思っている。よければ忌憚のない意見を聞かせて欲しい」
周囲を見回してみると、他の人たちも同じ意見のようだ。小さく頷いたり、じっとこちらを見つめてきたりしていた。有耶無耶に済ませることはできそうもない、か……。
「うどんに関しては食材の一つとして紹介したものですから、こちらの食文化の中で根付いていくのであればそれで構わないと思っています。どちらかと言えば庶民の食べ物ですから、難しい作法も必要ありません。あ、もちろん味の方もとっても美味しいですよ」
強いて言うなら、啜ることができないのがちょっと辛いところではあるけど。
それもリアルで外国のニポン料理店にでも行っていると思えば、苦になるというほどでもない。
「我らに気を遣っている、ということではないようだな。だが、それでは一体何に気を取られていたのだ?」
公主様に代わって今度は宰相さんが切り込んでくる。宰相という重要な地位に就いているだけあって、よく観察されていることで。
「ボクが気になったのはこの器とか盛り付けのことです。ええと、公主様たちは普段からこの食器とかを使われているのですか?」
「そうだな。常に同じではないが、これらは常用しているものの一つだ」
「あのパン籠とかも?」
そこまでは知らなかったのか、ちらりと後方の執事さんに視線を飛ばす公主様。
「失礼ながら代わりにお答えさせて頂きます。リュカリュカ様がおっしゃったように、その籠も常日頃から食事の際に使用している物でございます」
そして前置きをしてから執事さんが疑問に答えてくれる。
「だとすれば、パンの盛り付け方もいつも通りということですか」
盛り付けたというよりは、単に籠に放り込んだという方が正しいのではないだろうか。
微妙なところでこの世界の無頓着さを見せつけられた気分となってしまった。