表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
似顔  作者: 末広新通
3/34

俳優 達磨正人

 「ちょっと、考えさせて下さい。」

「構わないよ、但し返事は明日までに頼むよ。こちらも、駄目なら早めに他の俳優に当たらないといけないから。」

「解りました。」

「じゃあ、連絡待ってるよ!」

そう言うと、男は見物人の群れを掻き分けて、人混みの中へ姿を消していった。




 結局、その日、僕は高級履歴書を買わなかった。

というか、気が付くとソレを買わずに家に帰ってきてしまっていた。正直、自分が帰りの電車に乗った記憶もないのだが‥‥

ソレを買う目的だけの為に池袋まで出掛けた筈だったのにだ。

 突然の俳優としてのスカウト‥‥、ドラマ出演‥‥

頭の中は、もはやその事だけで一杯だった。

(そもそも、経験のない自分に演技なんて出来るのか?)

(でも、人生においてそんな機会2度とないぞ。折角なんだからやってみたらいい。後々、いい武勇伝にもなるし‥‥)

(そんな事してる場合か?就活は?)

(もしかしたら、就活でのアピールポイントになるかも?)

(っていうか、この勧誘自体が胡散臭さくないか?)

自問自答が繰り返されていたが、なかなか決断が出来ずにいた。

それでも、明日までに返事はしなければならなかった。


 ふと、佐々木が言った言葉を思い出した。

『達磨正人の面影があるんだよ。』

そう、僕がスカウトされた理由はこの1点だった。然しながら、実は僕は達磨正人について、ベテラン有名俳優という程度の事以外は殆ど何も知らなかった。

 僕はパソコンを開き、『達磨正人』と入力し、インターネット検索をしてみた。

『達磨正人 東京都 俳優 51歳 (本名 小泉浩良) 平成13年に本名から改名。 個性派俳優として、近年はドラマや映画の主役も務めている。 既婚 子供無し』

当然と言えば当然だが、達磨正人というのは芸名だった。年齢的には丁度自分の親世代にあたった。

 それから僕は、近所のDVDレンタル店へと向かった。

そして其処で、2枚のDVDを借りた。どちらも達磨正人が出演している作品で、1枚は比較的最近の主役を務めたもの、もうひとつは改名前の若手時代に脇役として出演したものだった。

 まず僕は、先に最近の作品を観た。

この作品の中での達磨正人の役所は、難事件の解決に挑むベテラン刑事だった。刑事、検事、警察、弁護士‥‥この辺りは最近のドラマの流行りであり、少々題材としては見飽きた感もあった‥‥が、達磨正人の存在感はそんな飽和感を忘れさせ、僕をその世界に引き込んだ。

吊り上がった一重の目、浮き上がった頬骨に象徴されるゴツゴツと角張った輪郭‥‥外観的にも独特の存在感を醸し出していたが、僕を引き付けたのは其所ではなかった。

独特の台詞の言い回し、間の取り方、くせのあるイントネーション、落ち着きのない身勝手な所作、そして表現できない何か‥‥達磨正人が作り上げた主人公の一挙手一投足が、僕の好奇心を揺さぶり続けたのだった。


 作品のエンドロールが流れ出した頃には、時計の針は夜中の1時を回っていた。

早送りを織り交ぜながら30分位で見終えるつもりだったが、結局ノーカットで見る事となった。

そして、見終わった僕は『俳優 達磨正人』の一ファンになっていた。

今回のスカウトの話に応じるかどうかを決める為に借りてきた2枚のDVD、その2枚目に僕が手を伸ばす事はなかった‥‥。



 翌朝9時過ぎ‥‥スマホの呼び出し音が鳴った。

佐々木さんからだった。

「で‥‥どう?結論は出たかな。」

「‥‥はい。」

「よし、じゃあ『イエス』か『ノー』かだけ答えてくれ。」

「‥‥『イエス』です。」


僕は、スカウトに応じた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