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東方魔人黙示録  作者: 怠惰のあるま
最終章《魔王は魔人の夢を見る》
202/204

《真相は全て無の中に消える》

もはや不定期となりつつある


遅れて申し訳ないです。


予想外の答えに一同は驚きを隠せなかった。

何せ数千年、数万年単位ではない。数時間前にこの世界は産まれたと言っているのだ。驚くのも無理はないだろう。


「ちょっと待ってよ。私も初耳なんだけど」


協力者であろう桜も聞かされていなかったため、少し怪訝そうな表情をしていた。


『聞かれなかったからな』


素っ気なく返す雁来へ桜は不満をぶつける。


「だとしても協力してるんだから教えてくれてもいいじゃない!」

『俺は聞かれたことを答えられる範囲でしか言わん』

「融通が効かない人...!」


雁来は意に介さず適当な態度を見せ、桜は彼を睨みつけた。


「そ、そんなことよりもこの世界はさっき生まれたってことか!?」


その二人の間に黄泉は割って入り雁来の先ほどの答えに対して未だ事実を受け止めらていないのか声が震えていた、

桜からは現状を全て聞いていた。アルマが皆を敵に回したことも、彼の怪物が暴れていることも、天使達との会談のことも。

動転している黄泉とは反対に異様に冷静な態度で雁来は答えた。


『そう言ってるだろ』

「し、信じられるか! 大体俺たちは記憶にないぞ!」

『当たり前だ。お前らはこの可能性世界の住人。別の可能性世界であるそこの3人はまだしも、お前らはある一点から始まった可能性だ。記憶を受け継いでるわけないだろ』


どこか無機質に答える雁来に嫌悪感とも恐怖ともいえるものを黄泉は感じた。

彼の頭の中では疑問がぐるぐると渦巻いていた。仮に世界が先ほど生まれたことが事実なら、今までの記憶は、思い出は、経験はすべて虚構だったことになる。そして、一つの疑問に辿り着いた。


「俺は...何人目だ...?」


小さく、絶望しながら黄泉は呟いた。その呟きに対して雁来は無機質に答えた。


『お前は10人目だ』


聞きたくなかった答えだったのか、黄泉の顔は完全に絶望へ染まった。


「は...はは...まじかよ...笑えねぇ...」


黄泉は一人で納得したように力のない笑みを浮かべていた。その姿に仙我や桜、竜神も儚月も理解できなかった。


「10人目って?」

「この世界が生まれ変わり、新しい可能性と共に生まれた俺の人数さ...」


仙我は理解すると同時に吐き気を催し、咄嗟に口を押さえた。

二人の反応に理解が追いつかない竜神は狼狽えていた。


「お、おい...どういうことだ...?」

「たぶん、この世界は俺たちが来る前に少なくとも10回は生まれ変わってるってことだ」

「はぁ!?」


儚月の答えに竜神は耳を疑った。だが、その答えを訂正するように雁来は言った。


『生まれ変わるって言い方は正しくないな。正確にいうと分岐している、だ』

「分岐って、そういえばあなた私たちのことも可能性って言ったわよね」

『世界は根っこのように幾重にも分岐してる。それは可能性の根として今も分岐し続け無尽蔵に増え続けている』


可能性はどんな時にも発生する。

例えば、人が分かれ道をどちらに進むか悩んでいる時、その時点で右に進む可能性と左に進む可能性が生まれているのだ。しかし、もしかしたらきた道を戻る可能性もあれば、真っ直ぐ突き進む可能性もありえる。

