神人と機人
「………………?」
何か。
何かがおかしい。
人気RPGゲームモンスター狩りの緊急クエストをどうにか授業終了前までに一人で狩り終え、ふぅと前を向いた時に思った。
…………そうだ。この授業の先生は予鈴がなるまで教科書をただ読み続けるという真面目な人にとっては悪夢の先生だった筈だ。
そんな先生が面白おかしく冗談を話している。
しかも周りは全く驚く様子は無く、数人に至ってはクスクスと笑っている。
一つ違和感を見付けると次々に違和感が気になってしまうものだ。
──例えばいつも寝ている人(確か林君だったか?)が今日は教科書、ノートを出して真剣に教科書を写している。
──例えばいつも周りと話しているサッカー部員達は何故か全員寝ている。
──例えばいつも真剣に授業を受けている……えーと……そう、光ヶ丘君が不真面目に携帯を弄っている。
──例えばいつも一人でいるメンヘラっぽいリスカ少女が明るく隣の席の人に話しかけて…………って、これに関しては放課後自殺とかしないよな?
それはおいといて、僕にはいつもの教室が別の空間になってしまったかのように感じられた。
……まあ、たまたまだよな?
僕はため息を一回吐きながらまたモン狩りをするのに戻った。
この日も授業を受けもせず、スマートフォンを駆使してネットサーフィンをしていると、教室……いや学校中が静まり返っているのに気づいた。
本当に物音といったらノートに鉛筆を擦り付ける、やけに大きい無機質な音しかしない。
──嫌な予感がした。
僕は油の切れたロボットのようなスピードで前を向く。
「…………ッッ!」
嫌な予感は当たった。
それは異様な光景だ。
先生が無言で黒板に文字を書き始めると、生徒もそれに連動した様に書き始める。
しかも誰も黒板の字を見ずにだ。
タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン───────。
──おかしい。
──こんなのは絶対に、おかしい。
キーンコーンカーンコーンー
授業終了の合図である古びたチャイムが学校中に鳴り響く。
予鈴が鳴り終わった瞬間、先生はロボットめいた動きで教室を出ていく。
バタンと扉がしまった瞬間、教室中に広がっていた物々しい雰囲気が最初から存在していなかったかのように消え去った。
「あーお腹すいた~」
「疲れた~」
「帰りて~」
「ねーご飯食べに行こ?」
「いーよー」
────僕はこの光景に恐怖を覚えた。
授業中と授業終了後のギャップにではない。
こいつらの言葉に心が無い様に感じたからだ。
──ご飯を食べる時間になったから「お腹すいた」といい、授業をしたから「疲れた」という。
こいつらはただ行動をプログラミングされたただのロボットなのではないか?
そしてそのロボットのなかに僕一人だけ人間がいるのでは無いか?
──僕は耐えられなくなって教室を飛び出した。
「へーこんなやつも選ばれたのね」
気づくと僕は駅のベンチに座り込んでいた。
「……誰だよ」
「見て分からない?同じ学校の生徒よ」
「何がどうなってるんだ?」
僕がそう問うと、同じ学校の生徒の少女は目を丸くして首を傾げた。
「選ばれたのだったら分かるでしょ?今日この日を境に人類は二つに分けられたの。ただのロボット人間の機人と、神の力を得た神人に」
「そうか」
「ここで会ったのは何かの縁ね。私達の基地に行きましょ?そこでは神人がもうほとんど集まってるわ」
「着いてきて」と少女は駅の方へ消えていった。
「残念ながら嫌だね」
──どうやら僕は神人ではなく、不出来なロボットになったみたいだ。
間が余り空いていないですが、思い付いたので……
これの元ネタがバレたら消されるので言わないでおきます。
新酒呑童子の野望の方はもう少しです。
お待ち下さい。