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東方魔人黙示録  作者: 怠惰のあるま
最終章《魔王は魔人の夢を見る》
190/204

《魔王は全てを捨てる》

お待たせしました。

最終章 第1話

更新です。



ここは地霊殿。幻想郷の地底に存在する大きな屋敷。

そこの一室にこの屋敷の主であり覚妖怪である古明地さとりと、悪魔を束ねる魔界の王であり魔人 桐月アルマ、地底の橋姫であり魔王の妻 水橋パルスィの三人と見知らぬ女性二人が向かい合って座っていた。

二人はどちらも同じような純白のキトンを身に纏い、背中からは白い大きな翼が生えていた。見て分かるように彼らは天使だった。

なぜ、このような状況になっているかというとそれは数刻前に遡る...









△▼△









ようお前ら。俺だ。アルマだ。

今日も変わらずパルスィと一緒にいるんだが...どうも地上から地底に降りてくる奴らがいるんだよね。

しかも、結構強力な気配。

なぁんか嫌な予感がするんだ。とりあえず、地底の入り口にある橋に向かう事とする。

橋に着くとすぐさま奴さんが姿を現した。そして、奴さんの姿を見て嫌な予感が的中した事にため息をする。


「はぁぁ...メンドくさいのが来やがった...」

「ねぇアルマ。あれって...」

「ああ.,.天使だ」


そう。地底に降りて来たのは天使だ。

片方は水色の髪をした短髪の女性。もう片方は茶色の髪をしたツインテールの女性。

二人とも白いキトンを纏っていた。

茶色の髪の天使はアルマ達に気づくと二人の前で止まり、微笑むと優しい声で喋った。


「そちらの女性はお初にお目にかかります。私は天界の大天使が一人。節制の天使 ラファエルと申します」

「同じく大天使が一人。勤勉の天使 サンダルフォンだ」

「アルマ知り合いなの...?」

「ラファエルはな。そっちの勤勉の天使だかは知らん」

「怠惰の魔王と知り合う理由はないからね」


どこかトゲのある言い方でサンダルフォンは答えた。まるで親の仇でも見るような目でアルマを睨んだ。

それをラファエルは宥めるが彼女は不機嫌そうに顔を逸らした。


「申し訳ありません...」

「大丈夫だ。勤勉と怠惰は相容れない。分かってたさ。それで? なんでそんなに怯えてるんだ?」


アルマの言うようにラファエルは小さく震えていた。それは何かに対して恐怖を抱いているかのように。

その発言にサンダルフォンは呆れたように答えた。


「あんたのせいだよ。ラファエルはあんたの強大な力を恐れてるのさ」

「そうなのか?」

「お恥ずかしながら...」

「全く。こんな見るからにヒョロッとした魔王の何処に怯える要素があるんだか...」


アルマを侮辱したからかパルスィの目から感情の炎が燃え上がっていた。それに気づいたサンダルフォンは鼻で笑う。


「ふん。妖怪風情が大天使に殺意を抱くとは身の程をわきーーーーー」


サンダルフォンが喋り終える前に彼女は赤い腕に鷲掴みにされた。その腕はアルマの背中から伸び、ギリギリと彼女を握り潰さんとしていた。そして、彼の目には憤怒の象徴である赤い炎が灯っていた。


「身の程を弁えるのはテメェだ...」


怒りがこもったその声は相手を威圧するように低かった。

サンダルフォンはどうにか自分を拘束する手から抜け出そうとするが、その倍の力で押さえつけられていた。状況を把握しきれていなかったラファエルは我に返りアルマを急いで止めた。


