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東方魔人黙示録  作者: 怠惰のあるま
最終章《魔王は魔人の夢を見る》
193/204

《橋姫は記憶の混濁に気づく》

三ヶ月経過...早いものですね...


次元の狭間に入れられ、別の場所に移動させられたパルスィ。

そこは幻想郷の地上にある無縁塚。

何故ここに飛ばされたかは分からないが、彼女は混濁している意識から抜け出そうとするように頭を強く抑えていた。


「何故...? どうしてあいつが映るの...!!」


遠い昔の記憶。

幽香、映姫、リグルの四人で過ごした記憶。そこには覚えのない少年がいた。

その少年の姿には、あの魔王の面影があった。


「あいつは一体...?」

「余計な事を思い出すな」


目の前から次元の狭間を潜って現れた魔王はそう言った。


「何なの...! あんたは一体何者よ!!

「俺は魔王。この世界を壊し、混沌を呼ぶ者。それだけで十分だろう」

「じゃあ! どうしてそんなに悲しそうな顔をしてるのよ!!」


パルスィの言う通り、魔王は今にも泣いてしまいそうな顔をしていた。

それを指摘された彼は、顔を手で覆い隠すと不気味に笑い、先ほどの顔とは一変して口角を異様に吊り上げ、無理矢理の笑顔を作っていた。


「ギヒッ! さぁな。自分でも分からねぇよ。それよりいいのか? 俺はさとり様(・・・・)の仇だぜ」

「......ええ、分かってるわよ! あんたは私が倒す!」


それでいい。そう言って魔王は両腕を異法で硬化し、ツノに黒い炎を灯した。

パルスィは右目を抑える。溢れる緑色の炎を押さえ込むように。

だが、その二人の間に割り込みをいれるようにある男が地面を突き破り現れた。


「まだ俺との決着がついていないぞ魔王!!」


彼、鶫 剛は魔王を指差してそう言った。


「まさか地底から追ってくるとはな。だが邪魔だ。お前はもう眼中にねぇよ」

「お前がそうだとしても俺は眼中にあるんだよ。それに勇者でもない奴を魔王と戦わせられない」


そう言ってパルスィを庇うように彼女の前に立つ彼の姿に魔王は額に血管を浮かべていた。


「何も知らねぇクセにベラベラと綺麗事並べてんじゃねぇよ...! そろそろ俺もキレそうだ...!!」


ピリピリと肌に突き刺さる殺意と怒りに剛は一歩下がった。彼は少しだけ希望を持っていた。もしかしたら話し合いで済むのではないか、と。だが、それは誤算であった。

そもそも魔王が今まで殺意も無く、どこか遊んでいたのは計画を邪魔されていたわけではなかったからだ。しかし、少しずつ計画がズレ始めたことに焦りと怒りを抱いた魔王は遂に本気で邪魔者を殺す気になったのだ。


