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風邪と恋の病

帰り道、夕立の冷たい雨が僕達に降り注ぎ始めた。

「くっ、降り始めた!」

二人は近くの店の陰に身を潜める。

「もう、服が濡れちゃうじゃない!」

スジンは雨空を見上げながら愚痴をこぼしている。

「当分やみそうな雰囲気じゃないな・・・。」

二人は顔を見合わせるが、距離の近さに戸惑う。

「あなたが素直に携帯を貰えばこんな目にあわなかったのに!」

「はぁ〜?俺はいらないって言うのにスジンさんが店まで連れ出したんだろ!勝手な事言わないでくれ!」

「呆れた。大体ね、今どき携帯を持ってないなんて変よ!」

「もういい!くだらない話しは止めよう!」

「くっ、くだらない?」

スジンは僕を睨み付けた後、黙り込んだ。

僕はスジンの顔を見ながらちょっと心配していた。

(言い過ぎたかな・・・。)

二人は黙ったまま、雨がやむのをひたすら待っていた。僕は周りの景色を見渡しながら昔の事を思い出していた。

(雨宿りなんて何年ぶりだろか?)

懐かしさを感じながらふと彼女の横顔を見る。

スジンは、通り行く人を眺めながら、笑みを浮かべていた。

そんな彼女の横顔が一瞬、あの日の少女と重なって見えてしまう。

僕は目をこすりもう一度見直す。

(おかしいな、疲れてるのか?なんで重なるんだろう?きっと疲れてるんだ、俺は。)

そんな僕の視線を感じとったのか、スジンは不機嫌な顔付きで僕を見る。

「何よ、顔に何か付いてるの?」

スジンの言葉に僕は慌てる。

「べ、別に何でもないよ・・・。」

(絶対に有り得ない。あの子とはほど遠い・・・。)

「変な人・・・。」

彼女も又通り行く人を眺めながら、昔を思い出していた。

(今どこにいるのかしら・・・。)

そんな彼女の少し寂しげな表情に僕は目を奪われる。

(・・・。しょうがない。)

「スジンさん、ちょっと待ってて下さい。」

僕は一言残し雨の中を走り出した。

「ちょっと、ヒョンさん!どこへ行くの?」

僕はそんな彼女の言葉を聞きながら、雨の降る中を走り続ける。

繁華街を抜け裏通りに出ると、小さな雑貨屋にたどり着いた。

店の入口に並べてある傘を一つ一つ見る。

多彩な色の傘の中から真っ赤な傘を一本抜き取り店員にお金を払った。

代金を払うと再び雨の中を走り出した。

僕は全身、ずぶ濡れだった。

そんな事など気にもせず、僕はスジンの待つ店に向かっていた。

スジンは心配そうに辺りを見回している。

「もう、どこに行ったのかしら?もしかして、家に一人で帰ったんじゃ・・・。いくら何でもそんな事は・・・。いや有り得るわ!」

スジンは一人になった寂しさに疑心暗鬼になっていた。

しばらくして、僕が雨の中を走って帰ってくる。

「どこに行ってたのよ!心配・・・、あなたずぶ濡れじゃない!」

「へぇ、心配してくれたの?」

「違うわよ、一人で帰ったんじゃないか疑ってたのよ!」

(一人で寂しかったのかな?案外強そうに見えても違うんだな・・・。)

僕は膨れているスジンの目の前に買ってきた傘を見せた。

「もしかして、これを買いに行ってたの?」

「電話のお礼だよ。安物だけどね。」

スジンは少し照れながら傘を受け取る。

「あ、ありがとう。」

スジンは心からお礼を言った。

そんな彼女の仕草に僕はホッとしていた。

(初めて人らしい言葉を聞けたな・・・。)

