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東方魔人黙示録  作者: 怠惰のあるま
最終章《魔王は魔人の夢を見る》
194/204

《役者達は悲劇の中で舞い踊る》

やぁ、元気?

僕は元気じゃない。

コラボ&最終章更新です





役者達が怪物達と戦っているその頃、裏の人格の桜はゆったりと妖怪の山の中を歩き、目的の人物に会おうとしていた。


「にしても、妖怪の山のどこにいるのかしら。聞くの忘れてた」


メンドくさそうに溜息をする彼女の背後にある者が近づいていた。


「そんなところで何してるんだ?」


声を掛けられ後ろを振り向くと桜は、少し笑みを浮かべた。なぜなら、声を掛けてきた人物こそ彼女が探していた人物であったからだ。


「見つけたわ。私は安倍桜。あなたを探していたのよ。新月黄泉くん?」


探し人ーーー新月黄泉は自分を探していたという初対面の相手を警戒しながら聞いた。


「俺を? 何でまた」

「手伝って欲しいことがあるからよ」

「手伝うって...何を?」


黄泉の質問に桜はニヤリと笑う。


「この物語の終焉を止めることよ」

「......はい?」

「あとでしっかり説明するから。今は時間がないの。あともう一人探さなきゃいけなくて...あなたなら居場所を知ってるでしょ?」


自信満々にそう言う彼女であったが、黄泉は首を傾げて目を顰める。


「いや、誰を探してるんだよ」

「大昔に鬼達を統べていた鬼の棟梁 酒呑童子の生まれ変わりーーー修羅仙我くんよ」


幼馴染である仙我を探してると知ると先ほどまで警戒していた顔が緩み、のほほんとした表情となった。


「なんだ。仙我のこと探してるのか。なら連れてってやる」

「ありがとう。ただ、時間が本当にないから急いでくれると嬉しいわ」

「はいはい」


軽い返事を返すと黄泉は目の前に大きな機械仕掛けのゲートを作り出した。そのことにもびっくりだが、ゲートが起動すると空間に歪みが生まれ、ゲートを通して別の景色が広がっていた。


