反響
「もう、僕にはこの会社しか残ってないんです!」
「そんな事、知らないよ。」
「せめて、ちゃんと面接して下さい!」
「悪いけど、無駄な事をしてる暇はないんだ。」
ドラマの1話分、約45分の中の2分程度の僕の出演シーンが放送されたのは、それから2週間後の事だった。
(なかなか、それなりの演技が出来てるじゃないか。)
改めて、テレビの画面越しに見た自らの演技は、決して悪い出来ではなかった。たった2つの台詞ではあるのだが‥‥。
もっとも、僕はこの自分のドラマ出演の話を誰にも話さなかった。過剰に期待させ、その後にがっかりされるのなら、何も話さないのが得策だと考えたからだった。
ブルッ、ブルッ
ドラマが終わって、2分程度が経った時だった。
机上のスマホが振動し、メールの受信を知らせた。
『ご無沙汰です!真々田君、今日ドラマ出演してたじゃん!びっくりしちゃったよ~』
メールの発信者名は、杉浦知世となっていた。
(杉浦知世?‥‥杉浦知世、杉浦‥‥あっ!)
杉浦知世、彼女は去年の合コンで僕の事を達磨正人に似てると言った、あの娘だった。
正直、他人からの反応があった事に驚いた。
僅かな出演とはいえ、ドラマのエンディングに流れたテロップには確かに僕の名前もあった。但し、一行に3名の名前が並んでいるその他大勢に近い扱いだった筈だ。
それでも、気付く人がいた‥‥。
自らの感情が高ぶっているのが、解った。
大した個性など有していないと思っていた自分が、他人から注目された事に、興奮と、ある種の達成感を覚えた。
但し、その日にそれ以外の誰かからの反応を受ける事はなかった。
(おいおい、調子に乗るなよ。あつかましいってもんだろ。)
一瞬、過剰な期待感を持ってしまった自分を諭し、僕は眠りについた。
翌朝、遅めの朝食を取りに出掛けようとしていた僕の携帯に着信があった。
「はい。」
「もしもし、真々田君?」
声の主は、佐々木さんだった。
電話越しのせいかもしれないが、その声のトーンは先日会った時よりも高い気がした。
「はい、そうですけど‥‥」
「昨日、観た?」
「ええ、一応‥‥」
「そうか、結構な反響だぞ!」
「え?!」
佐々木さんによると、放送元のテレビ局には100件以上の問い合わせがあったらしい。
しかも、その大半が『あの俳優は誰?』『新人ですか?』『似てるんだけど、まさか達磨正人の実の子ですか?』『今後も出演するんですか?』等々僕に関するものだったというのだ。
「たった2、3分の出演だったのに‥‥凄いですね。」
「凄いなんてもんじゃないぞ!実際に問い合わせしてきた人数の何十倍もの視聴者が、注目したって事になるんだから。」
数千人以上の人の目が自分に注がれたという事実を突きつけられた僕は、一瞬言葉を失った。
「当然、君の出演シーンは今後増える事になるからね!早速、これから脚本家と打ち合わせだ。じゃあ、また連絡するから!」
そう言うと、佐々木さんは一方的に電話を切った。
佐々木さんにとってどうだったのかは判らないが、僕にとっては想定外の事が起こり始めていた。
翌々日、近所の喫茶店で佐々木さんと待ち合わせした。
そこで僕は、前回存在すら確認していなかったドラマの台本を佐々木さんから初めて手渡された。
中を開いてみると、時折赤い蛍光ペンで線が引かれている箇所が散見された。結構な数だ。
「線を引いた所が、真々田君の台詞だから。」
呆気にとられた僕にはお構いなく、佐々木さんの説明は続いた。
「じゃあ、3日後に他の出演者との台詞合わせするから、それまでに覚えといてね。」
「は、はい。」
「あと、次回迄に真々田君の芸名を幾つか考えておくけど、君も自分でも考えてみてよ!」
「えっ、わ、分かりました。」
「じゃ、頼んだよ!」
相変わらず忙しそうな佐々木さんは、僕への業務連絡を済ますと、長居する事もなく、飲みかけのコーヒーを残したまま店から出ていった。
一人になった僕は、手元の台本を見つめ、今起きている事の確認作業を繰り返していた。
芸名をつける‥‥
3日後に‥台詞の読み合わせ‥‥
(こうしちゃいられないっ!台詞、覚えなきゃ。演技の勉強もしなくちゃ‥‥)
店を出て、自宅へ向かう僕は自然と急ぎ足になり‥‥、気付くと‥走っていた。