「ね、ねぇ、あなたの分は?」

「あぁ、俺はもう濡れてるから、このまま走って帰ります。」

「でも、雨に打たれると風邪ひくわよ。」

「大丈夫、平気ですから。そろそろ、帰ります。スジンさんも早く帰って下さい。それでは。」

僕はそう言い残すと、又雨の中を走り出した。

「ちょ、ちょっと!」

スジンは引き止めようとしたが、僕は走り去って行った。

スジンは小さなため息を一つ出すと、僕の買った傘を広げてみる。

広げた真っ赤な傘は雨を幾度なくはじき返す。

真っ赤な傘を空高く上げると、スジンは 嬉しそうに笑みを浮かべながら歩き出した。

一方、僕はずぶ濡れになりながらもようやく店にたどり着いた。

店のドアを開け妹を呼んでみる。

「スギョン!スギョンいないのか?」

家の奥から走りくる物音と共にスギョンが姿を見せる。

「お兄ちゃん、どこに行ってたの?あ〜、ずぶ濡れじゃない!」

「済まないがタオルを取って来てくれ。」

スギョンは慌てて取りに走る。

「はい、タオル。」

「おぉ、サンキューな。」

スギョンは心配そうに喋り出した。

「お兄ちゃんお店も開けっ放しでどこ行ってたの?」

「あぁ、ちょっと急用でな・・・。」

「傘ぐらい持っていかないと風邪ひいちゃうよ。」

「気をつけるよ。」


「珍しいね、お兄ちゃんが忘れるなんて!」

「そうか?」

「ん〜、何かお兄ちゃん変!クン、クン、クン、怪しい・・・。」

(相変わらず鋭いな。)

「何でもないって。しつこいな!」

スギョンは疑いの目を外そうとはしない。

僕は妹の目を尻目にずぶ濡れになったシャツを脱ぎ捨て、部屋に向かった。

濡れた全ての衣類を脱ぎ着替え終えるとスギョンに濡れた衣類をスギョンに手渡す。

「済まないが風呂場に持っていってくれ。」

「え〜、自分で持っていってよ!」

「代わりに床拭くか?」

妹は膨れながら衣類を受け取る。

「ん!?何これ?」

妹はズボンのポケットから先ほどもらった携帯電話を取り出した。

「あ〜、最新モデルの携帯じゃない!」

僕はハッと気づいて妹の手から携帯電話を取り上げる。

「お兄ちゃんずるい!どうしたのそれ?」

「どうしたもこうしたもない、買ったんだ。」

「それすんごく高いやつだよ。よく買えたね。いいなぁ、私も欲しい!私のと替えようよ!」

(すっかり忘れてたな・・・。彼女からもらったなんて言えないしな。)

「駄目だ。これはいざという時に使うやつだからな。」

「最新モデルなのに・・・、もったいない。」

妹は残念そうにいつまでも僕の携帯電話を見つめていた。

「番号だけ教えておくから、必要以外には電話するな。」

「ハ〜イ。」

僕は妹に番号を教えてると、すぐさま店の床を掃除し始めた。

「ヘックション!ズズッ・・・。」

「大丈夫、お兄ちゃん?くしゃみが出てるけど・・・。」

「大丈夫・・・、へっ、へっ、ヘックション!」

「お兄ちゃん、私がやるから休みなよ。」

「俺の事はいいから、ご飯の用意を任せていいか?」

「わかった。あまり無理しないでね。」

妹は僕を気にかけながらも台所へと向かった。

(ちょっと、寒いな・・・。風邪ひいたかな?)

僕は掃除を終わらせると、椅子に身を預けグッタリとしていた。

(体が重いな・・・。疲れもあるのかな?)体が少し熱くなってきた事などわかりもしない。

僕は座ったままいつしか目を閉じていた。

「お兄ちゃん、スープの味みて〜!」

台所から妹が呼んでいるが今僕には聞こえない・・・。

「もう、お兄ちゃんってば!・・・!?お兄ちゃん、お兄ちゃん、起きて!」

「あぁ、スギョン。悪い、ちょっとうたた寝してしまったようだ。」

僕は立ち上がろうとするが体に力が入らない。

「おかしいな・・・。」

「ちょっと、お兄ちゃん大丈夫?ん、お兄ちゃん体が熱いよ!わっ、熱があるじゃない!」

妹はうろたえながら、どうしようか考え込んだ。

「お母さんは・・・、まだ帰ってこない時間だわ。ギョヌおばさんに電話してみよう!」

妹は電話を取りギョヌおばさんに電話をかける。

「プルルル、プルルル、プルルル。出ないわ・・・。どうしよう?あっ、そうだ!」

スギョンは、思い立ったように電話をかけた。

「プルルル、プルルル、ガチャ!はい、もしもし・・・。」

スギョンは顔色を変え話し始めた。

「あっ、シュリさん。今いいですか?実はお兄ちゃんが熱出しちゃって、私一人だからどうしたらいいかわからなくて・・・。はい、はい、薬ですか?探したんだけど見当たらなくて・・・。

