策略の影
ヒョン達がちょうど駅前辺りにさしかかった時だった。
すれ違う人の表情にヒョンは目を奪われる。
黙々と歩く人々に小さな孤独感を感じていた。
人生とは、歯車一つで違った方向へと歩んで行く。
それを象徴しているかのように皆、それぞれ顔付きが違っていた。
前を向いて歩く者、下を向いて歩く者、人の目を気にしながら歩く者、様々であった。
(自分は、人の目にどのように映っているのだろうか?)
ふとそんな想いが、脳裏をかすめていた。
「どうしたの?ヒョン」
そんな母親の声に、我に返った。
「いや・・・、何でもないよ。」
自分の中にある弱さとは、人には言えない事情だとその時ヒョンは肌で感じていた。
駅前のバス停にたどり着くと、スギョンは一目散に走り出した。
道路先を覗き込みながら,母親とヒョンに手招きをする。
「バス、間に合ったみたいだね。」
妹のそんな姿に、母親もヒョンも、家族の笑みをこぼす。
「スギョン、今日は父さんと出来るだけ、一緒にいような!」
ヒョンの言葉にスギョンは、大きく頷いた。
病院行きのバスの姿が見えたのは、それから間もなくである。
朝食の席を離れたスジンは、部屋に帰るとベッドに飛び込んだ。
「ウフフ、ジンフのあの顔!」
スジンは、一人笑い転げていたが、ちょっとした罪悪感と共にくる空腹感に眉を曲げていた。
「しまった、ちょっとでも食べてたら良かった・・・。」
スジンは、鳴るお腹を押さえつつ椅子に体を預けた。
(コンコン・・・。)
ドアの向こうより人の声がする。
「お嬢様、お嬢様。」
まぎれもなくジンフの声だ。
スジンは慌ててベッドに隠れると小さな声で答えた。
「誰ですか?」
白々しく言うと、ジンフは大きな声で答えた。
「申し訳ございませんでした!お嬢様。このとおりです。」
ジンフの謝る声にスジンは体を起こし、ドアを開けた。
「ちょっと・・・。」
小さく手招きしながら、ジンフを部屋に入れると、ドアを閉めスジンは笑い出した。
「ふう〜。スジン、頼むよ。」
ジンフは呆れていた。
「だって、ジンフが悪いんじゃない。せっかくメルアドまで教えたのに…。」
そう言って、スジンはふてくされるが、ジンフの困った顔を見るとまた笑い出した。
「困った、お嬢様だ。」
そんな二人の会話をよそに、じっと見つめる母親の姿に二人は気づく様子はない。