11 冒険の舞台
ついに本編開始です。改めてよろしくお願いします。
カポッカポッという蹄が地面を蹴る音と、ゴロゴロという木製の車輪が進む音が聞こえてくる。
同時に瞼を通して明るいお日様の光を感じた。
「ん……、ここは……?」
「お、やっと起きたか」
ボクの呟きに足元の方から声が掛かる。慌てて上半身を起こすと、ニカッと笑ったおじさんが振り向くようにしてこちらを見ていた。
「随分と気持ちよさそうに眠っていたから、起こしそびれてしまっていたんだ」
「あ、いえいえ。こちらこそ乗せてもらっていたのに眠ってしまって……」
言いながら、開始直後に説明された設定を思い出す。確か……、冒険者となるために田舎の村から一番近い中核都市へとやって来た、というものだったはず。
ちなみにこの初期設定はいくつかあって、覇王として大陸の制覇を目指すものや、勇者様として異界から召喚された、なんていうぶっ飛んだものもあったりします。
「はっはっは。魔物の一匹も出てこなかったんだから、まあ良しとしようや。それよりも、ほら。お前さんの目的地である『自由交易都市クンビーラ』が見えているぞ」
「うわあ……」
おじさんの指さした右斜め前へと視線を向けてみると、そこには巨大な壁と入口らしき大きな門、そしてその前に並ぶ人や荷馬車の列が見えた。
「なんだ、田舎から出てきたと言っていたからもっと驚くかと思ったんだが?」
「いや、驚いてはいるよ。驚いてはいるんだけど……、壁しか見えないじゃん!」
もっとこう、綺麗な街並みだとか、美しいお城だとか素直に感嘆の声を上げられる何かが欲しかった。
「まあ、クンビーラは平地にある都市だからなあ。しかもほんの百年前までは『三国戦争』のど真ん中で、常に戦禍に晒されていたって話だ。周りを囲む壁も高く分厚くなっているのは当然ってことだな」
「そうだね。街並みの方は門をくぐった時の楽しみに取っておくよ」
さて、ここで『OAW』の世界について少しお話ししておこう。
冒険の舞台となるのは『アンクゥワー大陸』。名前の通りというかなんというか、港を示す錨形の地図記号をもっと太く丸っこくしたような形をしている。
現在隆盛を誇っているのは、大陸最大の湖のほとりに首都を置いて中央北部を支配する『水卿公国アキューエリオス』と、西方の高山地域を支配圏としている『土卿王国ジオグランド』だ。
実は同じくらいの領土を持つ国がもう一つあるのだけれど、さっきおじさんが言っていた『三国戦争』で大きく国力を減衰してしまったのだとか。
絶対君主だった皇帝の力が低下した東の大国、『火卿帝国フレイムタン』は現在各地の有力貴族が抗争を繰り広げる戦乱の地となっているらしい。
そして大陸の中央部分は三国の緩衝地帯としていくつもの都市国家が建設されている。ボクが向かっている『自由交易都市クンビーラ』もその一つだ。
三国から何度も攻められたのに独立を保ち続けたという経緯から近隣の中核都市であり、都市国家群の盟主的な扱いをされているのだそうだ。
三国にそれぞれ『卿』の文字が入っていることについてや、細かい地形その他のことはまた後日説明するということで。
他愛もない話をしている間にも荷馬車は進み、城門前の列の最後尾へと到着した。
「ひのふのみっちゃんよっちゃんと……六組か。今日はまだ少ない方だな」
総勢で三十人以上は並んでいたけれど、荷馬車で近隣の村々とクンビーラを行き交っているおじさんから見れば、何人かごとにグループになっていたのが一目瞭然だったようだ。
それにしてもあの数え方はいかがなものか。ファンタジーな世界観が一気に失われてしまったように感じられてしまったよ。
「アイテムボックス、オープン」
自分たちの順番が回ってくまでの間、特にすることがなかったのでアイテムボックスを確認してみることにした。
「さてさて、何が入っているのかなー?」
キーワードによって目の前に現れた布袋の中をガサゴソと漁ってみると……。
「初心者用の回復薬が五個に、安物ビスケットが三個。後は……、初心者用武器交換チケットが一枚ね」
武器交換チケットは好きなタイプの武器と交換してもらえるという優れモノだ。まあ、今回は初心者用と名前に付いたものとしか交換できないようになっているみたいだけど。