はい、はい、わかりました。とりあえず布団に寝かせておきます。あっ、そうですか!すいません、お願いします。」

妹は電話を切ると、僕を起こし僕の部屋まで連れて行った。

「あ〜、重い!」

僕をベッドに寝かせると妹はタオルと洗面器を持ってきた。

細い腕で濡れたタオルを力一杯搾ると僕の額にそっと乗せた。

「お兄ちゃん待っててね。もう少ししたらシュリさんが薬持ってくるからね。」

妹はそっと部屋を出ると、店の中を片付け始めた。

僕は熱にうなされながら、夢の中であの日の少女を探していた。

「ドン、ドン、ドン!シュリです。開けてもらえませんか?」

シュリは真剣な顔付きで店のドアを叩く。

「あっ、来た!すいません、すぐ開けます。」

妹がドアを開けるとシュリは飛び込むように店の中に入ってくる。

「すいません、シュリさん。他に頼れる人がいなくて・・・。」

「いいのよ、困った時はお互い様だもの?ヒョンくん容体は?」

「今部屋に連れて行った所です。今は寝てます。」

「そう・・・。あっ、これ薬よ。」

シュリは薬を妹に手渡した。

「寝てるのなら、私は帰るわ。」

「あの、シュリさん!不躾で申し訳ないんですが・・・。もう少しだけ家にいてもらえませんか?」

「えっ、でも・・・。」

「私が片付けいや、母が帰ってくるまで、もう少しだけお願いします。」

妹の頼み込む姿を見たシュリはしょうがなく残る事にする。

「わかったわ。お母様が帰ってくるまでね。」

「ありがとう、シュリお姉ちゃん!やっぱりお姉ちゃんは頼りになる〜。」

妹は大いに喜んだ。

「お姉ちゃん、ちょっとお店片付けてくるから、お兄ちゃんの事いい?」

「えぇ、わかったわ。」

妹は笑顔で店の片付けに向かった。

(ふう・・・。)

シュリは大きく溜め息を漏らし僕の部屋へと入った。

横たわる僕の寝顔をシュリは少し悲しそな顔付きでずっと見つめていた。

時折、タオルを搾り僕の額へと当てる。

「ピロロロロッ、ピロロロロッ、ピロロロロッ。」

どこからともなく聞こえてくる、電話の音・・・。

僕の机の上にあるあの携帯電話からだ。

シュリは戸惑いながらも僕の携帯に手を伸ばした。

「もしもし・・・。」

「!?あ、あの〜、どちら様ですか?」

「はい?」

「あっ、い、いえ、そ、そのキム・ヒョンさんの電話ですよね・・・?」

「今彼は風邪をひいて寝てますが・・・、どちら様ですか?」

「・・・そ、そうですか。すみません、またかけ直します。」

シュリは電話の向こうから聞こえてくる聞き覚えのある声にハッと気付く。

「スジン?あなたスジンよね。」

「えっ、あっ、もしかして、シュリなの?」

「あなたヒョンくんに何をしたの?」「何って?私が何かしたとでも言いたいの?」

「ヒョンくんは、めったに体を壊すような人じゃない!あなたが何かやらせたんでしょ!」

「し、知らないわよ。ただ・・・。」

「ただ何よ!言ってみなさいよ!」

あのシュリが感情をあらわにさせながら喋り続ける。

そんなシュリの言葉にスジンは、心苦しんでいた。

(あなた、やっぱり・・・。)

