打ち上げ
「それでは‥‥、お疲れ様でした~!かんぱーい!」
「乾杯!」
「かんぱ~い!」
壇上の番組プロデューサーの音頭で、グラスが掲げられ、各人周辺の者達とグラスの縁を軽くぶつけ合う‥‥
今日は、ドラマの撮影終了に伴う打ち上げだった。
僕の初主演ドラマは、初回9%という視聴率での出足であったが、その後回を重ねるごとにジリジリと上昇カーブを描き、最終回直前の前話では、15%超えを果たしていた。昨今のドラマ離れという状況下にあっては、なかなかの数字と言える。
最終回の放送を前に、既に続編の製作も決定し、プロデューサーをはじめとする番組関係者にとって、一応の成功を祝う宴となっていた。
「いや~、これもひとえに成人君の好演のお陰だよ。」
「ほんと、続編も頼むよ!」
「いやいや、成人君さえ出演してくれれば、続編どころかシリーズ化確定ですよ!」
スポンサー、プロデューサー、制作会社の社長‥‥主だった関係者が、見え見えのお世辞を添えて次々と僕に握手を求めて来た。
30分程がたち、ようやくそんな状況から解放された。
お互いが本心を隠し、成功への互いの貢献を過剰に称えあう‥‥、業界入りして1年が過ぎても、僕には未だにこのやりとりが苦痛だった。
会場の傍らでウーロン茶の入ったグラスを手にして、僕はつかの間のリラックスタイムを堪能していた。
願わくば、このまま宴が中締めを迎えるまでこの安息が続く事を願いつつ‥‥
しかしながら、そんなささやかな自己開放の時間は、呆気なく終わりを迎えた。
この3ヶ月間、最も撮影現場で顔を合わせる機会が多かった人物がこちらにビール瓶を手に近づいて来たのだ。
「お疲れ様~。」
声を掛けてきたのは、櫻木萌だった。
「あら、何?せっかく注いであげようと思って来たのに‥‥、もうソフトドリンクに切り換えたの?」
「元々アルコールは得意じゃないですからね‥‥。萌さんにお酌して貰える折角の機会を失うのは‥‥辛いんですけどね‥‥。」
「白々しいおべっかは止めてくれる。大体、貴方‥私より年上でしょ。」
そう言いながら、彼女は自分のグラスに、手にしたビール瓶の中身を注いだ。
「あっ~、僕に注がせて下さいよ。」
「いいから!」
既に目が据わっていた彼女に抗うのは、無理なようだ。
「ぶっちゃけ、貴方のことは見直したわ。
運で売れたようなポッと出に期待なんかしない‥と思ってたんだけど、貴方の成長力には驚きの連続だったわ。
回を重ねる毎に、クオリティが上がって、存在感が増していく主人公に、こちらが牽引してもらっちゃたわね。」
「そんな‥‥、子役の時から活躍している繭さんに誉めてもらえるなんて‥‥、そんな事、今日まで一度もなかったから‥‥嬉しいというより、びっくりですよ。」
「撮り終えた今だから、言えるのよ。」
「ありがとうございます。こちらこそ、繭さんとの共演はいい勉強になりました。」
「じゃあ、再共演を楽しみにしてるわ。」
そう言って、彼女は僕の元を去って行った。
実はこの3ヶ月間、櫻木萌から言葉らしい言葉を掛けて貰った記憶は殆ど無かった。自分は恐らく彼女に嫌われているのだろう‥‥そう自覚していた。
それだけに、彼女から貰った言葉は正直に嬉しかった。
(これも、ひとえに知世ちゃんのアドバイスのお陰だな‥‥。)
僕が最初の30分以降はソフトドリンクを飲んでいたのには、理由があった。それは、この宴の後に別の人物と飲食する約束があったからだった。
他ならぬその相手は‥‥、知世だった。