「さっきみたいな弾幕勝負はもう終わりだ。ここからは...殺し合いだ」

「いいだろう。パルスィ、あんたは下がってろ」


剛はパルスィに離れるように促した。この状況下、普段の彼女だったら文句を言いながらもその意見を聞いていただろう。だが、残念ながら今の彼女は普通じゃない。


「気安く名前を呼ぶな...」

「は?」


否定の言葉と共に、パルスィは剛の横っ腹目掛けて蹴りを入れた。

メキメキと音を立て、蹴り飛ばされた剛は地面の上を何度か転がりながらも体勢を立て直すと血を吐きながらパルスィを睨んだ。


「ガハッ...! テメェ...何のつもりだ!! 邪魔をするな!」

「あなたこそ邪魔をしないで。勇者? 魔王? 関係ないわ。私がこいつを倒すの。邪魔するなら先にあなたを殺すわよ...?」


冷たく剛を見下ろすその目は、その言葉は嘘ではないと誰が見てもわかる言うように鋭く殺意の篭った目をしていた。

その目を見た剛は彼女の方へと向きを変えた。


「なら、気絶させるしか...」

「よそ見してていいのかよ?」


声と共に殺気を感じた剛は右手を硬化させ、殺気のある方へ右ストレートを繰り出した。

耳を抑えたくなるような嫌な金属同士のぶつかり合う音が辺りに響いた。

魔王の硬化された左手と剛の右手がぶつかり合っていた。


「くそッ! 二対一かよ!」

「残念ながら三つ巴ってやつだ」


魔王はその場から離れるように後ろに飛び退くと、魔王が居た場所に見えない何かが振り下ろされた。

その衝撃で剛は後ろに吹き飛ばされるが、受け身を取りすぐに体勢を立て直す。

剛は今の衝撃の原因を探るように辺りを見渡すと空中に緑色の目のようなものが浮いていた。それが原因だと彼はすぐに理解し、呼びだしたものを一瞥した。


「嫉妬《緑色の目をした見えない怪物》。さぁ、二人とも踏み潰してあげる...」

「おぉ〜こわっ! 怠惰《黒色の目をしたダラけた怪物》」


魔王の背中を突き破るように魔王の胴回りぐらいの太さはある黒い腕が現れた。ゆっくりと這い出るように魔王の体から抜け出るとその腕の全容が見られた。

緑眼の怪物と同じかそれ以上の巨体に真っ黒の肌。時折、姿が薄っすらとボヤける不気味な黒眼の怪物。

魔王の感情の一柱であり、怪物達の中で最強と言われる黒眼の怪物だった。


半分以下(・・・・)だがいけるか?」

『止めるぐらいなら十分だ』


黒眼の怪物はゆらりと歩き出し、緑眼の怪物に迫る。それに応えるように緑眼もゆっくりと歩き出した。そして、二匹の怪物が手の届く範囲まで近づくと拳と拳がぶつかり合う音が響いた。


『退け...嫉妬』

『あんたがね。怠惰』


互いの怪物がぶつかり合うのを見ていた剛は怪物同士の戦いを余裕そうにみている魔王を倒すために接近した。

しかし、それを阻むようにパルスィが先ほどと同じように剛を横から奇襲した。だが、同じ手は食らわず彼は読んでいたように彼女の攻撃をかわすと背中にカカト落としを食らわせ、地面に叩きつけた。

