《魔界へ戻りしは魔の王》
霊夢に案内された妖夢達は神社の裏手にある大きな岩壁の前にいる。そこには大きな空間が開いており、黒とも青とも言えないとてつもなく暗い色をし、触れたものを吸い込んでしまいそうだった。
彼女は地面に落ちていた破れた札を見つけると手にとって見つめため息をした。
「......やっぱり破られたか」
「それは...封印のお札ですか?」
妖夢が聞くと少しの間をおいてから答えた。
「ええ、危ないと思って封印をした後、定期的に見てたんだけど......この様子じゃ本当に魔界にいるようね」
そう言うと霊夢は神社へと向きを変え、後は任せたわ、と言い残して戻って行った。
そして、入れ替わるように幽々子が神社から歩いて来た、もとい浮いて来た。
「面白そうだから私も来ちゃった」
「ゆ、幽々子様!?」
「妖夢、まだ言ってないことがあるでしょ?」
「どうゆうこと?」
パチュリーは不思議そうに聞くと、皆が妖夢に視線を向けた。それに対し彼女は目を逸らすように顔を背けた。
「.......言えません」
「......あの子に何を言われたかはわからない、けど今はそれどころじゃないのはあなたが一番知っているはずよ」
幽々子に諭され、数分沈黙が続くと口を固く閉じていた妖夢の口が小さく開いた。
「............ごめんなさいアルマさん」
そう小さく呟くと彼女はアルマがいなくなる前に話したことを語った。
霊夢さんが異変を解決する少し前、私を庇ったアルマさんの怪我の治りが早い彼に聞いたんです《あなたは本当に人間なんですか?》と、そしたら急に真剣な表情になって話してくれたんです。
「俺はお前と同じ.........半人と呼ばれる者だ」
「アルマさんも......半人?」
最初は何かの冗談かと思いましたが、人間離れの力、回復力を見せられれば信じざるを得ませんでした。
「驚いたか?」
「す、少しだけ......」
「まあ、人間の見た目が強いからな」
少しかなしそうに笑う彼を見て、私は何も言えませんでした。
「ある理由があって俺は魔界に帰らなくちゃいけない。そこで霊夢達に伝えてくれ、いままでありがとう俺は家に帰るって」
「何を言ってるんですか......?」
そんな私の声も聞かず、彼は私の頭を撫でて言いました。
「んじゃ、頼むぜ?」
「ア、アルマさん!!」
指の鳴らす音が聞こえると私の視界から一瞬で消えてしまいました。まるで最初からいなかったかのように......
妖夢の話を聞いた彼女達は小悪魔を除くメンバーはすでに気づいていたようで、驚いてはいなかった。むしろ、皆は納得したようだった。
「やっぱり......そうなのね」
「妖夢さんも半人だから親近感があったってことでしょうか?」
小悪魔が不思議そうに言うと、すでに魔界の入り口に触れようとしていたレミリアが不機嫌そうに言った。
「いずれにしても、この先にいるバカ半人に会えばわかることよ」
そう言って彼女は魔界の入り口に飲み込まれるように入っていく、それに続くようにパチュリーとフラン、小悪魔も魔界の入り口に飲み込まれた。
その様子を呆然と見つめる妖夢の頭を幽々子が優しく撫で、元気をつけるように言った。
「半人君が言ったことをどう思ってるか私は分からない、でも今はあなたが半人君にできることをしましょう」
「.....はい!」
二人が入り口に入るのを見届けると紫は面白そうにクスクスと小さく笑い、自分の能力で作ったスキマを使い魔界へ向かった。
時を同じくして、ここは魔界の中心に聳え立つように建てられた古びた巨城、桐月アルマは玉座に踏ん反り返って座っていた。
「ここも久々だな.......お前らもここにとどまらなくてよかったのにさ」
彼に忠誠を示すかのように跪く彼らに向かって言い放つと、先頭で頭を耐えれていた周りよりも一回り大きいオレンジの肌で筋肉隆々の単眼の男が言った。
「俺たちはあんたの帰りを待ってたんだぜ?この城全員.........そして、魔界の住人全員があんたの帰りを」
「そうですよ?みんな喜んでました」
頭から小さいツノを生やし口から小さな牙が目立つ、右翼だけしか生えておらぬ女性が笑顔で言った。
「そうか......」
その言葉にどこか悲しそうな反応をして、部屋の天窓から魔界の空を見た、今日も紅く煌めく赤空が広がっている......
「おかえりなさいませ......魔王様」
彼女が弱々しいが何処か安堵するような声で主を迎えた。
魔界を統べる魔の王は、どこか虚しい表情であった。