「はい開通っと」

「な、何なのこれは...?」

「ワープゲート。別の空間と別の空間を無理矢理くっつける機械で紫さんの能力の応用さ」


一通り説明し終えると黄泉は桜をゲートの中に促す。彼女は促されるままにゲートをくぐると、一瞬異様な重力を感じたがすぐに消えた。


「何今の...?」

「あ〜っと...無理矢理接合してるから通る時に変な重力場が発生するんだ。最悪、ブラックホールのような力が働いて死ぬ」

「なんてものを使わせてるのよ!?」


一歩間違えば死んでいたかもしれない道具を説明無しに使った黄泉に桜は怒るが、すぐに冷静になり自身の目的を果たそうと仙我がいるであろう家に近づいた。

扉を開けようと手を伸ばすと同時に勝手に扉が開いた。

来るのを察していたように仙我が家の中から現れたのだ。


「初めまして仙我くん。私はーーーー」

「桜さんですよね? 話は大体黄泉から聞きました」

「...いつの間に連絡したの?」

「さっきちょちょっと電波飛ばしておいた」

「あなたって...根回しが早いのね...」

「効率がいいだろ?」


そう言って笑う黄泉を尻目に、一つ咳払いをすると桜は二人と向き合い、自身の目的を語り始めた。


「私はある存在からあなた達二人の力を借りるように言われてここに来たの」

「ある存在?」


桜の言う存在に関して、黄泉は首を傾げた。


「今はまだ言えない。けれど、これだけは言える。あなた達が力を貸してくれないと、この物語は終わってしまう」

「この物語って言ってますがどう言う意味ですか?」

「それはーーーーー」


桜の言葉を遮るように彼女の背後の空間に亀裂が走った。

その現象にすぐさま気づいた桜は亀裂から距離を取り、いつでも術を発動できるように術式を組み始めた。

仙我と黄泉も同様にすぐに能力を発動できるように構えた。

亀裂が少しずつ広がっていくと割れた空間が剥がれ落ちていき、地面に落ちる。剥がれた空間の裂け目から不気味に輝く瞳が彼女らを覗き込んでいた。


「黄泉!」

「悪いがもう《検索》した! だが...《unknown》が出やがった!」

「お前の月の脳(データベース)にもデータがないのか!?」


黄泉と仙我が取り乱す中、桜だけが目の前の現象を冷静に見ていた。


「まさか...こんなにも早いなんて...!」

「桜さん。あなたはあれが何かわかるんだね」

「ええ...あれが物語の終焉による影響よ」


桜は裂け目を指差し言った。彼女の言葉に疑問を抱いた黄泉は首をかしげる。


「そもそもさっきから言ってる物語ってなんなんだ?」

「簡単に言えば小説や漫画みたいに作られたお話のことよ」


返ってきた答えに仙我は眉をひそめた。


「自分は、この世界は誰かによって描かれているって聞こえるね」

「そういう解釈もできるわ」

「な、なんだよそれ...じゃあ、俺達はただの物語の登場人物ってことかよ!?」


今までの人生が全て誰かによって決められていたことだと思うと黄泉は腹立たしさが湧いた。仙我も同じ気持ちであったが、一つ違和感を抱いていた。それは桜の目的である。


「あなたも登場人物の一人だとしたら、なぜこの世界の真理を知っているんですか?」

「この世界の管理者に出会ったからよ」

「管理者...?」

「詳しく説明したいところだけど、今は目の前の敵に集中」


話しているうちに裂け目から覗いていた者たちであろう異形の者共が湧き出ていた。

顔の部位がバラバラな者、頭から手と足が生え胴体のない者、手と足が無数に生えた顔のない者、縦に真っ二つに斬られ断面が見えながらも動く者、下半身が無く手があるであろう場所から足が生えている者、その他諸々に形容し難い異形なる者共が桜達を襲おうと近づいていた。


「どんだけ湧くんだ!?」

「流石にこの数は三人ではキツイわね。仕方ない。助っ人を呼びましょ」


桜が指を鳴らすと呼応するように彼女の目の前に裂け目が生まれた。それは異形の者共が湧いてきているものと同じであった。

こちらも異形を召喚でもするのかと思った黄泉であったが、その予想は外れ、中から現れたのは普通の姿をした二人の人間だった。


「さぁ、治療した分の働きはしなさい!」

「わかったよ! 全く...人使いが荒い女だ...」

「いいじゃないか。それに助けてもらった恩は返すべきだ」


現れた二人ーーーーー先ほどの戦場でベントとグランヒルデによって気絶させられた坂上儚月と坂上竜神だった。

気絶させられた後、魔王の怪物に皆が気を取られているうちに桜がひっそりと空間の裂け目へと引き摺り込み治療していたのだ。


「二人増えただけで対処しきれんのかこれ」

「おいおい舐めるなよ。こんな奴ら俺達だけでも事足りるぜ?」

「竜神。さっきも自分の力を過信しすぎてやられたばっかりだろ」

「あれは油断してただけだ!」


竜神はそう言って目と口が逆になっている異形に斬馬刀を振り下ろした。しかし、異形はそれを軽々と受け止めた。


「なっ!? 片手で受け止めやがった!」

「だから言っただろう...」


異形は竜神との距離を近づけるかのように斬馬刀ごと彼を引っ張る。異常な膂力に竜神はまた驚くが、彼も負けじと斬馬刀を自身に引き寄せた。謎の綱引きが始まる中、儚月は異形に近づくと右手で握っていた刀を軽く振るうと異形は縦に真っ二つに裂けて地面に倒れ伏した。

急に相手の引っ張る力が消えたため、竜神は尻餅をつく。


「いっつぅ...! 助かった儚月」

「全く...今のでわかったろ」

「ああ、そういうわけで五人でやろうぜ」

「最初からそう言ってるだろ...異世界の人間ってのは何でこうも自我が強いんだよ...」


なかば呆れつつ新月は空中に透明なキーボードを浮かべる。


「協力してくれるだけありがたいと思おうか。まあ...喧嘩になったらなったで《オレ》は構わねぇがな!!」


楽観的な口調から乱暴な口調へと変わり、何処からか取り出した巨大な棍棒を手に持つ。


「時間は無いから私も本気を出そうかしら」


ニコニコと両手を広げ、魔法陣を展開すると黒い笑みを浮かべて異形達を嘲笑した。

終焉を迎えた物語のキャスト達は自分達を捨てた管理者への憎悪によって異形の怪物に変わり果てた。怪物らは道連れを望むように世界を終焉へと導く者、又の名を《憎悪の怪物》。

