表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方魔人黙示録  作者: 怠惰のあるま
最終章《魔王は魔人の夢を見る》
196/204

《全てを喰らいし者、雷を携える》

ようやく更新。

失踪? しませんよ。



何をしている。


幻真は答えられなかった。

理解はできているが答えることができなかった。


『何してんのって聞いてんだよ』

「お、俺は仲間を救うためにーーー」

『怪物になったのか?』


彼は目を逸らした。

感情に流され怪物となっていたとは言え、記憶は多少残っていた。だからこそ、怪物になった自分が恥ずかしかった。


『はぁぁ...お前は感情に流されやすいというか、感情に忠実というか...もっと感情を制御しろ』

「制御しろって言われてもどうすれば」


困った様子の幻真に男は優しい言葉を。


『そこはお前が考えろ。俺は教えるのが下手なんだよ』


かけることはなく、無責任な言葉を発した。


「そんな無責任な!?」

『救って貰えただけありがたいと思え。俺は本来、お前らに干渉していい立場じゃないんだ』

「どういう意味だよ」

『さぁな。それより早く答えろ。お前は何をしてる』


何をしているか。決まってる。彼は友人を、仲間を、救うために戦っている。

幻真は確信していたが、先ほども言った通り彼は答えることができなかった。


『たった一人だけ魔王の記憶操作から逃れたと思ったら、お前は何してんだ』

「だから俺は仲間を止めるために!」

『止める? 仲間を救うんじゃないのか』


男からの指摘に幻真は尻込みする。


『お前が何をしたいのかわかんねぇわ』

「お、俺は...」

『選べよ。救うのか? 止めるのか?』


二者択一。

仲間を救うか、仲間を止めるか。同じように聞こえて、同じではない。似て非なる二つの事象のどちらを幻真は選ぶのか。


「......なぁ」


だが、幻真はーーーーー


「選ばなきゃいけないのか?」


その返答に男は眉を顰める。


『何言ってんだ。どちらかを選ばないとーーーーー』

「救えもしないし、止めることもできない、か? 違う。俺は仲間を止めて救うんだよ!!」


自分に言い聞かせるように幻真は強く、自分の思いを口にした。

悩み、戸惑い、疑い、漸く彼は自身を見つめた。


『......ギヒッ! そうさ! 用意されたものなんて選ぶな! 自分で決めて進め! それが人間だ!』


両手を大きく広げ、賞賛するように幻真に拍手を送った。そして、彼の顔を見つめて小さく笑う。


『やっぱりお前は幻真だぜ』

「どう言う意味だよ」

『気にするな。さて、答えも聞けたし、本題に入ろう。幻真くんよ。君はこのままじゃあベルゼブブに負ける』


目の前で大きく口を開け、こちらを飲み込もうとするベルゼブブを指差し、男は言った。


「なんとかなるって!」

『はぁぁ...お前は本当に前向きだよな。それは勝機あっての発言だよな?』

「いや、その、特に...」

『うん。お前はそういうやつだったよ』


そう言って、また大きくため息をする男の認識できない顔を幻真はジッと見る。

何か気になることでもあるのか、首を傾げたり、唸ったりしていた。


『どうした?』

「いや、お前とどこかであったような気がしてさ」

『......気のせいだろ。それよりもベルゼブブのことだが、力を貸してやるよ』


突然の申し出に幻真は一瞬戸惑うが、小さく頷くと言った。


「ああ、頼む!」

『...あ、疑うとかないのね』

「仲間の一人に似てるからかな。お前はなんか信用できるんだ」


幻真の発言に男は一瞬驚いたが、ニヤリと笑うと小さい声で呟いた。


『意外と気づかれるもんだな...』

「なんだって?」

『いや、こっちの話だ』


男が指を鳴らすと幻真の口から紫色の炎が溢れ出した。

慌てて口を抑えるが先ほど自身に灯っていた時とは打って変わって静かに燃えていたことに幻真は気づいた。