可能性は無限だ。考えれば考えるほどに増え続ける。それは世界も同じこと。一つの可能性が生まれる度に分岐し世界が生まれ少し差異がある同じ世界が生まれるのだ。


「じゃあ、今も分岐し続けてるってことかよ!」

『......いや、今は分岐させていない』

「させていない?」

『この可能性世界は滅びに進んでいる。これ以上この可能性世界を増やす意味がないからな』


抑揚無く語る雁来の襟を鷲掴み、椅子から引っ張り上げると竜神は怒りのままに言った。


「じゃあ、てめぇがこんなくそみてぇなことを繰り返してんのか!?」

『離せ』


無感情で雁来は竜神の腕を掴んだ。


「うるせえ! お前みたいなのはーーーぐっ!?」

『離せって言ってんだろうが』


竜神が痛みに顔を歪めるとメキメキと彼の腕に雁来の手が食い込んでいた。握り潰すと言わんばかりに力を込め、竜神を見つめた。


『てめぇに何がわかる? 何もしらねぇ外野が口を開くな』


怒っているように聞こえる声だが、彼の顔は未だに異様な無表情であった。

スッと横から雁来の腕を桜が掴み、首を横に振った。

舌打ちをし、パッと掴んでいた腕を離すと竜神も襟から手を離し、手の跡がついた腕を摩った。

一触即発の二人の間に儚月が割り込んだ。


「俺たちは確かに外野だ。けど、協力者でもある」

『お前らは桜の協力者。俺の協力者じゃない』

「だけど間接的にはあなたの協力者だ」


ニヤッと笑う儚月の態度に、雁来はめんどくさそうなため息をした。


『お前らがなんと言おうと勝手だが、俺が自分の行いが正しいとは言わない。むしろ大罪を犯している』

「自覚があるならどうして止めない」

『お前は死ねと言われて素直に死ぬのか?』

「それは...」


当然ながら、儚月は頷くことはできなかった。


『止めたくても止められないことはいくらでもある。それが世界の真理であり呪いだ』

「じゃあ、なんで君は戦い続ける」

『.....どんなに理不尽だろうと手に入れるんだよ。アイツが生きている世界を』


その表情は先ほどまで無感情だった時と違い、悲しさが感じれた。


『無駄話は終わりだ。桜、こいつら連れて早くことを進めろ』

「わかってるわ。みんな行くよ」


そう言って皆を促す。だが、儚月はその場から動かなかった。


「最後に聞かせてくれ。アイツって言ったけど君にとってどういう存在なんだ?」


儚月の質問に雁来は数舜悩み、答えた。


『嫉妬深くて不愛想な可愛げのない女さ」


感情の籠っていなかった雁来の眼に懐かしさが浮かんでいた気がした。その答えで察したように儚月は軽く会釈をし桜の後に続いた。彼がついて行くのを確認し、竜神も渋々と後に続いたが、黄泉と仙我はその場から動こうとしなかった。