異形達は声にもならない叫びを上げて五人に襲いかかった。


三千世界を切り裂く者 坂上儚月

全知全能を体現せし者 坂上竜神

天上天下に轟く悪鬼 修羅仙我

月の知識を蓄えし者 新月黄泉

血濡れの紅妖 安倍桜

VS

憎悪に蝕まれし怪物《異形》








△▼△







「やっと逃れられたぜ...」


パルスィのホーミング攻撃からようやく逃れられた剛は荒々しく息を吸ったり吐いたりと体力を相当削られたようだ。しかし、もうこの攻撃は彼には効かないだろう。

戦えば戦うほど強くなる。誰だってそうだろう。だが、彼の場合は能力の補正もあり、人よりも成長が早い。

それはまるでゲームでいうレベルアップをするかのように強くなる。

それはまるで人が病気に対して耐性をつけるかのように成長する。

どんな強大な敵だろうと彼は戦っているうちにその差を埋める。

それが彼、鶫剛が勇者と呼ばれる所以でもあろう。しかし、此度の敵は戦いすらまともにはしてくれないトリッキーな魔王。力量に差が開いているわけではない。むしろ彼が本気を出せば魔王は容易に倒せるだろう。

だが、強さイコール勝利ではない。

戦いというものは何が起こるかわからないもの。それこそ相手がトリックスターならなおさらだ。


「おやおや〜ん? 抜け出しちゃったか」


そう。魔王以上に読めない男。始祖神《終始終作》だ。


「終作...!」

「やぁやぁ剛くん! お疲れだねぇ〜! もう少し休んだらどうだぁい?」

「おちょくってんのか!?」

「俺は至って真面目だぜ〜?」


次元の狭間から上半身だけを出してダラけた体勢をとっている姿をしていては、誰がどう見ても真面目には見えないだろう。


「それよりも、なぜ魔王に付く」

「魔王の味方になったらダメなのか?」

「魔王は悪だろう」

「誰が決めた?」

「決めるもクソもねぇだろうが! 魔王は悪! 勇者はーーー」

「正義、か...アホかお前」


先程までのおちゃらけな態度から一変し、いつもの終作からは考えられないほど真剣な眼差しで剛を見つめる。

彼は一歩後ずさりする。なぜかは分からないが、その目に恐怖を感じてしまったからだ。

自分自身の奥の奥まで覗かれているような。

見られたくない何かを見透かされているような。そんな感覚を剛は持っていた。


「まあ、そんなことはどうでもいい。とにかくこれ以上、アルマの邪魔はさせねぇ」

「お前は...お前は何が目的なんだ!」

「目的も何も俺は役者として、悲劇を演じるだけだ」


次元の狭間に手を突っ込み、赤黒い大鎌を取り出すと大きく振り回して剛に向けた。


「さあ、劇はもう開演してるぜ?」

「何を言っても無駄か...」


終作の思惑は分からないが、アルマを阻む者は誰であろうと容赦はしない。それだけはわかった。故に剛は自身の持つ神と魔を斬り裂く、赤い刀身の神殺しの刀。その名はゼスペリア。

始祖神である終作を本気で仕留める為に剛はその切っ先を向ける。


「なら容赦はしねぇぞ」

「殺す気で来いよ。俺はそのつもりだからな!」


終作の不意打ちと共に闘いが始まる。

強欲を秘める始祖神は魔王を守る為に共に全てを敵に回し、使命を全うする為に勇者は友人に刀を向ける。

悲劇の連鎖は、もう止まる事はない。


強欲の始祖神 終始終作

vs

世界線の旅人 鶫剛









△▼△








幻想郷の地下深くに異様な光景があった。地面のいたるところに何かの噛み跡が付けられていたのだ。それも一つや二つなんてものではない。数百以上はあるであろう異様なこの場所で一人の男が跪いて、荒々しく呼吸をしていた。

何故その場にいるかという疑問よりも、彼の姿に皆は意識を持ってかれるだろう。

周りの地面についた歯型と同じく、彼の体にも数カ所あった。

小さく歯型がつく程度の場所もあれば、完全に噛み千切られた箇所もあった。一番酷いのは噛み千切られた左腕が辛うじてくっ付いていることだろう。腕は振り子のように彼が呼吸をする度にブラブラと揺れる。

そんな重症であるにも関わらず、彼ーーーーー幻真はまだ何とか無事な右腕を動かし剣を握った。


「まだ...まだ俺は...やれるぞ...!!」


幻真に一体何が...?

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