「じ、実は、私達は・・・。」

スジンはためらいながら本当の事を打ち明けようとした。

二人の会話を聞いた僕は、起き上がりシュリが持っていた電話を取り返すと喋り始めた。

「悪いな、寝てたから気付かなくて出られなかったんだ。」

「ヒョ、ヒョンくん・・・。寝てないと駄目だよ。」

「シュリ、すまなかったな。もう、大丈夫だから・・・。」

二人の会話が電話越しに聞こえてくる。

スジンはシュリとの事よりヒョンの事が心配になっていた。

「すまない、かけ直すよ・・・。」

僕はそう言って電話を切った。

「ちょ、ちょっと!ヒョンくん?」

切れた電話を片手にスジンは思い考え始めた。

スジンは辺りを見回しバッグを手に取ると部屋を飛び出した。

「あら、こんな時間にどこに行くの?」

スジンの母親の言葉に彼女はたじろぐ事なく口に出す。

「知り合いが病気らしいの。ちょっと出掛けてきます。」

玄関口で小さく頭を下げると彼女は走り出した。

僕はシュリと話しをしていた。

「何故来たんだ?」

僕は冷たい言葉を浴びせる。

「スギョンが電話をしてきて、あなたが熱出したって・・・。他に頼れないからって頼まれたのよ。聞いた途端いてもたってもいられなくて・・・。」

「そうか、悪い事したな。もう大丈夫だから・・・。すまないが家に帰ってくれ。」

「えっ、でもまだ起き上がれないはずよ。それに、お母様が帰ってくるまでと言う約束だから・・・。」

「シュリ、来てくれた事に関しては正直感謝している。だが、今日はもう帰ってくれないか?」

シュリは迷っていたが、帰る事にする。

「わかったわ、帰るわ。薬はスギョンに渡したから、後で飲んでね。じゃあ・・・。そういえば、ヒョンくん携帯買ったんだね。あんなに嫌ってたのに・・・。」

「あ、あぁ・・・。」

「おやすみなさい。」

シュリが部屋を出ると掃除を終わらせたスギョンが目の前に現れる。「あっ、お姉ちゃん!掃除やっと終わったんだ。お茶でも飲む?」

スギョンの言葉にシュリは顔を上げ喋り出した。

「ヒョンくんが目を覚ましたわ。薬を飲ませて上げて。私は帰るから・・・。」

「えぇ!帰っちゃうの?せっかく来たのに・・・。お兄ちゃんがそう言ったの?」

シュリは黙って首を振り妹に謝る。

「ごめんね、ヒョンくんも目が覚めたから、薬さえ飲めば大丈夫よ。それに、遅くなれば親も心配するから・・・。」

「本当は、お兄ちゃんが言ったんでしょ!後でこっぴどく言っとくからね!」

スギョンの言葉にシュリは笑いながら帰って行く。

「ごめんなさい、助かりました。」

「そんな、何もしてないわ。それに・・・。」

「何か?」

「ううん、何でもない。おやすみなさい。」

シュリは浮かない顔付きでゆっくりと歩き出した。

シュリと入れ違いになるようにして、スジンが店までたどり着く。スジンは両手で大きな袋を抱き抱え息を切らしながら、店の前に立つ。

彼女は息を整えると店のドアを叩いた。

「夜分すみません。」

「ハ〜イ、ちょっと待ってて。」

中から妹のスギョンの声がするが、スジンにはまだ誰なのかは知るよしもない。

(シュリの声とは違うわね・・・。違う女かしら?)

スジンは気にしながら待っていると店のドアが開いた。

「すみません、お待たせしました。」

「あの〜、ヒョンさんは・・・?」

スジンの言葉に妹は彼女を舐めまわすように見回す。

(へぇ、綺麗な人。こんな人お兄ちゃんの知り合いにいたっけ?)

「すみません、お兄、兄は風邪で寝てますが・・・。」

(妹さん・・・か。)

「あっ、まだ調子が悪いんですか?」

スジンは心配になってきた。

「あのう、まだシュリはいますか?」

「シュリお姉ちゃん?さっき帰りましたけど・・・。お友達ですか?」

「えぇ、まぁ・・・。」

(シュリ、帰ったんだ・・・。)

店の方から聞こえてくる話し声に僕はベッドから起き上がった。

(シュリの奴まだ帰らないのか?)