『どうした。早く行け』

「......滅ぶとわかっているのにこれ以上何をしろと?」


絶望し切った二人に雁来はめんどくさそうな顔をした。


『だからそれを止めにいけ』


二人はキョトンとした表情を見せた。


『桜が言ってたろ。この世界の終焉を止めるって』

「でも、止められるのか...?」


僅かな希望でも見つけたように黄泉の表情から絶望が薄まっていた。


『お前たち次第だ。可能性は無限だが、誰かが決めつけるものじゃない。お前たちがこの世界で生きていきたいのならその可能性を掴み取れ』


言いたいことを言ったのか雁来は二人の返答を聞かずに黒い粒子へと霧散し、その場から消えた。


「掴み取れ、ね...」


曖昧で、適当な言葉。だけど、なぜか心に響く彼の言葉に二人はいつの間にか笑っていた。


「あの回りくどいところと喋り方はやっぱりあの人だよな」

「理由があるんだろう。今わかるのはあの人が真剣な時は嘘をつかない」

「それも極稀じゃね?」

「まあね」


そう言って二人は顔を合わせて笑った。先ほどまでの絶望は消え去ったかのように彼らの顔には希望が満ちていた。


「とにかく今はやれることをやろう」

「そうだな」


二人は先に進んだ桜たちを追いかける。

その背後には彼らを見守るように一人の男がいた。


「なんだ。まだ俺が出るまでもないか。なら、もう少し様子を見守るとしよう」


男は暗躍するように彼らの後を追った。


△▼△


そして、時は一度遡り怪物達と異世界の強者達の戦況は。


涙亜とアスモデウスの戦場ではギャーギャーと罵詈雑言が飛び交っていた。


『動くなクソガキ!』

「うるさいオバさん!」

『ムキー!!』


クソガキと呼ばれた涙亜はお返しと言うばかりにアスモデウスをオバさんと呼んだ。それに対しアスモデウスは顔を真っ赤にし怒り狂っていた。


『空気よ魅了せしめよ! 空気魅了(エア・チャーム)!』


ピンク色の魔力が辺りを包み込む。それは空気を浸透するように広がって行く。

ピンクの魔力が涙亜の周りにまで届くと首を押さえ苦しそうに悶え始めた。


「あ...く、るし...ぃ...!」

『魅了された空気は私のために害する者を窒息させるの』


クスクスと口元に手を当てながらアスモデウスは笑っていた。

苦しみながらも涙亜は諦めていない。彼女の目はまだ死んでいなかった。


『その目、嫌いじゃないわ。あなたが男だったら惚れちゃいそう』

「あたしが...男でも...ごめんだよ...!」

『口の減らないガキ...いいわ。そのまま落ちてしまいなさい』


興味を無くすようにその場を去ろうとした怪物だったが、ふと違和感を感じ取った。

誰かに見られているような不思議な不快感を。


『心を読まれるのは嫌いなのだけど?』


自身の背後に立っているであろう彼女にアスモデウスは言った。

彼女はクスクスと笑い、第三の目からピンクの輝きを放つと涙亜の周りに漂っていたピンク色の魔力を消し去る。

呼吸のできなかった涙亜は突然肺に来た空気に咽せていた。


「ゲホ! ゲホ! だ、誰...?」


助けてくれた彼女に朧げながらも視線を移すと涙亜に向けて微笑んでいた。


「あなたの味方ですよ。今は」

『傍観者ならその役を続けていればいいものを』

「つまらない役だったもので」

『なら今からご主人様の敵と見なすわ。古明地さとり』


彼女ー古明地さとりに向けて桃色の瞳を向けた。


「いいえ。私はアルマの味方です。ただ、ちょっとおいたが過ぎた家族に説教しようと思っただけ」

『あら怖い』


アスモデウスの横を悠々と通り過ぎると地面に倒れる涙亜に手を差し伸べた。


「立てますか?」

「は、はい...!」

「申し訳ないのですが、お手を貸していただけますか? 怪物の相手は私でも骨が折れるので」

「大丈夫です! 二人でやっつけましょう!」


さとりの手を握り、立ち上がると涙亜はアスモデウスに自身の武器の切っ先を向けた。


「もう倒れないよ!」

『これはこれは...面倒ね』


△▼△


一方こちらは未来とサタンの戦場。


『ちょこまかと...逃げ回っても無駄だ!』


空から降り注ぐ燃える岩石を危なげなく避け続ける未来は虎視眈々と魔法を撃つために魔力を練っていた。


「逃げてるように見えるなら、あなたは三流よ」


未来は煽るように言ったが、サタンは鼻で笑った。


『我を苛立たせようとしてるならそれこそ三流だぞ』

「意外と冷静ね」


魔力を練り終わり、地面を蹴ると同時に足先の練った魔力を流し込むと魔法陣が展開した。


「岩系肆式-岩堅刺突(テッランス)