血を吐き、地面に這いつくばる彼女の意識を確実に断つために拳を振り上げた。その一瞬の隙を魔王は逃さない。

自分から意識を逸らした剛の背後に立つと真紅に染まった拳を背中に食らわせた。メキメキと嫌な音が彼の拳に伝わると同時に、拳が爆発した。

前のめりに倒れそうな彼だが、地面を踏みしめ倒れることを拒否した。


「耐えるか。さすが勇者」

「テメェ...! 三つ巴って言いながら俺ばかり狙ってねぇか!?」

「まあ、強いて言うならお前が一番邪魔だから優先的に狙ってるのは確かだ」

「例え......そうだとしても私は...どちらも平等に狙うわ...!」


よろよろと立ち上がり、二人に向けて手をかざすと緑色の電撃を放った。


「嫉妬の獄《迸る怨み妬み》」

「くそッ! 避けるしかないか!?」

「相殺...できないか。はぁぁ...めんどくせぇ...」


剛は嫉妬の雷を避けるが魔王は異法で体を絶縁体へと変えた。

嫉妬の雷撃は、当たった相手への嫉妬が強ければ強いほど電圧が上がる。そして、嫉妬の執着心は相手を逃さない。したがって回避は不可能。

攻撃をかわしていた剛は、まるで蛇のように追いかけてくる雷に苛立っていた。


「気持ち悪りぃ動きしやがって!!」

「それ、当たるまで消えないから。そのまま追いかけっこでもしてて」


素っ気ない態度で剛に言うとパルスィは魔王へと視線を向けた。それに気づいた彼も彼女に視線を合わせ、ニタリと笑う。


「どうして笑ってるのかしら? 妬ましい」

「一周回って面白くなってきたのさ」

「趣味の悪い人...いや、魔王ね」

「どうでもいいさ」

「ええ、そうね。さっさとあなたを倒して終わらせる」


緑色の嫉妬の炎を右目から溢れさせ、それを右手で抑え左手を魔王へと指を指した。

対して魔王。怠そうに上半身を限界まで倒し、下から見上げるように顔を上げ、ツノから黒色の怠惰の炎を放出していた。


「殺すの間違いだろ?」

「同じでしょう?」

「果たしてそうかな...?」

「......いいから来なさい。叩きのめしてあげる」

「ギヒヒ...!! 怖いねぇ?」


悲劇の夫婦は愛する者を殺すために嫉妬の炎と怠惰の炎を燃やした。

今、運命は悲劇の幕開けと共に終焉へと向かう。


魔界に潜む怠惰欲 桐月アルマ

VS

地殻の下の嫉妬心 水橋パルスィ










△▼△










その頃、幻真達はーーーーーーーー


終作に阻まれた幻真は止むを得ず、真神剣を握り彼に斬りかかった。だが、その間に割り込むように暴食の怪物が現れ、暴食の炎を盾の代わりとした。

炎が真神剣を喰らおうと蠢いている。幻真は急いで炎から剣を離し、怪物から距離をとった。


「邪魔はさせないよ〜! イレギュラーくん!」

「イレギュラーだと?」

「そうだよ〜! 本来なら君もマスターの敵役だったのにね〜!」


暴食は面白そうに笑い、斬りかかってきた幻真の攻撃をかわしながら答えた。


「まるで俺が役者のような言い方だな」

「事実だよ。マスターの台本通りだと次はーーーーー」

「暴食!!」


何かを言いかけた暴食に対し、珍しく終作が大声で怒鳴った。それには怪物も驚き、口を閉じた。


「お前とアルマは何を企んでるんだ!」

「言えないね。俺がアルマくんに怒られちゃうじゃ〜ん?」

