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似顔  作者: 末広新通
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失踪②


「くそっ、霧が随分かかって来やがったな。」

「ああ、視界が狭くなって来ている。みんな、列から離れるなよ。」

 想像以上に雨雲の到達は早く、状況は急激に悪化していた。

視界はもはや前方3メートルがやっとという状態だった。

それでも、あと20分も下れば、恐らくはこの霧から解放される筈だった。


「あと一踏ん張りだっ。」

リーダー格の男が、皆を鼓舞した。

その直後だった。

 カラッ‥‥カラッ‥‥

真々田の前方に‥‥上から小石が転がり落ちてきた。

そして‥‥真々田が生まれて初めて聞く、大量の何かが擦れるような低い音‥‥それがだんだん近づいて来るっ。

「やばい、土砂だっ‥‥逃げろっ。」

声をあげたのは、真々田の後ろ‥‥しんがりを務めていた小泉だった。

突然の‥‥想定外の出来事に、真々田は混乱した。

判断力を失い‥‥、体が硬直し‥‥、その場から退避出来ずにいた。

「逃げるんだっ。」

その手を掴み、強引に真々田を引っ張ったのは小泉だった。

そして‥‥まさに間一髪だった。

小泉共々、その場から5メートル程後方で尻餅をついた真々田の眼前を、大量の土砂が草、木、石‥‥全てを呑み込みながら通過していった‥‥。


抗う事など不可能な、自然の猛威を目の当たりにし‥‥真々田も小泉も、言葉を失った。


「お~い、大丈夫か~‥‥」

濃霧によって遮られた視界で、声の主の姿を見る事は出来なかったが、土砂の向こう側から聞こえたのは仲間の声だった。

「はーい、無事でーす。」

我に返った真々田は、精一杯の大声を出した。

「そちらから、こっちに来るのは無理だ。我々は、このまま下山して救助隊の出動を頼んでくる。それまで、待機していてくれ~。」

「わかりました~。」


真々田と小泉は、その場で救助隊の到着を待つ事になった。



「‥‥ありがとうございました。小泉さんが助けてくれなかったら、私は今頃‥‥」

「いや、お互い無事で何よりです。真々田さんには帰りを待っている奥様とお子さんがいる。私にも妻が‥‥、そして今度の役で俳優としての知名度を上げ、その妻を喜ばせてあげるんだ。‥‥こんな所でくたばる訳にはいきませんよね。」

「そうですね。」


 真々田と小泉が待機を余儀なくされた位置は、まだ山の山頂から四分の一程下った場所だった。


 2人は何気ない会話をして過ごしていたが‥‥やがて話題は、小泉が今度演じる役についてとなった。

「どんなタイプのキャラクターなんですか?」

「まあ、ちょっと無骨で‥‥言葉選びが下手で、誤解を招くタイプなんだが、真っ直ぐで‥‥友人や家族に対して深い思いやりの心を秘めている。‥‥そんな感じかな。」

「いいですねぇ。‥‥演じ甲斐がありますね。」

「ああ‥‥。そうだっ。まだ救助隊の到着までは3時間余りはかかる。良かったら、台詞の読み合わせの相手をしてくれないか。実は台本を‥‥持ち歩いてるんだ。」

「いいんですか?私なんかじゃ役不足でしょうけど‥‥是非やらせて下さい。」

「フフッ、真々田さんも、演劇が好きなんですね。」

「ええ。」


遭難中という状況下にありながら、2人は笑い合った。

そして台詞合わせをする事になった。



「驚いたな‥‥、真々田さん。台詞の強弱のつけ方、間の空け方、言い回し‥‥見事ですよ。

下手な俳優よりも、よっぽど登場人物が魅力的になってます。」

「いや、とんでもない。小泉さんこそ、さすがの演技力で‥‥圧倒されちゃいましたよ。」

「勿体ないなぁ‥‥、なんで俳優を諦めちゃったんですか?」

「‥‥まあ、よくある事情ですよ。」

真々田の内に秘めた俳優への思いを‥‥小泉は察した。

(また、機会を改めよう。‥‥埋もれさせるのは勿体ない。)

そう考えるほど‥‥小泉は、真々田の演技に魅了されていた。

「‥‥そうですか。じゃあ、次のシーンお願いします。」

「はいっ。」

小泉が台本のページをめくった時だった‥‥


ガラッ‥‥


霧で見えない十数メートル上の方から‥‥その音を、2人は確かに聞いた。


ガラッ‥‥ ガラッガラガラ‥‥


さっきとは違う音‥‥だがそれは間違いなく迫って来る。


その場から慌てて離れようととした真々田、小泉が‥‥間近に迫って認識したそれは‥‥落石群だった。


避けられるようなものではなかった。

大小様々の石群が2人に襲い掛かった。



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