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110 敵の狙い

 襲撃者の意図が分からずに頭を捻る中で、それはほんの思い付きのようなものだった。


「そういえば、おじさんが襲われていたこと以外に変わったことはありませんでしたか?」

「変わったこと、かね?ううむ……。牢の設置されていた地下の部屋は、争ったためかそれとも毒でもがき苦しんだせいなのか、かなり荒らされてはいたが……」


 騎士さんの説明によると、牢は一般的にイメージされるような鉄格子のものではなく、頑丈な石造りの小部屋を分厚い鉄の扉で塞いでいるという形なのだそうだ。


「扉には開閉式の覗き穴と食事を差し入れるための隙間があるだけとなっているので、それぞれが隔離される小部屋には死角となる部分が存在するのだ」


 一応、人道に配慮したということらしいけれど、実際は看守役が捕らわれている人からの甘言に惑わされないようにするためなのだとか。


「四六時中顔を突き合わせていると、妙な連帯意識などが芽生えてしまうこともあるのだ」


 確かリアルでもそういう事例があったね。はっきりとは覚えていないけれど、報道系の情報番組とかで聞いたことがある気がする。

 ともかく、そういった建物上の問題があったので、おじさんを確実に害するために襲撃した犯人は扉を開けて牢の外へと誘い出していたらしい。


「そのせいで部屋に保管していた収監者の持ち物などがぐちゃぐちゃになってしまっていたよ。まったく余計な仕事を増やしてくれたものだ。……おっと、失礼。つい愚痴を言ってしまった」


 ボクたちにするべき話ではなかったと頭を掻く騎士さん。そして普段は毅然とした姿を保っている人の思わぬ弱目に他の皆もほっこりとしてしまったもようです。

 と、暢気そうに状況描写をしているけれど、実はこの時のボクはそれどころじゃないパートツーになっていた。


「どうしたんですの、リュカリュカ?」

「……襲撃した連中の狙いが分かったかもしれない」

「それは本当かね!?」

「おじさんの荷物がなくなっていないか、急いで確認してください!」

「了解した!」


 さっきのこともあってか、疑うこともなくボクの言葉に従ってくれる騎士さん。

 信頼してくれるのはありがたいけれど、それで良いのかと疑問に思わなくもない。


「おい、今度は何を閃いたんだ?」

「あのおじさん、ボクを襲って来た時に『ブレードラビットを操っていた』って言っていたの。でもその数は五十匹くらいもいたから、とてもテイムできるような数じゃない」

「……魔物を操るための道具か何かを持っていたと、リュカリュカは考えた訳ですね」

「当たり。おじさんを殺すのは二の次で、実はその道具を奪いに来たんじゃないかと思って」


 問題は何を操ろうとしているのか、ということになるんだけど……。


「リュカリュカがクンビーラの守護竜になるように仕向けたブラックドラゴンが狙いだろう」

「やっぱりそれしかないよねえ……」


 むしろ今の状況で別の魔物狙いだったなんて豪快なフェイントを入れられても困る。


「ですが例えそのような道具があったとしても、ドラゴンを操るなど大それたことができるとは思えませんわね」


 うん。ミルファの言いたいことも分かる。

 基本的にドラゴンという種族はファンタジー系の世界観では最強に君臨する種族だ。


「我に従え!」

「やかましい」


 ぺちっ。

 終了。


 こんな感じで、悪魔召喚と並んで意のままにしようとすれば失敗する定番の相手だと言える。

 リーヴという助っ人があったとはいえ、当時レベル一だったボクとエッ君に敗北するようなおじさんの持ち物くらいでどうにかできるとは到底思えない。


「でもね、例えばブラックドラゴンに不信感を植え付けるのが目的だとすれば、難易度は達成可能にまで下がってくるかもしれないよ」

「ふうむ……。ブラックドラゴンが守護竜となれば、クンビーラの名は『風卿』だけでなく他の地にまで届くことになるだろう。加えて『三国戦争』を生き抜いたという実績もあるとなれば、名実ともにこの地方の中心として認識されることになる。それを阻止することこそが本当の狙いという訳か」


 邪魔をする理由としては十分すぎるほどだね。

 加えてあの王冠を手にすることができれば、「自分たちこそが正当な『風卿』の後継者だ」と名乗る事もできる。


 未だ推測の域を出ないものではあるけれど、これで一応、ボクたちの周りで起きていた事件が一本の線で繋がったということになる。


「だけどそうなると結構まずいかもですよ。あのブラックドラゴン、頭に血が昇ると人の言う事を聞かなくなるから、敵方のペースで話を進められるとクンビーラが灰になっちゃうかも」


 それどころか最悪の場合、「不遜な人間どもを根絶やしにしてやる!」とか言って『風卿エリア』にある全ての都市国家が消滅させられてしまうかもしれないのだ。


 あの時のことを思い出しているのかエッ君がうんうんと頷く横で、パーティーメンバーの二人アンドおじいちゃんが真っ青な顔になっていた。


 余談だけど、ミルファはあの時婚約者であるバルバロイさんの実家のコムステア侯爵家が治める東の町に出かけており、ブラックドラゴンがクンビーラ方面へと飛んで行くのを遠目に見ていただけだったそうだ。

 もしもブラックドラゴンと対面した場に彼女がいたとしたら、まとまる話もまとまらなかっただろうから、その点については天の采配という名の運営のお慈悲に感謝したいと思う。


 基本的にはいい子なんだけどね。時々突撃癖が出るというか、脳筋思考になるのは今後矯正していかなくちゃいけないことだと思う。

 などと考えている内に彼女の方をチラチラ見てしまっていたようで、


「リュカリュカが何か失礼なことを考えているような気がしますわ」


 怪訝な顔をされてしまった。

 まったくこういうところは鋭いんだから。


「ソンナコトナイヨー」

「その片言口調なのが怪しさ倍増ですの!」


 ムッキーと叫び声をあげるミルファだったが、そのお陰かさっきまでの悲壮な空気は完全にどこかに行ってしまっていた。

 まあ、ボクも合わせて狙ってやった訳じゃないけど。


「とりあえず魔物を操る道具が奪われていると仮定して。差し迫った問題はどうやって連中とクンビーラは無関係だとブラックドラゴンに理解してもらうか、っていうことかな」


 自分で言っておいてなんだけど、物凄く難しい問題に思えてきた……。


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