「なら...力づくで聞くまでだ!!」

「それは暴食の怪物に勝ってからにしな」


次元の狭間を作り出し、その中に入りながら終作は言った。

完全に入り切る前に彼を止めたい幻真だが、暴食の怪物はそれを全力で阻んだ。

終作が狭間と共に消えると、幻真は舌打ちをし暴食に剣の切っ先を向けた。


「こうなったらお前から聞き出す!」

「聞き出せるならね〜」

「随分自信たっぷりだな」

「知ってる? マスターの中で最強は怠惰だけど。その次に八つの枢要罪の中で最強なのは...私だよ?」


暴食の言葉に背筋が凍る感覚を味わった幻真は、怪物の口が徐々に裂けていき、炎に包まれていくその姿に既視感を覚えた。

そして、ハッキリとそれを思い出した。


「感情解放か!?」

「半分正解で半分間違い。感情解放とは一時的に私達怪物に近づく技。そして、自分の許容量を超えて、感情を解放すると私達のように怪物となる」

「ように...?」

「私達怪物は元は人間だったり悪魔だったり天使だった」

「なんだと!?」


驚く幻真に暴食の怪物はキャッキャッ! と子どもっぽく笑う。そして、暴食の見た目は完全に人間から怪物のそれへと変化しつつあった。


「私達の真名はマスターも知らない。それを知ればきっと、マスターは罪悪感に見舞われるから」

「そんな重要そうなことを俺に教えていいのか?」

「別に〜だって君は...ここで私に食べられるんだもん!」


大きく両手を広げ、暴食の怪物は紫の炎に包まれた。それは暴食を燃やしながら大きくなっていく。

いや、暴食が大きくなっているのかもしれない。


『我は蝿の王とも呼ばれた八つの枢要罪の暴食を司る魔王。名はベルゼブブ』

「ま、魔王だと...!?」

『我が食欲に従うまま、暴食の限りを尽くした我はいつしか暴食の怪物となっていた』


全身を纏っていた暴食の炎が晴れると、ドクロが付いた杖を片手に持ち、首には同じくドクロが連なった首飾りを垂らす、ハエのような羽と目をし、怪物を成長させたような姿をしていた。


『さぁ...イレギュラーよ。我がマスターの敵なり得る者よ。今ここで存在したという概念ごと喰ろうてやろう!!』

「一筋縄じゃ行かないよな...!」


暴食の魔王 ベルゼブブ

VS

龍を操りし者 幻真








△▼△








「退け!」

「我に命令するな!!」


傲慢の怪物と白谷磔が剣を交えながら両者とも傲慢な態度で言い放った。


「俺はあの魔王を倒さなきゃいけないんだよ!!」

「ほぉ...何故だ?」

「あいつはさとりを傷付けた! 大切な仲間を傷つける奴は俺は許さない!」

「なるほど...愚かな役者だ」

「なんだと!?」


傲慢の怪物は磔の腕を掴み、地面に叩きつけると彼から距離を取った。そして、どこからか取り出したとても豪華な椅子に足を組んで座った。


「大切な仲間を愚かにも忘れ、その仲間を傷つけようとしている貴様は愚者以外の何者でもない」

「......何をわけのわからない事を!!」

「もう気づき始めているのだろう? 自分の記憶が改竄されてることを、我が主が仲間であったということを」

「黙れ!!」


磔は斬りかかった。傲慢の怪物の言葉を否定するように。だが、怪物は意に介することなく、感情の炎を剣に固形化させ、それを左手に持ち、彼の攻撃を防ぎ、座ったまま話を続ける。


