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102 夏のお昼ご飯

 それは、クンビーラの街中という安全地帯のはずの場所での襲撃と戦闘、あわやミルファが死亡してしまう危機を乗り越えての二人目のパーティーメンバー加入カッコお試し期間中カッコトジ、という事件やイベント盛りだくさんだったあの時からリアルで一日過ぎた日のことだった。


 昨日はネイトさんを仲間に引き入れたところでリアル側の時間切れと相成って、切り上げることになった。


 そしてテスト明けの週末という解放感に満ち溢れた本日、朝ご飯を食べてからさっそくログイン!した訳なんだけど、ものの見事に昨日の、ゲーム内換算では数時間前の出来事の後始末に奔走されることになったのでした。

 しかも、問題を大きくした当のミルファはというと、すやすやと気持ちよさそうに夢の世界に旅立ったままだったのだ。


 さすがにこれには温厚で知られたボクといえどもイライラが募ってしまい、その解消のために貴重な午前中のログイン時間の残りをつぎ込む羽目になってしまったのだった。


 一体何をしていたのかというのは、この後で語ることにしまして……。


 とりあえず、現在のことについて先にお話をしていこうと思う。

 ゲーム内では夕闇迫る時間帯だったけれど、リアルの方ではお昼になったばかりの時間帯だった。遠くから十二時を知らせるサイレンが微かに響いてきている。

 その事で体の方も時間を認識したのか、くーと可愛らしい音――ここ、とても重要!――がお腹から聞こえてくる。

 今日は土曜日だけど両親共に出掛けているので、お家にいるのはボク一人きり。まずは食材の確認にキッチンへと出動しよう。


「う暑っつ!?」


 自室から出た途端に熱い抱擁を仕掛けてくる初夏の空気にうんざりしながら、とっとこ階下のキッチンを目指す。

 階段をトントンと下るごとに体感温度が下がっていくのを感じる。同じ家の中だけど、二度くらいは違う気がするよ。


 気温に負けじと湿度も高くなるこの季節は、当然食べ物の傷みが早い。そのためうちではこの時季は特に、一食で食べきれるだけの料理を作るように心がけている。

 つまり、何が言いたいのかというと、昨夜の余り物の類は一切なく、食材しかないということです。


「うあー……。これからお昼ご飯を作るのとか、すっごく面倒くさいわ……」


 快適だった自室との差もあって、すっかりやる気というものがなくなってしまっているボクでした。


「かといって、この猛暑の中を出歩く気にはなれないし……」


 外を見ると昨日の嫌になるほどの晴天とはうってかわって、どんよりと分厚い雲が立ち込める曇天となっていた。

 耳をすませば、しとしとと小雨が降りしきる音も聞こえてくる。まさにこれぞ梅雨!と言わんばかりの天気となっていたのだ。


 以前にも述べた通り、うちの周りには田畑が多い。その分、食べ物屋さんやコンビニを始めとした商店までは少しばかり距離があるのだ。

 小雨とはいえ雨の降りしきる中を、しかもまとわりついてくるような高温多湿な空気をかき分けて出かけるには、かなりの覚悟が求められるのだった。


「何か簡単に済ませられるものは、ないかなーっと……」


 冷蔵庫に戸棚とキッチン内を漁り始める。

 そして見事採取、もとい発見した食材(アイテム)がこちら。


「お素麺に、一人前を個包装したカット野菜とハムね。……うん、これだけあれば『さっぱりサラダ素麺』ができるかな」


 素麺の上にカット野菜とハムをどどんと盛り付けるだけの簡単ヘルシー料理です。同じく冷蔵庫にあった出汁醤油を水で割ってからポン酢を少量くわえてやれば、熱さと湿度でへばり気味の体でもすっきりと食べられるだろう。


 メニューが決まれば後は動くだけ。

 さっそく素麺を茹でるためのお湯を沸かすために、鍋に水を入れて火にかける。その間に素麺の湯切り等を行うための(ざる)や、盛り付けるための器を出しておく。

 器の方は見た目も涼しげなガラスの容器を使いましょう。


 素麺の袋を見て茹でる時間をチェックし、スイッチ一つで動くようにタイマーをセット。カット野菜はそのままでも問題ないから、後はハムを一口大にするため包丁でずんばらりん。


 おっと、さっそくお湯が沸いてきました。気温が高いからかすぐにお湯が沸くのは夏場の良いところの一つだね。

 素麺の束を取り出して、できるだけ広がるようにお湯の中へと投入する。

 セットしたタイマーも忘れずにスイッチオン。


 軽く混ぜて全部がお湯に浸かっているのを確認してから、吹きこぼれないように火加減を調節する。

 それでは今の内にかけ汁も作っておいてしまおう。面倒な時はそのまま目分量で掛けてしまうのだけど、今日は出汁醤油だけじゃなくてポン酢をプラスする予定なので、一応味見をしておかないと。

 酸っぱすぎたり、しょっぱ過ぎたりだと、せっかくのお料理が台無しになってしまう。


 お水に少量ずつ出汁醤油とポン酢を入れていき、納得のいく味になったところで茹で上がりを知らせるタイマーが鳴る。

 シンク内に置いた笊に鍋の中身を全投入。一本たりとも逃がしませんよ!

 お湯を切ってから鍋に水をためて素麺を冷やしながら菜箸で捌く。ぬるくなってきたのでもう一度水を変えて再度冷やすアンド捌きます。


 しっかり水気を切ってから、ガラスの器へと入れて、その上に切ったハムを並べてはカット野菜をドバっと袋から直接盛り付ける。豪快料理は男性だけの専売特許ではないのだよ!

 最後にかけ汁を回しかければ『さっぱりサラダ素麺』の完成です。


 作ったお料理はスタッフが美味しく頂きました。

 という訳で、ツルツルしゃくしゃくモグモグごくん。え、早い?……女の子の食事風景をじっくり眺めようだなんて、いやん、えっち!で失礼だよ。


 使用した食器や鍋を洗って食器籠へと置いておく。食器洗浄機?大した数でもないから自分で洗った方が早いよ。

 凍りそうな水で泣けるような季節じゃないし。むしろ冷たくて気持ちいいです。食後の軽い運動ついでに終わらせました。


 そろそろ「OAW」へと戻るとしますか。ネイトさんが加わったから、パーティーの動きも再確認しておかないと。

 おじいちゃんやサイティーさん、ゾイさんたちの手が空いていたら、訓練を手伝って貰おうかしら。


 そんなことをしていたら、昨日の事件についても何か連絡がありそうな気がする。イベントクエストを進められるのは、もう少し先になるかもしれない。


 まあでも、まずはイライラ解消のために仕込んだものの結果を見るのが先決かな。

 さてさて、どんな反応を示してくれるのか、今から楽しみになってきましたよ。


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