魔法陣の範囲から無数に槍が現れるとその上を通ったサタンの体に刺突する。しかし、それを意に介さず岩製の槍を蹴散らしながら未来に迫る。


「流石に無理か」

『万策尽きたならここで終いよ!』


サタンは大きく口を開けると口内に赤い魔力の粒子が集う。


「ちょ、ちょっと! 何よその魔力!」


急いで魔力を練り、それを防げるだけの魔法を撃とうとするが怪物の魔力収集速度は速く、それは解き放たれた。


『憤怒の極 臨界突破の怒り』


それは現代で言う核爆発そのものだった。

サタンの口から放たれた魔力の爆発は直径数キロを焼き尽くさんばかりの大爆発。未来だけでなく周りで戦っている他の異世界人をも巻き込むだろう。


「ま、間に合わない!? けど私が止めないとみんなが...!」


死を覚悟しつつの未来はみんなを守るために全魔力を込め、命懸けの魔法を放とうとした。


「お姉さんカッコいいねぇ!」


その声を聞くまでは。


「え?」


未来は目の前の光景に目を奪われた。

いつの間にか自身の前にいた少年にもだが、先ほどまでなかったはずのエメラルドに輝く地底の天井にまで届いた壁が聳え立っていた。


「嫉怒 不可侵のイージス」


強い衝撃が壁の内側から空気を伝って感じたが、壁は壊れることなくサタンの爆発を防いだ。


「大丈夫かい? お姉さん」

「だ、大丈夫よ。それよりもあなたは」

「俺は桐月イラ。たまたま地上に行ってたんだけど、地底からすごい揺れがあったから急いできたんだ」

「助けてありがとうイラ。正直、あなたが来なかったら今頃」

「かっこいいお姉さんを助けるのは当たり前さ!」


鼻をかきながら胸を張るイラだったが、すぐに何かを感じ壁の向こうを睨み、冷や汗を流していた。


「まじか。さっきよりも昂ってるじゃん」


ピシッ! と壁にヒビが入るとイージスを突き破りサタンは満面の笑みで二人の前に現れた。


『はっはっはっはっはっは!! あれを防ぐか! いいぞいいぞ! 我をもっと楽しませろ!!』

「で、でか!? 聞いてないんだけど!?」

『さぁ! もう一度防いで見せろ!』


サタンはまた先ほどと同じように魔力を集める。


「さっきのをまた撃つ気!?」

「うっそ! あんな大規模の壁そうそう連続で作れないよ!?」

『喰らえ! 憤怒のむぐっ!?』


今まさに解き放たんとしたが突如、下からサタンは顎を殴られ口が閉じた。そのまま魔力は口の中で暴発した。


『ぐぁっはぁぁぁ!?』


流石のサタンもその爆発はこたえたらしく口から黒煙を吐き出しながら地面に倒れ伏した。


「な、なに!?」

「全く、油断するんじゃないよイラ」


先ほどサタンの顎を殴り上げた人物が二人の前に降り立つとイラは嬉しそうに表情を明るくし、飛びつこうとした。


「破月ねぇ!」


が、寸でのところで頭にチョップをされ地面にめり込んだ。


「ったく...人前で抱きつこうとするなって言ってるだろ」

「いいじゃん! 父さんと母さんだって人目なんか気にしてないし!!」

「アイツらを参考にするな!」


未来は痴話喧嘩を始める二人を呆然と見つめていた。


『いい...ぞ...!』


その声に三人は身構えた。

ゴゴゴ...と地面を揺らしながら起き上がるサタンは未だ満面の笑みで三人を見据えていた。


『我を地面に伏せるものは主を除いて貴様が初めてだぞ!』

「そう言いながら元気そうじゃん!」

『ここまで血湧き肉躍る戦闘はそうそう味わえんからな! まだまだ楽しもうぞ!』


サタンは高らかに声を上げて三人に襲い掛かった。

迫り来る大厄災に破月は怪物同様に笑みを浮かべていた。