「自分の信じた正義を貫く、素晴らしいことだ。だが、行き過ぎた正義は傲慢となる。それはとても烏滸がましいこととは思わないか?」

「テメェに何がわかる! あいつが仲間だったとしても世界を守るためなら倒すしかないだろうが!」

「その考えが傲慢だ」


怪物は磔の攻撃を受け止めながら椅子から立ち上がり、右腕に金色の炎を纏わせると磔の顔目掛けて拳を振るった。

磔も同じく剣を握っていない反対の手に金色の炎を纏わせ、それを受け止めた。しかし、磔の傲慢の炎の勢いは怪物よりも弱く、怪物の炎が彼の腕を焼こうと飲み込んだ。


「アツッ!?」

「迷いが混じった感情の炎は弱いな」

「俺は...! 迷ってなんか!!」

「まあ、もうどうでもよい。これ以上は話しても無駄だ」


傲慢の怪物は磔の腹部を蹴り上げた。突然の攻撃に反応できず、彼は空に打ち上げられた。

それを追うように金色の炎翼を生やし空に飛び、磔よりも高い高度に上がると勢いよく降下し、彼の頭部を鷲掴みにすると地面へとさらに急降下をした。

メキメキと嫌な音を立て、空から地面へと磔は叩きつけられた。


「がっ...はっ...!?」

「自分の傲慢な正義で虚飾の悪を見抜けぬとはな」

「黙れ...!」

「まあいい。本気でこの世から滅してやろう」


怪物の周りに金色の炎が現れると、怪物を包み込んだ。メラメラと燃え上がる感情の炎はベルゼブブを包み込んだ時とは逆に怪物を燃やしているように縮小していた。


『我、真名はルシファー。八つの枢要罪の傲慢を司る堕天の王なり!』


金色の炎が晴れると、そこにいたのは黒い二対の翼と白い二対の翼を生やし、右の額からは鋭いツノ、白いキトンを身に付けた堕天使がそこにいた。


「ルシファー...って、あのルシファーか!?」

『この世界の、な。別世界の方は我とは別物だ』

「真名とか言ってたが...まさか他の怪物もお前と同じでもとは別の何かだったのか!?」

『そうだ。我のように感情に忠実なものはいずれ怪物となる。今のお前もそうだ』


磔を指差し、傲慢の怪物ーーールシファーは蔑むように笑った。


「俺が怪物になるって言いたいのか!?」

『信じられないだろう? だが、事実貴様は少しずつ怪物へ近づいている。全てを見下す傲慢の怪物にな』

「そんな話に惑わされると思うなよ!」

『そう思うのなら我はもう何も言わん。我はただ主のシナリオ通りに動くだけだ』

「お前らの手の平の上で踊らされてたまるか!!」


傲慢の堕天王 ルシファー

VS

絆を力へ変える者 白谷磔










△▼△








クネクネと妖艶な動きをする色欲の怪物は右頬に手を当ててため息をする。


「はぁぁ...全く何故私があんたみたいなガキを相手にしなきゃいけないのよ...」


そう言って目の前にいる涙亜を見てさらに深いため息をした。それが気に食わない彼女は怒っていた。


「ムカッ! 子供扱いしないでよおばさん!!」

「おばさん言うんじゃねぇ! クソガキがぁ!!」


涙亜のおばさんという言葉に怪物から最初の妖艶さは完全になくなり、怒り散らしていた。


「だいたいさっきまで操られていたクセに調子に乗ってんじゃないわよ!」

「だからその事でアルマに文句を言ってーーーーあ、れ...?」


自分の言った言葉に首を傾げ、両手で頭を抑える涙亜。まるで頭の中で記憶が混濁しているようだ。

その様子に色欲の怪物は焦ったように彼女に攻撃を仕掛けた。

桃色の炎を鞭状に具現化させると涙亜に向けて鞭を振るった。記憶の混濁によって意識が虚となっていた彼女はハッとし、意識が戻ると後ろに飛び退き、攻撃をかわした。


「不意打ちなんて卑怯だよ!」

「勝負中に気を抜いたあんたが悪いのよ。それに今あなたに記憶が戻られても主さまの計画にヒビが入っちゃう」

「記憶が戻る...?」

「口が滑っちゃったわね。悪いけど、もう本気でお遊びは終わりよ」


色欲の怪物は桃色の炎に身を包んだ。

混乱している涙亜は隙ができた怪物に攻撃を仕掛けることができず、ただ呆然と眺めていた。

数秒もせずに炎が晴れると怪物の姿は少し変容した。頭からは二対の山羊のようなツノ、背中からは黒い大きな羽根、お尻のあたりからは蛇の頭が付いた尻尾を生やしていた。


『私の名はアスモデウス。智天使とも呼ばれていた八つの枢要罪の色欲を司る魔神なり』

「さ、さっきと全然...威圧感が違う...!」

『言ったでしょう? お遊びは終わりと。あなたも本気で来ないと...死ぬわよ」

「言われなくても...!」


まだ混乱している涙亜だったが、今は目の前の敵に集中するかのようにアイシクルソードを手に握ると剣先をアスモデウスに向けた。


「おばさんを倒して知ってること全部聞き出す!!」

『いいわよ。そのやる気。それと......おばさんって言うんじゃねぇよ!!』


色欲の魔神 アスモデウス

VS

涙をも流すエゴイスト 穂恋涙亜








△▼△









「あははは! いつまで逃げるの?」


子供っぽく大鎌を振り回しながら笑う強欲の怪物。それを避け続けながら怪物との距離を取ろうと逃げ続ける桜。


「鬱陶しい怪物ね。これじゃあ術式も組めやしない!」

「組ませないよぉ! 桜お姉ちゃんは主の危険視リストに入ってるからね!」

「危険視リスト...?」


怪物の言葉に疑問を持った桜に、怪物が大鎌を振り下ろした。それに対し、弾幕を放って怪物の攻撃を弾く桜。

一旦、距離を取った怪物に彼女は質問を投げかけた。


「危険視リストってどう言うことよ」

「これぐらいは言ってもいいかな。主は今回の計画を立てる上で、確実に計画を崩すであろう人物をリストアップしてるんだ。因みに人数は五人」

「その一人が私ってわけね」

「そうだよ〜! 桜ちゃんはその豊富な知識量が危険だからリストアップされたんだよ!」


何故か賞賛するように拍手を送る怪物だったが、桜は意に介さず怪物を睨んでいる。

それにわざとらしく怯える怪物に彼女は質問を続ける。


「残りの四人は誰?」

「反応つまらないなぁ...まあいいや。二人目は幻真くん。今回のイレギュラーで行動が未知数だから。三人目は仙我くん」

「仙我?」

「修羅仙我くん。彼の能力は桜ちゃんでも苦戦すると思うよ〜! 次に四人目はさとり様。あの人は一番規格外だからね。そして最後...五人目は水橋パルスィ。この計画の要だから彼女に何かあっては困るんだ」


