100 二人目の仲間
祝!100話達成。
読者の皆様に感謝です。
種族を理由に差別を受けたことがあるのか。ボクの質問に答えることなく、ネイトさんはただ俯いていた。
本人は隠そうとしていたのかもしれないけれど、その態度は言葉を用いずとも雄弁に「イエス」であることを示していたのだった。
もしかすると、種族的に不向きな<マジシャン>という職業に就いていることも、それに関係があるのかもしれない。
「言いたくないならそれでも構わないんだけどね」
「え?」
「いや、それはそうでしょう。別に人の秘密にしていることや過去を無理矢理聞き出すような趣味がある訳じゃないんだから。まあ、うちの子たちやミルファ、それに知り合いの人たちに危害が及びそうなら話は変わってくるかもだけど」
とりあえず今のところはそんな様子もないので、放置する方向でいくつもりです。
ちなみに、待っているのに飽きたのか、エッ君はリーヴにボールのように放り投げられてはキャッチされるという遊びをしていた。
うん。やっている方は楽しいのかもしれないけれど、見ているボクの心臓に悪いからできれば止めてもらいたいかな!
さて、そろそろ立ったままで待つのも疲れてきたね。
食堂側に入れば椅子にテーブルもあるけれど、さっきも言った通り今のボクたちは土埃まみれだ。さすがにそんな状態で食事をする場所に行くのは問題になりそう。
入り口付近に休憩できる椅子でも置いておくように、ミシェルさんに勧めてみるべきかしらん?
そんなことをつらつらと考えていると、ギルウッドさんが階段を下ってくるのが見えた。
「待たせてしまったな」
「いえいえ。……ミルファの様子はどうでしたか?」
「今は疲れて眠っているだけだったようだ。だが傷跡もないのに、やけに体力を消耗しているようだったな。……一体何があった?」
「詳しい話は後でします。それよりほら、お客さんの相手をしないと!」
「え?えっ?」
自分で振っておいてなんだけど、こんな宿の入り口なんていう場所でする話じゃない。
一旦切り上げて、ネイトさんの背後に回ってその背中を押していく。
「おっと、そうだったな。……それにしても二人とも随分と汚れているな。ちょっとそのままじっとしていろよ。【浄化】!」
ギルウッドさんの声が響いたかと思うと、ボクたちの体がぺかーっと光り……。
あら不思議、何とすっかり綺麗になった美少女たちが現れたではありませんか。エッ君やリーヴもツルツルのピカピカだ。
しかし、一番変化があったのはネイトさんだ。
クンビーラに到着したばかりと言っていたから、きっと旅の最中に汚れてしまっていたのだろう。身に着けていた丈の長い外套はすっかり小綺麗になっていた。
そして何よりくすんで若干灰色っぽくなってしまっていた髪の毛が、まるで降ったばかりの新雪のように真っ白な本来の色を取り戻していたのだった。
「うわあ、綺麗。ちょっと触らせてもらってもいいかな?」
「え?あ、はい。どうぞ」
「でわでわ失礼して……。あ、思ったよりも固いんだ。でもこれはこれで癖になる手触りかも」
色合いからふわっふわな柔らかな感触を思い浮かべていたのだけれど、実際はしっとりとしていて強めのこしがある感じだった。「白狼のセリアンスロープ」だと言っていたから、狼さんの体毛に近いのかもしれない。
余談だけど、頭頂部付近にある耳には触らないように紐で一まとめにしてから背中へと垂らしている先っぽの方を触らせてもらっているよ。
よく異世界物とかでは耳に触ろうとするけれど、あれって結構無茶なことしているよね。
頭を撫でさせたり髪を触らせたりする仲であっても重要な感覚器官なので、耳はいかんのですよ、耳は。
「あ、あの、もういいでしょうか?」
「ごめんね。こんな綺麗な髪を触る機会なんてないから、つい夢中になっちゃった」
それにしても、ここまで効果があるなんて魔法は便利だよね。
