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似顔  作者: 末広新通
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失踪④

 その翌日、真々田は、小泉浩良の自宅を訪れていた。

「お話しは解りました。‥‥あの人なら、言いかねないと、正直思います。」

そう答えたのは小泉の妻、百合子だった。

「ただ‥‥だからと言って、真々田さんが、そんな約束を守る必要はありませんよ。真々田さんには、真々田さんの人生が‥‥、ご家庭があるんですから。」

そう言って、気丈に振る舞う百合子の姿は‥‥、ともすると揺るぎかねなかった真々田の決心を、より強固なものにした。

「奥様‥‥、私はもう決心したんです。」

「そんな‥‥、いけません。」

「私は命をご主人に救われました。だから‥‥、ご主人のやり残した事を‥‥私が代わりにやらなければいけないんです。」

「それでは貴方のご家族が‥‥」

「私の名前は小泉浩良です。つまり、私の家族は貴方です。」


 必死に説得にあたる百合子だったが、真々田はそれを頑として受付なかった。

 そして、小泉の最も身近にいた百合子は‥‥今回の役に対する彼の想いを、誰よりも知っていた‥‥。


最終的に、百合子は真々田の申し出を受け入れた。

「わかりました。ただ‥‥、二つお願いがあります。」

「何ですか?」

「一つは、貴方の家族には‥‥何らかの形で経済的な援助をし続ける事‥‥。そしてもう一つは、今回の作品への出演が終わったら‥‥貴方の好きな名前へ芸名を変更する事です。」

「それでは小泉さんの名前が‥‥。」

「芸名を改めても、小泉の名前は残ります。

‥‥それに、貴方は決して小泉ではありません。」


「‥‥わかりました。」


それ以降‥‥真々田が家族の元へ帰って来る事はなかった。





 その日、真々田優と櫻木萌はお礼の言葉を伝えるため、佐々木の元を訪れていた。


「何で、会わせてもらえないんですか?」

「会わせないとは言ってないだろう。状況が許すようになるまで待てと言っているだけさ。」

「それって‥‥いつ頃ですか?」

「さあな‥‥。2ヶ月後かもしれないし‥‥半年後かもしれない。正直言うと、それが少しでも先になる事を僕は願っている。」

「どういう事ですか?今言った通り、達磨さんが真々田さんのお父さんなのは間違いないじゃないですか。」

「そんな事は、本人じゃない僕には分からないさ。ただ‥当の達磨がそれまでは会わないと言ってるんだ。‥‥仕方ないだろう。」


 結局、真々田優と櫻木萌は引き下がるしかなかった。

「それにしても‥‥、変よね。」

「ああ。」

帰路についた道中、そう言ってぼやいていた2人だったが‥‥やがて2人共無口になった。



 別れ際、ふいに萌が真々田に言った。

「そう言えば、佐々木さんて結構イケメンだったね。」

「えっ、そうか?」

「そうよ。きっと若かった頃は、女の子にモテたと思うわ。」

「ふーん。」

萌の言葉は、真々田にはちょと意外だった。

ただ、その一方で‥‥ひょっとして‥‥という考えが芽生えていた。



 帰宅した真々田は、その夜、母親に電話した。

取り留めのない話を少しした後‥‥真々田は母に聞いてみた。

「前に聞いたお父さんの話で、大学時代に父さんと同じ演劇部にいた主人公役の人がいたよね。確か‥‥母さんの友達達から結構モテてたって‥‥。」

「ええ。」

「その人の名前って‥‥覚えてる?」

「勿論よ。確か‥‥佐々木君よ。」

(‥‥やっぱり。)

「どうしかしたの。」

「いや、なんでもない。なんとなく聞いただけだよ。」


 真々田が予想したとおり、佐々木は学生時代からの真々田悟の友人だった。

なにか引っ掛かってた事が‥‥スッキリしたような気がした。

 ただ‥‥、そうした関係を考えると、あの日‥‥池袋で自分が佐々木にスカウトされたのが、果たしてただの偶然だったのか?

もしかしたら、誰かの意図によるものではなかったのか‥‥。

真々田は、そんな可能性すら感じていた。




 佐々木を介して、達磨からの面談意思が真々田優に伝えられたのは、それから3ヶ月後の事だった。


後で知った事だが‥‥、その2ヶ月前に達磨の妻、百合子が亡くなっていた。





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