どこか悲しそうに答える青眼に桜は首を傾げたが、すぐに別の疑問が浮かんできていた。


「なぜ五人なの? 残りのメンバーもその計画を止めれるぐらいの力はあると思うけど?」

「力と危険性はイコールじゃないよ。力があっても救えないものがあること...桜ちゃんが一番知ってるんじゃないの?」


その言葉に桜は苦虫を噛み潰したような顔をし、青眼から目を逸らした。まるで事実を否定するように。

クスクスと彼女の反応を笑う青眼は持っていた大鎌を大きく振り回し、地面に突き刺した。


「さてさて、ここいらで質問タイムはおしまい! ここからは......殺し合いだ」


急に雰囲気の変わった青眼に桜は背筋に冷たいものを感じた。

他の怪物同様に青い強欲の炎が怪物を焼いていく。炎が少しずつ大きくなっていき、元の大きさより一回り膨らむと炎が晴れた。

そこにいたのは黒いカラスのような羽を生やし、サファイアのような双眸、獣のような爪と足をした獣人の怪物がいた。


『私は八つの枢要罪の強欲を司りし者 マモン。自身の強欲に溺れ、私欲の限りを尽くした地獄の王が一人...』

「マモン...なるほど。さすが魔王ね...こんな大悪魔を従えているなんて...」

『それは違う。私達は従えられてるわけではない。況してや主は私達の真の名を知らない』

「どういうこと...?」

『欲するなら強欲のままに私を倒すんだな。異世界の巫女よ!』


強欲の地獄皇 マモン

VS

万魔の術師 安倍 桜








△▼△








「ということは、あなた達は魔王から生まれた存在ではないんでしょう。なら何故いいなりになっているの?」


未来は怪物達の素性を知り、憤怒の怪物へ疑問を投げかけた。

怪物は彼女の質問を嘲笑するかのように答えた。


「知れたこと。マスターの能力は感情を弄ぶもの。故に感情の怪物である我らを操れることは必然。それに逆らったところで我らではマスターに敵わぬわ!!」


憤怒の怪物は大声を上げ、未来の腕を掴み空中へと投げた。

なんとか空中で体勢を整え、着地した未来は一旦怪物から距離を取り冷静に質問を続ける。


「魔神もいるというのに?」

「魔神如き、マスターの足元にも及ばん」

「そう。なら、さっさとあなたを倒して、あの魔王を止めないと大変なことになるわね」

「ク...クハッ...クハハハハ!!」


未来の言葉が面白かったのか、憤怒の怪物は口を抑えて腹の底から笑っていた。

それが癪に触ったのか未来は憤怒を睨んだ。なおも笑う憤怒は彼女の怒りを感じてか、謝る素振りを見せて言った。


「クハハ...スマヌなぁ! 貴様があまりにもバカなことを抜かすものでなぁ!!」

「バカなこと...?」


未来は怒りを込み上げるが、それ以上に怒りを込み上げた憤怒の怪物は額から生えているツノから感情の炎を灯していた。


「そうであろう。貴様のようなゴミクズが我を殺せると夢見てるのだからな!!」


憤怒の怪物の感情の炎は全身を灯した。炎が全身を包み込むと、背中から四枚の対となっている大翼を生やし、下半身は蛇のように伸びていく。長さは数十メートルはあるだろう。