「イラとそこの女! 手を貸しな!」

「いいよぉ!」

「言われなくとも...!」


△▼△


次の戦場。

拳と拳。いや、金属と金属がぶつかるような音がここで響いていた。


「オラオラ! まだいけるだろ!」

『めんどくせぇ...!』


アルマとベントはずっと殴り合いを続けていた。


『大体、何でおまえは素手で異法の拳と対等に殴りあえんだよ! 今の俺の拳はオリハルコンなんか目じゃねぇぞ!?』

「はっはっはっは!! オリハルコン如きじゃびくともしねぇさ!」


笑いながら拳を振り回すベント。

冗談じゃないとアルマは舌打ちをし彼を睨んだ。


『やっぱりおまえはバケモンだ』

「怪物に言われたくねぇな」


ニヒッと笑い、なおも拳を繰り出すベント。それが腹立たしいのかアルマの目が赤く染まり始めていた。

異変に気づいたのはベント。ぶつかり合う拳の威力が少しずつだが上がっているのを感じた。さらには何か弾かれるような衝撃も混じっている。

そう。例えるなら爆発。


『洒落せぇぇぇぇ! ぶっ飛べ脳筋がぁぁぁぁぁぁぁ!!』


アルマの防御も何もかもを捨てた大振りの右拳が一瞬赤黒く光った。

嫌な予感がし、咄嗟にベントは両腕で防御するように体の前で交差した。

ベントの体に触れた瞬間、拳が爆発した。


「がっはぁ!?」


耳を劈くほどの爆発にベントは吹き飛んだ。防御した腕はどうにか火傷程度で済んだが、衝撃は計り知れず。空に浮いたベントは体勢を整え、天蓋を蹴った。


「やるじゃーーーー」

『どこ見てんだ?』


声が聞こえたのと同時に自分の右腹に衝撃が走った。胃から登ってくる胃液と血を吐き出しながらベントは凄い勢いで地面に落下していった。


△▼△


また戦場は移り。ここはグランヒルデ・アルケミーとアスタロトが戦っているはずだった。しかし、今や怪物は地にひれ伏し四肢を拘束された状態となっていた。


『うぐぐ...』

「全く油断したよ。まさか、初手であんな姑息な手を仕掛けてくるなんて、けど無意味なの」


アスタロトによって体を蝕まられていた彼女であったが、勇者のパーティーとして世界を救った一人。すぐにウイルスを消し去り、怪物を叩きのめしていた。


「しかし...君弱くないかい?」

『うるさい! 憂鬱は怠惰がいないと弱いんだ!』

「それずっと言ってるけど、意味がわからないのね...」


そう。アスタロトはグランヒルデが思っていた以上に弱かった。その間、ずっと同じことを繰り返し言っていたため彼女も呆れていたのだ。


「もういいよ。君にとどめを刺して他の人を助けないと」

『やだやだやだ!! 憂鬱はあなたを止めるのぉ〜!!』


子供のように駄々を捏ねるアスタロトに彼女は呆れると同時に違和感があった。なぜこの怪物はこんなにも余裕なのかと。そして、その違和感はすぐにわかることとなった。

駄々を捏ね続ける怪物に容赦なく魔法を唱えようとした次の瞬間、グランヒルデの目の前に何かが凄い勢いで落下した。

落下したそこにはガタイのいい人間の形をした穴が出来上がっていた。


「な、なんなんだいきなり!?」


驚いた彼女は魔法の詠唱を途中で止めて穴を覗き込んだ。


「もしかしてベント!?」


中にいたのは他の怪物と戦っているはずのベントであった。彼は何事もなかったように穴から這い上がると首をゴキゴキと鳴らして獰猛な笑みを浮かべた。


「いいぜぇあいつ! 相当強い!」

『なんで叩き落とされて笑ってんだよ。気持ち悪りぃ』


ベントの反応に怠惰の怪物である桐月アルマはドン引きしていた。


『怠惰ぁ! 助けてよぉ!』

