06
「別に取って食べたりはしねえよ。」
「ご自分にその信用があるとでも?」
アサカの顔を見ようとライキが頭を傾けると、同じようにカノエが頭を傾ける。数十秒、そのやり取りが続いたのち、ライキが諦めたように頭を掻いた。
「なんだよ、ちょっとくらい御姫さんを見ても良いじゃねえか。お前の主なんていつ戻るか分からないんだからよ。」
「いけません。特にライキさまは近づけさせるなと言い付けっております。」
「相変わらず堅いな、お前。」
フェイントをかけてもう一度のぞき込んだ顔をカノエに軽く叩かれて、ライキはヒラヒラと手を振りながら部屋の扉へと向かっていく。
「またな、御姫さん。」
扉が閉まり足音が遠ざかっていった。残されたのはアサカとカノエの二人になり、いまいち状況がわからないアサカは、カノエに話しかけて良いのか迷っていた。そこに、腕を組んでいたカノエがポツリと呟いた。
「面倒な人間に目をつけられたかな…いっそ…」
カノエはアサカに背を向けていたため、アサカはカノエがどんな顔をしていたか見ることはできなかった。しかし、その呟きはあまり良いことではないような気がして、アサカは手元の掛け布団を握りしめた。
振りかえったカノエはにっこりと笑っていた。
「アサカさま、目覚めたばかりのお体はまだ本調子ではないでしょう。主も本日は戻られないかもしれません。どうぞ休まれてください。」
そういって、優しくアサカの体をベッドに横たえさせると、カノエはアサカの頭をそっと撫でた。
「……カノエ、さん?」
呼び掛けると、カノエは困ったように笑った。
「いけませんね。どうも昔を思い出してしまいました。よく眠れるおまじないなんだそうです。」
「おまじない、ですか。」
「よく眠れるのだそうです。」
誰のことなのだろうと、優しくなったカノエの表情を見ながら考えていると、不思議と眠たくなっている。そして、とてつもなく懐かしいと感じていた。
「ええ。それでは、ゆっくりとお休みください。」
起きたばかりではあったが、アサカは再び深い眠りへと落ちていった。