「さっきよりも勢いが弱い?」

『元々、感情の炎は一つだけの感情で燃えるものじゃない。数多の感情によって燃える炎こそが真の感情の炎。お前の感情は炎と相性が悪いんだよ』

「でも、アルマは一つの感情を制御しろって」

『それは《炎》に限った話だ。そもそも枢要罪や大罪の感情は人や悪魔、ましてや天使でさえ簡単に扱える感情じゃない。それこそ神と呼ばれる存在ぐらいだ』


枢要罪、大罪は一つでも操るのは至難の技。

況してや感情に呑まれず、操り続けることは不可能。この男の言うように、それこそ神の所業。

異世界の住人達の何人かはアルマのおかげで多少は操ることはできているが、完璧では無い。ゆういつ大罪に呑まれず操ることができるのは始祖神である終始終作だけだ。


「じゃあ、感情解放はもう使えないじゃないか!」

『俺の話を聞いてたか? 炎との相性が悪いって言ったんだよ』

「相性...?」

『お前は水橋パルスィの感情解放を見たことがあるはずだ。彼女は炎だけだったか?』


そう言われると幻真はパルスィの感情解放の姿を思い出していた。

確かに彼女の感情解放は炎だけでなく雷も纏っていた。


「それじゃあ、アルマも炎以外を使えるってことか?」

『いや桐月アルマの感情解放は未完成。故に炎しか使えない。アイツならもっと多彩に感情を操れるはずなのにな』

「......なんでそんなに詳しいんだ? 信用すると言ったもののお前は一体何者なんだ」


男の正体に謎が深まると同時に何かが軋む音が聞こえた。その音に幻真は辺りを見渡すと止まっていた世界が少しずつ動き始めたことに気が付いた。


『さぁて、時間切れだ』

「お、おい待てよ!」

『最後にお前へヒントをやろう』


パチンッ! と指を鳴らすと七色に輝く雷が見えなかったはずの男の目から迸っていた。

それは少し様子が違うが感情解放だった。男の姿に幻真は目を見開いた。


「やっぱりお前...!」

『さぁ休憩時間は終わりだ!! ちゃちゃちゃっと終わらせてきな! 暴食の龍使いよ!』


ショーを終えるかのように男がお辞儀をすると目の前から男は消え、代わりにベルゼブブの大きく開いた口が迫っていた。

咄嗟に横に飛び退くと真神剣をしっかりと握り直し、切っ先をベルゼブブに向けた。

急に元気になった彼に彼女は首を傾げる。


『なんで動けるの? しかも傷は癒えてるようだし』

「へっ! ちょっと時間を止めただけさ!」

『まだ冗談を言える余裕があるなんてね。けど、もう終わらせてあげる』


キシキシと不快な音を鳴らすと、また大量の怪虫が現れた。

しかし、幻真に焦った様子はなかった。それどころか、彼の精神は落ち着いている。

大きく息を吸い、吐き出すと彼の額に灯っていた感情の炎が鎮火する。

感情が弱まったのか? だが、彼から感じる感情は弱まるどころか強まっていく。

バチバチと彼の中で増幅するように、感情の昂りと比例するように彼の中で何かが膨れ上がっていた。


『な、なんだ!? この異様な感情の昂りは!!』


ベルゼブブは幻真の中で今にも爆発しそうな感情に驚愕する。

同時に今の内にとどめを刺さなくてはいけないと本能が囁いた。虫達に号令を発し、呼び寄せた虫達を一斉に幻真に襲いかからせた。

もう数ミリで針が刺さろうとした瞬間、爆音にも等しい雷鳴が鳴り響いた。

突然の爆音にベルゼブブは条件反射で目を閉じ、両耳を塞いだ。それはたった数ミリ秒の出来事だった。目を閉じていた彼女は焼け焦げる匂いが鼻につき、目を開くと目の前に広がっているのは幻真を中心に黒い煙を出して焼け焦げた虫達の焼死体だった。その光景も異様だが、それ以上に目につくのは幻真の方だった。

バチバチと全身から紫色の電流を放出し、感情解放の時と同様に瞳を紫色に染めていた。


「さぁてと、決着をつけようか!」





龍操りし者は、炎を捨て雷を携える

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