炎が晴れると、巨大な蛇のような姿となり、全身から瘴気のようなものを発し、深紅に輝く瞳を未来に向けていた。


『我は愚かな神への憤怒に身を焦がし、怪物となっていた。我が名はサタン。八つの枢要罪の憤怒を司りし神への叛逆者なり!!』


憤怒の怪物ーーーサタンは咆哮を上げたかのような声を発した。

目の前の神話級の存在に未来は冷静に眼前の敵を見据えた。


「まさか、神話級の存在と戦うことになるとはね。けど...関係ない!」

『我を恐れぬか。愚かだが褒めてやろう。さぁ来い! 神の傀儡よ! 憤怒の炎で燃やし尽くしてやろう!!』


憤怒の叛逆者 サタン

VS

幸運を呼ぶ魔術師 妃彩未来







△▼△






こちらでは、憂鬱の怪物とグランヒルデが対峙している...筈だった。


「憂鬱、戦い、やだ」

「なら降伏してくれよ」


憂鬱の怪物は駄々をこねる子供のように地面に這い蹲り、戦うことを拒否していた。グランヒルデもそれには頭を抱え、降伏をするように促すのだが。


「憂鬱、降伏、やだ」

「はぁ...めんどくさい相手だよ...」


グランヒルデは憂鬱の怪物の対応にため息を吐いた。というのも対峙してから怪物はずっとこの調子でいるのだ。

こうなっては流石の彼女もどうしようもなかった。


「こっちはあんたに構ってる暇はないのだよ! いい加減にしないと、一方的に仕留めるよ!」

「憂鬱、あなた、嫌い」

「嫌いがどうとかじゃ...ああもう! むしゃくしゃする!」


憂鬱の怪物のペースに完全に飲み込まれているグランヒルデは腹が立っていた。

その様子を見ていた怪物のクスクスと笑う姿は彼女を嘲笑しているようだった。


「何がおかしい!」

「あなた、想像以上、憂鬱、策、嵌った」

「どういうーーーー」


グランヒルデは憂鬱の怪物へ問いかける前に、力が抜けたように膝から崩れ落ちた。だが、並外れた精神力のおかげか完全に倒れ込まずに跪いていた。

自分に起きた現場に困惑する彼女を見た怪物は異様なまでに口角を吊り上げて笑っていた。


「なに...これ...!?」

「憂鬱、能力、ウイルス、撒き散らす」

「ウイルス...? ま、まさか...あんたワザと...!!」

「正解」


憂鬱の能力は、自由自在にウイルスを操ることができる。ウイルスと言っても体に害を及ぼすものだけでなく、逆に体へいい影響を与えるウイルスも作り出すことができる。もはや、ウイルスと呼べるかは謎だが。

グランヒルデの体にはウイルスが少しずつ少しずつ侵入していた。それはごく少量のウイルスだが溜まれば異様なまでに効果を発揮するもの。感知することができないぐらいの少量のウイルスを憂鬱は流し込んでいたのだ。


「見かけによらず...姑息な怪物ね...」

「まあねぇ〜...あ、素が...この口調だと怠惰が嫌がるけど...まあいっか〜」


先ほどまでの片言がなくなり流暢に喋り始めた。


「憂鬱はねぇ〜相手を騙すの大好きなぁんだ!」

「いい性格...してるよ...」

「ぬっふっふ! さぁてさて? 憂鬱も本気出そうかな!」


厭らしい笑みを浮かべ、全身を黄色の炎に包み込んだ。

苦しそうに息をするグランヒルデはその様子を黙って見ていた。いつもの彼女ならこのスキを逃さなかったはずだ。しかし、今の状態では不可能。それど今の彼女の体はウイルスに蝕まれていた。