『黙れアスタロト。弱いふりすりゃ俺が助けると思ってるのか? いい加減にしねぇと俺が殺すぞ』

『わ、わかったよぉ...』


怯えた様子でアスタロトは答えると四肢を拘束していた綺沌から難無く抜け出し、不機嫌そうに立ち上がった。


「随分と余裕だと思ったけど、自分の強さまで騙すなんてね」

『別に騙すつもりはなかったよ。憂鬱は怠惰がいないと最弱なのは事実だし』


クスクスと笑い、両手を灰色の光沢を放つ剣へと変えた。


『だって〜? 怠惰に私の活躍を見てもらえないなんて億劫じゃん!』


アスタロトは両腕を振りかぶりながら飛びかかる。しかし、横から吹き飛んできたアルマとぶつかりそれは阻止された。数メートル二匹は転がった。


『もう怠惰ぁ! 戦ってる最中にそんなぁ〜...ぐべっ!』

『離れろゴミ。気色悪りぃ』


クネクネと頬を染めて惚けるアスタロトを踏み潰して立ち上がるとアルマは服についた土を払い、グランヒルデといつの間にか横に立っていたベントの二人をめんどくさそうに見つめる。


『おいアスタロト。めんどくせぇから俺に憑け』

『いいの!?』

『時間がない』

『ぐふ...ぐふふ...! 怠惰と...夢の合体...!』


気持ちの悪い笑みを浮かべるアスタロトは微小のウイルスに霧散した。それにギョッとする二人だったが、さらに驚いたのがそのウイルスがアルマの体に吸収された。

灰色のウイルスがアルマの中に全て取り込まれると彼の姿が変わっていく。

真っ黒い瞳だった彼の右目は灰色に染まり、両肩から手の甲まで銀色に輝く鎖が纏わりついた。


『さぁて、二人掛かりでこいよ。じゃねぇとーーーーー堕ちるぞ』


△▼△


そして、また戦場は移る。

ここは桜とマモンが戦っていたが、すでに決着がついていた。


『あ、あはは...やっぱり桜ちゃんはつぉいねぇ』

「......なぜ本気を出さないの」

『なに言ってるんだぁい。僕は本気だったさ』

「じゃあ、なぜ強欲の力を最大限に使わないの? 思い出したのよ。あなたたち怪物はこんな弱くない。なぜならアルマの怪物だから」


そういう桜にマモンは笑った。


『僕は弱いよ。怪物の中で最弱さ』

「それはアルマの強欲の感情が薄いからかしら?」

『なぁんだ。わかってるじゃん』


ケラケラと笑いマモンはゆっくりと起き上がる。


『マスターは欲しがらない。なぜなら守るものが増えるのを望まないから』

「それは怠惰ゆえに?」

『そうだよ。マスターは怠惰が強すぎるんだ。いや、強くなってしまった』


体についた土を落とすようにパッパッと手で膝を叩きながら立ち上がった。


「その言い方だと元々は怠惰が強くなかったように聞こえるわ」

『昔はもっと全ての感情が平等にあった。怠惰も今ほど強くはなかったんだ』

「じゃあ、なぜ?」

『マスターは可能性が生まれる度に感情が殺されたんだ』


悲しそうに怪物と化したアルマとベント、グランヒルデたちの戦いを見つめた。

桜は察した。あの怪物がアルマの怠惰に堕ちた成れの果てだということを。


『だから僕はマスターを止めなくちゃいけない』

「なぜ? あなたたち怪物はアルマに絶対服従でしょ」


ケラケラと笑いマモンは自身の手を胸に当てた。


『だって、お父さんが苦しむ姿なんてもう見たくないもん』


無邪気な子供のような笑顔を見せるマモンに桜は既視感を覚えた。

いつの日か見た少女の笑顔に似ていたのだ。


「リティア...?」


少女の名を呟いた。


『ふふふ、そうだよ。久しぶりだね先生』





師は弟子である少女の名を呼ぶ

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