ボクの場合だと〔槍技〕を取得しているので槍一択だね。だけどプレイヤーの全員が武器を扱う技能を取得している訳ではない。
それなら実際に触ってみて、自分に合うものを手にする方が良いだろうという運営側の配慮なのだとか。
それまで丸腰というのも危ないので、初期装備の武器として初心者用ナイフも支給されているのだけど、こちらはどちらかというと採取や魔物の解体に使用するための物という扱いとなっている。
ついでに言うと、防具の方は上半身と下半身、そして靴の三つが初期装備品だ。
先ほどの初心者用のナイフと合わせて、これら四つは売買ができなくなっている。それというのも、これ以外の武器や防具には耐久度が設定されていて、使い続けていると壊れてしまうからだ。
その時に素っ裸になってしまわないように、これらの装備品は常に携帯しておかなくてはいけないようになっているのだった。
さて、残るアイテムのうち、初心者用回復薬の方だけど、これは五レベルまでの間なら五十ものHPを回復してくれるというありがたいものだった。
しかし、六レベル以上になるとその回復量はわずか十にまで減ってしまう。要するに、ピンチだと思ったら迷わずに使えということだね。
安物ビスケットはというと、こちらは空腹度を解消するためのアイテムのようだ。
『OAW』は時間の経過と共に空腹度が増加していくというシステムとなっており、これが百になってしまうと『飢餓』という能力がマイナスされる状態異常となってしまう。
空腹度は食べ物を食べることで解消されるため、安物ビスケットもまた料理系のアイテムに分類されることになるのだろう。
「どちらかといえば不味いっていうこの解説が気になる」
ちょうど空腹度が三十を超えていたので一つ食べてみました。
「……堅い。そして味がない。うん、これは美味しいとは言えない味だわ」
「おいおい、ボリボリと何を食っているんだ?」
「あ、おじさんも食べます?安物ビスケットだけど。どちらかといえば不味いけど」
「そう言われると貰わない方がいい気がしてくるな……」
「まあまあ、そう言わずに」
と、半ば無理矢理安物ビスケットの一つをおじさんに押し付ける。
「……間違っても美味いとは言えねえ味だなあ」
ぼやくおじさんの声を聞いた周りに並んでいる人たちが一様に苦笑いを浮かべている。どうやら安物ビスケットを食べた時のことを思い出しているご様子。
ボクはといえばNPCの感性もプレイヤーとほぼ変わらないようにできていると分かって、少しほっとしていた。
《初期ステータス》
名 前 : リュカリュカ・ミミル
種 族 : ヒューマン
職 業 : テイマー
レベル : 1
HP 50
MP 30
〈筋力〉 5 +1(装備品攻撃力)
〈体力〉 5 +3(装備品防御力)
〈敏捷〉 6
〈知性〉 6
〈魔力〉 6
〈運〉 5
物理攻撃力 6 物理防御力 8
魔法攻撃力 6 魔法防御力 6
〇技能
〔調教〕〔槍技〕〔水属性魔法〕〔風属性魔法〕〔調薬〕
〔生活魔法〕〔鑑定〕〔警戒〕〔気配遮断〕〔軽業〕
〇装備 手
・初心者用ナイフ(耐久値無限) : 物理攻撃力+1
備考…売買不可。野草の採取から倒した魔物の解体までできる多機能ナイフ。
〇装備 防具
・初心者の服 上(耐久値無限) : 物理防御力+1
備考…売買不可。上半身の装備品が破壊された時には、強制的に着替えさせられる。
・初心者の服 下(耐久値無限) : 物理防御力+1
備考…売買不可。下半身の装備品が破壊された時には、強制的に着替えさせられる。
・初心者の靴(耐久値無限) : 物理防御力+1
備考…売買不可。脚部装備品が破壊された時には、強制的に着替えさせられる。
〇アイテム
・初心者用回復薬 ×5 HPを50回復。ただし6レベル以上は10に激減する。
・安物ビスケット ×3 空腹度を30減少させる。どちらかというと、不味い。
・初心者用武器交換チケット ×1 名前に初心者用と付いた武器と交換できる。
〇所持金
・1500 デナー
次回投稿は明日の朝6:00の予定です。