「ギルウッドさん、今の【浄化】って、〔生活魔法〕ですか?」
「そうだぞ。習得した時から使える【種火】以外に、熟練度を上げることで【湧水】と今使った【浄化】、そして【光源】の四つが〔生活魔法〕と言われているものだな。」
一応、【種火】が火、【湧水】が水、【浄化】が土と風と闇、【光源】が光と雷の属性を有しているのだとか。
まあ、〔生活魔法〕で魔物と戦おうとするような人はいないので、ただの豆知識でしかないみたいだけれど。
そして〔生活魔法〕と呼ばれている割に、NPC、特に街中で暮らしている人たちのほとんどが使えないという衝撃の事実があったりします。
ギルウッドさんが習得しているのは騎士団にいたというその経歴ゆえ、かと思いきや、実は厨房での仕事をこなすのに便利だからという理由だった。
先ほどの【浄化】も、主な使用目的は食材の汚れを落とすことなのだとか。
その話を聞いたボクとネイトさんの頬が微妙に引きつってしまったのはある意味当然のことだと思う。
「リュカリュカは〔生活魔法〕が使えるんだから、後は熟練度を上げていけば近いうちに覚えることができるだろうさ。どちらかと言えばそちらのお嬢さんが使えないことの方が驚きだったがな。旅をするなら必須だろうに」
確かに街の外で野営などの準備をする時には、〔生活魔法〕があるかないかで掛かる時間も手間も随分と変わってくるだろう。
「まあ、これからはリュカリュカが一緒にいることになるんだから問題ないだろう」
「え?」
「え?」
ギルウッドさんの言葉に、声を揃えて顔を見合わせてしまうボクたち。
「なんだ、違ったのか?ミルファ様があんなことになっているのにわざわざ連れて来たから、てっきり新しいパーティーメンバーだと思っていたんだがな」
おやおや。外から見ているとそんな風に見えていたんだね。
……だけど、これは良い機会かもしれないですよ。
『兜卵の液状薬』作りに忙殺されてしまっている現状、〔調薬〕で自分たちが使用する分の回復アイテムを作っている余裕はない。〔回復魔法〕が使える彼女にパーティーに入ってもらえたならば、安定度は段違いとなるだろう。
「ふみゅ。いいかも」
「え?あの、リュカリュカさん?」
周囲の空気が変わったことに気が付いたのか、戸惑いながら尋ねてくる。
「いきなりですが、ネイトさん。あなたにパーティーメンバーになって欲しいです」
「わ、わたしですか?」
「あなたです。でも不安もあるだろうから、しばらくはお試し期間ということにしてもいいかな。これも何かの縁だと思って、一緒してみませんか?」
一人で生き抜いていくにはこの世界は厳しい。
例えクンビーラを拠点にするにしてもテイマーやサモナーでもない限り、単独でやっていくためにはかなりの実力が必要になるはずだ。
それこそ最低でもサイティーさんクラスの強さが求められるだろう。
「え、ええと……。それではお試しでお願いします」
こうして、ボクたち『エッグヘルム』にネイトさんが参加することになったのでした。
え?もちろん逃がしたりしませんとも!
〇ネイトのステータス
名 前 : ネイト
種 族 : セリアンスロープ(白狼)
職 業 : マジシャン
レベル : 7
HP 60
MP 40
〈筋力〉 5
〈体力〉 6
〈敏捷〉 6
〈知性〉 7
〈魔力〉 8
〈運〉 5
物理攻撃力 6 物理防御力 11
魔法攻撃力 11 魔法防御力 11
〇技能
〔杖棒技〕〔土属性魔法〕〔回復魔法〕〔強化魔法〕
〔警戒〕〔気配遮断〕〔気合い〕〔交渉〕
〇装備 手
・マジシャンワンド(耐久値150) : 物理攻撃力+1 、 魔力+1
〇装備 防具
・マジシャンローブ(耐久値200) : 物理防御力+2 、 魔力+1
・丈夫な服 下 (耐久値200) : 物理防御力+2
・丈夫な靴 (耐久値300) : 物理防御力+3
〇所持金
・1000 デナー