僕はベッドから出ると、ふらつきながら話し声の聞こえる方へと歩き出した。

スギョンは僕の姿に気付いて、慌てて近寄ってくる。

「駄目だよ、まだ寝てないと・・・。」

妹の言葉も聞かずに店のドアへと向かう。

「シュリいい加減・・・!?」

僕はスジンと目線が合いながら彼女の来た事に驚く。

スジンは、ハッと気付き両手で抱えていた袋を後ろに隠した。

「ヒョ、ヒョンさん、調子はどう?」

さっきまでとは違い強がりを見せながらしゃべり出す。

「大丈夫だ・・・。ゴホッ。それより何しに来たんだ?」

ヒョンの言葉にスジンは戸惑う。

「べ、別に近くを通りがかっただけよ。電話もかけると言ったままかかってこないからね!」

「そんなのゴホッ!すぐにはゴホッ!無理だろ・・・。すまないが帰ってくれ。」

僕はエラいのを我慢しながらしゃべり続けるがさすがにまだ調子がでない。

「お兄ちゃん、大丈夫?すみません、今日はもう帰ってもらえませんか?」

妹はスジンに訴えるように話す。

「あっ、わ、わかりました。すみません。」

妹は僕に肩を貸しながら僕を部屋へと連れて行く。

スジンは心配そうな顔付きで僕のそんな背中を見つめ続けていた。

彼女の思いがけない行動に、僕は立ち止まりスギョンにある事を頼んだ。

「スギョン、すまないがあの人を中に入れてやってくれないか?」

「えっ、何で?」

スギョンは目を丸くしながら僕に聞く。

「せっかく来てくれたんだ。ゴホッ、店に入ったら、ゴホッ、お茶と奥にあるあのパンを一つ出してやってくれないか?」

僕は妹に頼むと目を閉じ眠りについた。

スジンは、渡しそびれた袋を抱え歩き始める。

(せっかく来てあげたのに・・・。ん、私何してるんだろ?何であんな奴の為に!)

「あの〜、すみません。」

妹の声にスジンは振り返る。

「ちょっと、いいですか?」

スジンは少し驚きながらも店の方に戻り始める。

「お兄ちゃんに頼まれたんですけど・・・。時間ありますか?」

スジンは妹に言われるがまま、店の中へと入って行った。

「そこにお座り下さい。今お茶出しますから。」

「いえ、そんな・・・。お茶だなんて。」

妹はお茶と奥にあったパンを一つ彼女に差し出した。

「な、何でパンまで・・・。」

「わかりません。お兄ちゃんがそうしろって!頼まれた事、聞かないと後で怒られるから。あのう、失礼ですけどお名前は?」

「ユ・スジンよ。じゃあ、あなたは?」

「妹のキム・スギョンです。」

二人は笑みで答え合う。

「どうぞ、パン食べてみて下さい。」

スジンは差し出されたパンを一口、口に入れと、何とも言えない甘味が口の中に広がる。

スジンは驚くような顔付きでパンを見つめた。

「美味しいでしょ、それお米のパンなんです。」

「お米で出来てるの?美味しい〜!」

「いつもはそのパンは決まって、家族もしくはお兄ちゃんの大切な人が来た時にだけ出すの。今日は作る日だったからよかったわ。」

「大切だなんて・・・。そんな関係じゃあ・・・。」

(恋人契約者だなんて言えないわ。

)

スジンは困っていた。

「いいえ、お兄ちゃんが私に頼み事するなんて、めったにないから・・・。」

「えっ!」

スジンは驚きを隠せない。

(えっ、何?この感じ・・・。)

スジンはいても立ってもいられず立ち上げる。

「すみません、ご馳走様でした。か、帰ります。」

「えっ、もう?じゃあ、ちょっと待ってて。パンを紙袋に入れるから。」

妹は残ったパンを紙袋に入れスジンに手渡した。

「すみません、これで・・・。あっ、これ、よかったらヒョンさんに・・・。」

スジンは持っていた袋をスギョンに渡すと店から慌てて出て行った。

「変な人ね・・・。でも、綺麗な人ね。シュリお姉ちゃんよりも綺麗かも・・・。袋の中身は何かしら・・・?」

妹は袋を開けると中には沢山の薬が入っていた。

「す、凄い量の薬だわ!色んな薬が入ってる!栄養ドリンクまで・・・。」

そんな彼女の気遣いを眠る僕は知らない。

家に帰るスジンは、もらったパンの紙袋を大事そうに抱え歩いていた。

(あいつ大丈夫かな?いいや、いい気味よ・・・。)

そんな強がりとは裏腹に実は、心配している自分の感情に気付いていない。

そんな彼女は紙袋を見た途端、思わず笑みを浮かべていた。

自分の渡した薬が僕に喜ばれる事を思い浮かべ、スジンは家路へと帰って行った。


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