プロローグ
ジージージー。蝉が鳴いている。
炎天下のアスファルトにポツリポツリと汗が滴り落ちる。
「暑い、暑いいいい!もう歩きたくない。」
「我慢しろもう少しだ!」
麦わら帽子にワンピース姿の少女と半袖短パンの青年が並んで歩いている。
全く、なんて日だ。青年は思った。
その日の朝になって、急に親が出かけることになり、親戚の祖母の家に夏休みの間泊まることになったのだ。
今歩いているのは、見渡す限り田畑の広がる畦道の一角。
RPGならモンスター倒してレベルアップを狙えるのだが、そうはいかない。まず、武器がない。虫取り網さえ持っていないのだ。それ以前にこの世界にはモンスターや怪獣といった生命体はいないのだ。
「お兄ちゃん、もう歩けないよお」
気づけば、少し先をテクテク歩いていた妹が、膝に手をついてバテている。
「しょうがないなあ。ほら、乗れよ。」
妹の前まで行くと、青年はしゃがんだ。おんぶしようという体勢だ。
「うん。」
青年の背中に乗ると、妹は満足げな表情を浮かべた。
しばらく行くと、一軒の家が見えて来た。おそらく、あれが祖母の家だろう。
青年はそう考えて、妹をおぶったまま家の戸口へと向かった。