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似顔  作者: 末広新通
4/34

撮影

 東京都を後に埼玉県へ‥‥

 車輌の窓ガラス越しに眺めていた景色に、緑色の木々が目立つようになってきた。

停車駅から乗車してくる人々の服装も、カジュアルな物が多くなってきた。

小一時間程の、東武東上線乗車を経て僕が降り立ったのは、川越駅だった。

この辺りには、少し前の時代の面影を残している街並みが多く見られる。昭和時代の撮影ロケを行うにはもってこいの場所であり、実際よく使われていた。


「やあ、待ってたよ。」

改札を出た僕を、佐々木さんが迎えてくれた。仕事柄なのか、この人のポリシーなのか、先日の初見時同様のネクタイ着用のスーツ姿だ。

「じゃあ、早速現場に向かうから、乗って。」

 駅前ロータリーの傍らに停めてあった白いスイフトが、佐々木さんのマイカーらしい。現場へ向かう車中、佐々木さんはその馬力、利便性と燃費の良さ、デザイン性について力説していた。ただ、車に対して便利な道具程度にしか興味を持っていない僕からしたら、正直どうでもいい話だった。


「そうそう、それで君の今日の出演シーンについてなんだけど‥」

走りだして10分程度が経ち、もう間もなく現場に到着しようかというタイミングで、ようやく僕にとって最重要の話が出た。

「君には若き日の主人公が、就職活動で冷たくあしらわれるシーンを演じてもらう。」

「えっ、就職活動‥‥」

「台詞も2つだけだから、どうって事ないだろう。」

「2つ‥‥」

「おっ、見えてきた‥‥撮影現場に到着だぞ。」


 佐々木さんからの説明に、正直僕はやや拍子抜けした。

だが、考えて見れば当然の事で、素人ふぜいの僕が過剰な役割を担う訳などないのだ。

たった2つの台詞を普通に言いさえすればいい。就活というシチュエーションも素人の僕が演じやすいように配慮したのかもしれない。

 

 車を降りた僕は、佐々木さんに引き連れられる形で、控え室がある建物に向かった。

「おはようございます!」

「おう、おはよ!」

「おはようっす!」

「ういっす!」

途中すれ違う関係者と思われる人達が、次々とこちらに挨拶してきた。

最初のうちは、僕もお辞儀をしてそれに応えていたが、やがて、その挨拶が佐々木さんにだけ向けられたものである事に気づき、リアクションをとる事をやめた。

‥‥そうだよ。

ほぼエキストラなのだという自分の立場を理解した。


 200メートル程歩いただろうか‥‥、この通り沿いにおいては比較的新しめのコンクリート製の建物の前で、佐々木さんは歩を止めた。

その入口脇に立て掛けてある『集会所』という看板が、その建物の本来の用途を示している。なる程、控え室にはもってこいの建物と言える。

「地元町内会にお願いして、この建物の1階を控え室に使わせてもらってるんだ。」

佐々木さんが一応の説明をしてくれた。

 中に入ってすぐ左手にある集会室内には、既に10人程の関係者が集まっていた。

「あっ、佐々木さん!おはようございます!」

「おはようございます!今日も宜しくお願いします。」

即座にそのうちの何人もが、佐々木さんの元に駆け寄り挨拶してきた。

出演者、マネージャー、現場スタッフ等‥‥その外観や服装からそういった人達である事はすぐに理解出来た。

「そちらは?」

そのうちの1人、恐らくは出演者のマネージャーと覚しき女性が尋ねてきた。

「ああ、彼は真々田優君。達磨の青年期を演じてもらう為に、僕がスカウトしてきたんだ。」

「達磨さんの?!」

やり取りを聞いていた他の関係者も含め、一瞬部屋中の人の視線が僕に集まった。

その空気感は、僕に半強制的に軽いお辞儀をさせた。

「彼は今日が初演技なんで、皆さん、どうか宜しく。」

言葉が追いつかなかった僕の代わりに、佐々木さんが挨拶をしてくれた。

「へえ~、今日がデビューなんだ‥‥」

「‥はい。」

「言われてみれば‥‥なる程、達磨さんに似てるかも。」

「そっ、そうですか?」

「緊張しないでね、宜しく~。」

「宜しくお願いします。」

彼等の感想、挨拶に応える時間が、僕には若干苦痛だった。

 幸い、その時間が長引く事はなかった。

「シーン13、間もなく撮影開始しますのでスタンバイ宜しくお願いしまーす!」

撮影スタッフらしき男性の声が、建物の入口の方から掛かり、それぞれが準備に入ったのだ。

「真々田君、この衣装に急いで着替えてくれ。」

佐々木さんは、そう言って少し古臭い感じのスーツとシャツとネクタイを僕に差し出した。

僕もそのシーンの出演者の1人だった‥‥。



 

「はい、オッケーです!お疲れ様でした~!」

 監督の声が掛かり、僕の出演シーンの撮影は呆気なく終わった。

僅かテイク2でのオッケー‥‥時間にして5分程度だったろう。

「お疲れ様、いい感じだったよ。」

傍らで様子を観ていた佐々木さんが、一応の労いの言葉を掛けてくれた。

僕には実感も手応えもなかったのだが‥‥。

「この後なんだけど、僕はまだ現場ココを離れる訳にいかないんだ。それで‥‥」

その後、続けて僕の帰宅の段取りについて説明した。

衣装を返した後、15分後にスタッフがマイクロバスで駅まで他の関係者と一緒に送ってくれるとの事だった。

「じゃあ、また連絡するよ。」

そう言って軽く手を挙げると、佐々木さんは僕の元を去って行った。酷く事務的な気がした‥‥。


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