その間に憂鬱の怪物を包み込んでいた炎は晴れていた。

両腕に龍のような鱗、額から二対の湾曲を描いたツノ。尾骨からは棘が生えた尻尾。目はトカゲなどの有鱗目へと変わっていた。

一言で言えばリザードマンのようだった。


『私は支配者として君臨し、全てが憂鬱に感じた時、怪物となっていた。八つの枢要罪の憂鬱を司りし者、名はアスタロト』

「アスタロト...! 大層な悪魔が現れたものね...!!」

『ぬふふ! さぁ、憂鬱の中で死になさい』


憂鬱の支配者 アスタロト

VS

災厄の魔女 グランヒルデ・アルケミー








△▼△









「どこに消えたのかしら...」

「どこに消えたのかしらねぇ?」


虚飾の怪物は豊姫を嘲笑うように鸚鵡返しをした。


「一つ気になってることがあるわ」

「なぁにぃ?」

「あの黒い目をした怪物...あの怪物だけ命令通り動いている様子がなかった。それはどうして?」


豊姫の突拍子も無い質問に虚飾は目を見開くと同時に口を押さえて笑った。


「奇妙なことに気づくねぇ! 君以外誰も気づいてないよ?」

「他の怪物が規則通り動く中、あの怪物だけ自分の意思で動いてるような気がした。それだけよ」

「うふふ! いい質問だね! 君の言う通り、僕たち怪物の中で怠惰だけはマスターの命令を無視できる」

「それはなぜ?」


クスクスと笑いながら虚飾は消していた姿を表すと、全身に感情の炎を灯した。

透明で色の無い不思議な魅力を感じる炎は見続けると全てが透かされるような感覚を豊姫は味わっていた。


「怠惰は僕たちのリーダーであり、マスターだからさ」

「マスター? マスターは魔王なんでしょう?」

「そこはもっと秘密があるのさ! 知りたければ僕を倒しな!」


全身に感情の炎が灯ると、虚飾の怪物はクスクスと笑い続ける。だが、今までの怪物と違い、姿に変化が見られなかった。


「僕の名はアザゼル。上っ面の正義を掲げ続け、いつしか真の正義を見失い八つの枢要罪の虚飾を司ることとなった堕天使さ」

「天使までもが怪物になるなんて...」

「仕方ないさ。意思あるものは感情には決して逆らえない。君のボーイフレンドもね?」


アザゼルの言葉に豊姫は目の色を変えた。


「...あの人が怪物になると言うの!?」

「さぁねぇ? 僕は知らない。傲慢がそう言ってただけだから。けれど、あのままじゃ怪物に成り果てるね」


興味無さげにそう言うアザゼルは豊姫の様子を見てクスクスと笑った。


「心配そうだね。さっきまでの上っ面の冷静さが消えてるよ」

「な、何が言いたいのよ...!」

「上部だけ冷静に取り繕っても内面では心配、後悔、嫌悪、侮蔑、いろんな感情が渦巻いてる。周りにバレないように虚飾の自分を見せてる。それがあなた」


本当の自分を見透かしているようにアザゼルは言った。豊姫の全てを暴くように透き通るような水晶の瞳で彼女を見つめた。


「私は...偽ってなんか...」

「まあいいさ。君が虚飾に身を包もうと僕はマスターの命令を聞くまでさ」


透明の感情の炎を両手に灯しながら両腕を広げるとアザゼルは豊姫の周りに人魂のようなものを撒き散らした。

その人魂は形を変えていくと顔のないマネキンとなった。


「さぁ、虚飾の運命を終わらせようか」

「私自身が虚飾だろうと関係ない。私は私ができることをするだけよ」


虚飾の堕天使 アザゼル

VS

海と山を繋ぐ姫 綿月豊姫








△▼△







「どうしたぁ!! そんなんで俺が倒れるわけねぇだろうが!!」

「あ〜...うぜぇ...」


ベントの攻撃をダルそうに避けながら怠惰の怪物は愚痴を吐いた。


「さっきまでの威勢はどうしたんだぁ? テメェが一番強そうだったから相手をしたってのによぉ」

「時間稼いだんだ。もう働きたくねぇし、そもそも俺はバカアルマの言うこと聞く気ねぇよ」

「......解せねぇな」

「あ?」


ベントの突然の言葉に怠惰の怪物は顔をしかめた。


「テメェの話を聞く限り、怪物はあの魔王の能力によって従順になってるんじゃねぇのか?」

「そうだが?」

「じゃあ、なんでテメェだけ魔王の命令を無視できる」


先ほども言ったが、感情の怪物は魔王の能力によって半ば強制的に命令を聞いている。と言ってもイヤイヤと言うわけでもない。

そのため怠惰の怪物の行動、発言は他の怪物のそれとは全く違っている。

ベントはそのことに気づき、解せないと言ったのだ。彼の言い分に怠惰の怪物はニヤッと笑う。


「俺がアルマの言うことを聞かなくてもいい理由が知りたいのか?」

「まあ、そう言うことだ」

「...ギヒッ! ギヒヒ!!」


怠惰の怪物が笑った途端、ベントは背筋に冷たいものを感じた。いや、悪寒とも言うのか。

なぜなら、その顔は異常なまでに吊り上がった口角と光の灯っていない濁りきった瞳で笑っていたからだ。そして、その不気味な笑顔は魔王と同じであった。


「テメェ...一体何もんだ!?」

「俺は怠惰の限りを尽くし、統一すべき魔界すらも捨てた魔王であり、八つの枢要罪の怠惰を司る者。名はーーーーー桐月アルマだ」

「......はぁ!?」


怠惰の怪物の名を聞いたベントは驚きを隠せなかった。なぜなら、怪物の正体は魔王そのものであったからだ。


「魔王が二人だと!?」

「その言い方は五割だ。俺は別の可能性から生まれた魔王だ」

「い、意味がわからねぇ...!」

「簡単に言えば、怪物になっていたであろう世界の桐月アルマってわけだ」


尚も説明をするがベントは首を傾げて頭の上にクエスチョンマークを出すだけだった。その様子にアルマは溜息をし、両手を上げ呆れた様子で首を横に振った。


「と、とにかく! テメェはあの魔王ってことでいいんだな?」

「まあ、結論で言えばそうだ」

「それは好都合だ! さっきの戦いの続きといこうぜ!!」

「やれやれ...めんどくさいが、これも運命。受け入れるか」


メンドくさそうにアルマは心臓を大鎌へ変化し、胸の中から取り出すとベントに向けた。

対するベントは拳をぶつけ、やる気満々と言わんばかりに音を鳴らす。

怠惰の限りを尽くし、怪物と成り果てた魔王は力で全てを征する勇者と対峙する。


怠惰に堕ちた感情の王 桐月アルマ

VS

星砕く轟拳 ベント・ラングレン








大団円まではまだまだ長い

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