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肆 また会う日を楽しみに

これは、僕の最初で最後の「人助け」の話だ。


改めて考えると、僕は成仏の仕方を知らない。死んでから幽霊になったはいいものの、僕を認識する人はいないし、幽霊はエンジョイし尽くした。毎日、早く成仏しないかなって考えていたな。


その日は今夜の寝床を決めるべく適当な家に侵入して、部屋のベッドで横になっていた。

すると女の子が入ってきたんだ。高校生くらいだったかな。ベッドを見て驚いた顔をする。何に驚いているんだと、僕は周りを見渡した。

その後に言われた言葉は、おそらく一生忘れない。もう死んでるけど。

心臓が止まりそうになったね。もう止まってるけど。


「いや、あなたに驚いているんです…」


とりあえず僕が幽霊なことや、どんな経緯でこの部屋にいるのかを話した。数十年ぶりに人と話す。思ったより口は回ったな。

その子は疑うどころか、僕にこう言ってくるんだ。「私を助けてくれませんか」って。

簡単にまとめると、いじめと虐待を受けているらしい。まあ服はボロボロだし身体は傷だらけだし、なんとなくそんな気はしていた。

幽霊ってのは不便なもんで、誰かに憑依したり脅かしたり出来ないんだ。今まで勝手に出来るもんだと思っていた。助けようはないが、話し相手にはなれた。最初は「寝床を探さなくて済むしありがたい」と思っていたが、そのうち僕もそれが楽しくなってきた。

話題も同じだし、気が合うし、楽しい。どうせなら死ぬ前に出会いたかったな。


そして暫くした頃、その子は夜以外も僕に話しかけるようになった。学校でも登下校のバスでも、もちろん家の中でも。

周りにしてみたら空間に向かって話しかけている奴に見えるんだが、それを言っても「別にいいんです」なんて言うし。


そしたら、なんと、いじめも虐待もなくなっていたんだ。周りは空間に話しかけるその子をヤバイ奴と認識して、関わるのすらやめたんだろう。頭のおかしい奴に近づきたくないのは、どこも一緒らしい。奇跡だった。


「あなたのおかげです」とその子は言った。「あなたが私と話してくれて、何もかもが変わりました」

僕は大層なことしたつもりはなかったけれど、それはとても嬉しかった。後は卒業したらどこか遠い所に逃げて、そこで第二の人生をスタートすればいい。



三日後だったかな。僕が起きると、その子はまだ寝ていてさ。

二度と目を覚まさなかった。


机の上に、手紙があったんだ。昨日僕が寝た後に書いたのか。

手紙は手に取ることができた。モノを動かせない僕でも、手に取ることができた。


僕は彼女に何をしてあげただろう、とか。

彼女を助けられたんだろうか、とか。

彼女は幸せだったんだろうか、とか。

たくさんあった疑問は、手紙を読むだけで無くなった。


“色々ありがとう。これからもよろしく。”


そんな短い文、言葉で伝えればいいのに。


僕は手紙を持ってその家を出た。きっと、あの家族は亡くなった彼女を見ても悲しまない。

僕は、その家族を見て悲しくなると思う。


外れの丘に穴を掘って、そこに手紙を埋めた。別にゆかりのある丘ってわけでもないし、手紙を埋めてどうなるかも知らない。なんとなく、そうしたかった。


その後の記憶がないんだから、僕は成仏したんだな。

何故成仏出来たのかも、何故僕が手紙を持ったり穴を掘ったり出来たのかも、今なら多分わかる。



暫くして、その丘に一本の花が咲いたらしい。

花言葉は…





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