101 公式イベント?(雑談回)
プレイヤーたちの街『異次元都市メイション』。
名前の通り『OAW』本編とは別の次元にあるためか、メタな話やネタバレの会話など様々な話題が飛び交う街でもある。
そんなプレイヤーたちの口の滑りを良くするために、美味い食事や酒を提供する店がある。
フローレンス・T・オトロ、通称『情報屋』がオーナーの酒場『休肝日』だ。
「フローラちゃん、エールのお代わり三つ頼むよ」
「はーい」
「悪いけど、メニュー持ってきてくれない?」
「少々お待ちくださいね」
「フローラちゃん、カツうどんと屋台風串焼きのセットを五つ!」
「はいはーい!」
そして今日も新鮮な情報を得るために、フローレンスは給仕のフローラに扮して店内を行き来していた。
普段であれば雑多な話題が飛び交う店内だが、運営から公式イベントの開催を通知された直後となれば、その話題に終始するのは当然のことだったといえるだろう。
「ついに『OAW』でも、プレイヤーを集めた形での公式イベント開催か」
「元が『笑顔』だから、いつかはやるだろうとは言われていたけど、思った以上に早かったねえ」
「販売開始したのが三月で、イベント開催が八月の最初の週末だから……、約五か月だな」
「あれ?スタートしてからまだ半年経ってなかったのか?」
「経ってねえよ。まだ四カ月だよ」
「おいおい、時間経過が分からないとか大丈夫なのか?今の季節が分かるか?」
「夏だってことくらい知ってるよ!ログアウトした時に部屋の暑さで死にそうになったわ!」
「まあ、『OAW』とリアルとで二重生活みたいなものだから、体感としては半年以上は過ぎている気はすることがある」
「分かる分かる。ログインする時に経過時間をいじることができるし。一番進んでいる連中だと、ゲーム内時間で一年を超えてるっていう話だぜ」
「それはちょっと飛ばし過ぎじゃないのか?他のプレイヤーとの競争もないんだから、もっとじっくり進めればいいと思うんだが」
「そこは好みの問題だから」
「そりゃそうか。……それにしても四か月か。一番辛口の予想だと、三か月でサービス打ち切りになるって言われていたのにな」
「運営の当初の想定よりも、『笑顔』から流れてきたプレイヤーが多いという話だ」
「他人事みたいに言ってるけど、お前たちのそのくちだよな」
「お前もな」
「まあ、それだけ自分でイベントを熟していきたいっていうプレイヤーが多かったんだろうな。あっちの場合、クエスト系のものはともかく、イベントの類は一度しか発生しないようになっているから」
「キャッチフレーズ通り、『独立した一つの世界』だよな」
「私としては、NPCが死んじゃうのが辛かったわ」
「それな。護衛イベントで全滅してトラウマになったやつもいるらしい」
「ただでさえ死に戻って気分が最悪のところに、護衛対象の家族や知り合いから「あなただけでも生きていてくれて良かった」とか言われるからな……。いっそ怒鳴りつけてくれ!って思ったよ……」
「その対策としてリセットができる訳だし、『OAW』は良くも悪くもゲームらしいってことだよな」
「だから、運営としては新規の参入もそれなりに見込んでいたらしい」
「その言い方からすると、そっちは思ったほど伸びなかった?」
「どうも技能とかのシステム関係が全部『笑顔』からの流用だったこともあるみたいだな。俺たちみたいにあっちもプレイしていた人間にとっては慣れたものでも、別のゲームをやっていた人や完全なご新規さんには敷居が高かったんじゃないかと言われているそうだ」
「『OAW』でVRのRPGに慣れてもらって、あわよくば『笑顔』の方にも流れてくることを目論んでいたんだろうな」
「ところが現実は完全に逆になってしまっているという訳か」
「システム関係を流用した分、世界観とかは作り込まれているんだけどな。NPCの反応もどんどん良くなってきているし、開発発表当初に叩かれていた部分はクリアしてきていると思う」
「今度の公式イベントはそういう悪い印象を払拭するという狙いもあるのかもしれない」
「公式イベントかあ……。皆、参加するのか?」
「はっきり言って、悩み中」
「私は『笑顔』メインで、こっちは始めたばかりなのよね」
「どのくらいレベルとか熟練度が影響するのかが問題だな」
「影響が多過ぎると高レベルプレイヤーの無双状態になって、低レベルプレイヤーの参加の意味がなくなるが、全くないとなるとそれはそれで今度は高レベルプレイヤーのやる気を削いでしまう」
「うわあ……。すっごくバランス感覚が必要そう」
「その辺りの調整は運営に任せるとして……。一応参加だけはしてみようかな」
「結局、どのくらいの人たちが参加するんだろうか?」
「多人数同時参加型じゃないから、旗振り役になるような有名プレイヤーが少ないからな。もしかすると意外と少ないってこともあり得る」
「ゲーム自体は個々人のワールドになるものね」
「有名プレイヤーとなると、動画配信とかクエストやイベントの攻略記事を載せている人たちくらい?」
「良くも悪くもああいう人たちって目立つものね」
「ある意味テイマーちゃんが公式認定の有名プレイヤーと言えるのかも」
「数少ない完全新規組だから、彼女が出るなら公式イベントへの参加人数も一気に増えるかもしれないぞ」
「なぜかコアなファンもいるしな」
「テイマーちゃんか……。今回の『冒険日記』には書かれていなかったけど、参加するのかね?」
「運営が参加の要請くらいはしていそうだが……。出るとなると間違いなく神輿にされるだろうし、個人情報の問題とかもあるから難しいかも」
「まだ『メイション』にも来ていないプレイヤーだし、その辺のことは不安に感じていそうよね」
「そういえば、テイマーちゃんってどんな外見なんだろう?」
「どんなって……、どんなだ?」
「『冒険日記』にもパーティーメンバーとかテイムモンスターの外見は書いてあったけど、彼女本人のことは書かれていなかったよな?」
「女の子なのは間違いないだろ?」
「中の人は分からないけどね。女の子のロールプレイをしている可能性もあるわよ」
「夢を壊すようなことを言うのは止めろ!」
「お前のは夢というより妄想だろうが」
「そうとも言う!」
その後、その席ではテイマーちゃんの外見について熱い議論が続いていくのだった。