「ア、アルマ様! どうか怒りを鎮めてください!!」

「黙れ。パルスィを侮辱する奴は誰であろうと殺す...親友だろうと...親だろうと...仲間だろうとな...!」


その顔は狂気の笑みに染まっていた。

自分の愛するパルスィ以外はどうなろうと関係ない。彼女さえいればいい。そう言っているかのような恐怖さえ感じる笑みであった。

それに対し、サンダルフォンはか細い声で言った。


「く、狂ってる...!!」

「パルスィと共に入れるなら俺は狂っていようと構わない...」


そう言いながらサンダルフォンを見つめる彼の目には何も写っていない。

いや、その目にはパルスィ以外は写らない。狂愛とも言えるその異常なまでの愛は依存だった。

サンダルフォンの怯える様子を見るとアルマは飽きたように指を鳴らすと赤腕は赤い粒子となって消えた。地面に倒れこむ彼女はアルマを指差し、本心を口にした。


「あ、あんたの様な狂った男が魔王だなんてあんたの手下が可哀想ね...!」

「サンダルフォン!」

「事実でしょ...? こんな異常な愛を抱く男が魔王? こんな奴...殺されて当然だわ!」


先程、アルマは狂愛をパルスィに抱いていると言ったがそれは彼女も同様である。

サンダルフォンは見えない何かに鷲掴みにされ空に浮いた。どうにか抜け出そうと抵抗するがすればするほど掴む強さが増すばかりだ。


「ぐっ...! うぅ...!!」

「アルマが殺されて当然...? 次、同じ事を言ったら握り潰すわよ...!」


光の灯らない瞳でパルスィは夫を愚弄した天使を見つめ、使役する怪物の手の力を強めさせる。

今にも死にそうなサンダルフォンを見たパルスィは不気味に笑い、より一層怪物の手を強めた。


「パルスィ」


今にもサンダルフォンを殺しそうになっているパルスィはアルマに呼ばれ、怪物の手を緩めさせた。


「優しくした方」

「ああ、そうだな。いつもより優しいがお前が誰かを殺す姿は見たくない」

「でも...」

「パルスィ。俺はもう...お前に手を汚して欲しくないんだ」


悲しみが込められた声はパルスィに届き、彼女は怪物にサンダルフォンを掴む手を離させた。

人形のように地面に倒れ伏した彼女は咳き込み二人を睨んだ。


「貴様ら...!!」

「サンダルフォン! いい加減にしなさい!!」

「ラファエル...! だって!!」

「無礼を働いたのは貴女ですよ。その身勝手さで今回の件、失敗でもして責任を取れるのですか?」

「そ、それは...」

「ならもう黙ってなさい」


ラファエルに怒られたのが効いたのか、サンダルフォンは俯いて口を閉じた。


「先ほどのご無礼をお許しください。彼女も今回の件で気が立っていたもので...」

「本来なら殺していたがお前に免じて見逃してやるよ。だが、次はねぇぞ...?」


その言葉に恐怖を抱きながら彼女は深々と頭を下げた。


「とりあえず、話は地霊殿で聞く。ついて来い」


アルマはそう言うとパルスィと共に地霊殿へと歩いた。

その後をラファエルが付いていこうとするが、立ち上がろうとしないサンダルフォンに視線を移した。


「サンダルフォン。行きますよ」

「...わかったよ」


渋々と立ち上がった彼女の足はガクガクと震えていた。










△▼△









地霊殿に到着したアルマ達であったが、そこでも一悶着があった。

心を読みこちらの状況を確認していたさとりがサンダルフォンに攻撃をしようと構えたのだ。それをどうにかアルマが宥め場は治まったがさとりの目からは怒りの色は消えなかった。

不穏な空気のまま、五人は地霊殿の客間へと移動し今に至ると言うわけだ。

パルスィとさとりが睨んでいるせいか、天使二人は何も言えず沈黙は数十分以上続いた。


「本日、訪れた件についてですが...」


沈黙を破るようにラファエルが怯えた様子で話を始めようとした。だが、それを遮るようにアルマが口を開く。


「どうせ勇者だろ?」

「はい...その通り...」

「だが、おかしくないか? 協定上勇者は生まれないはずだろ」


アルマの世界では魔王を倒す者。すなわち勇者が生み出されることがないように協定が結ばれていた。


「......それが天使達の中に勇者の召喚を行ったものがいたのです」


気まずそうに答えるラファエル。それを見てアルマはため息をした。


「お前らが持ち寄った協定をお前らが破るとか...」

「申し訳ありません...」

「それで、俺にどうしろと?」


アルマの質問に答えにくいのか、ラファエルは口をモゴモゴと動かし、消え入るような声を出していた。

ハッキリしない彼女を見兼ねたサンダルフォンは彼女の代わりに答えた。


「天界の議会で決まったことは、感情の魔王の死よ」

「サ、サンダルフォン...!」

「俺の死だと?」


その答えに部屋の空気が変わった。

先ほどまでピリピリとしていた空気が完全に天使ら二人への殺気に満ち溢れた。

原因はパルスィとさとりの二人。自分らの不始末をアルマの死で解決しようとしている天界への怒りが全てラファエル達に向いているのだ。彼女らの怒りは只ならぬものであろう。片や大切な家族に、片や愛する夫に死ねと言われてるようなもの。

彼女らの怒りも仕方がないと言える。しかし、当の本人であるアルマは意外に冷静であった。


「なぜ俺が死ぬ事になった?」

「あなたも知っての通り、勇者は運命を終えぬ限り死と言う概念が無くなります。あなた同様に」


ラファエルの言う死の概念が無くなる理由はアルマと同じで《運命の呪い》が掛けられているからだ。

そもそも、その呪いは一体誰によって作られ、誰によって呪いが掛けられるのか。これは極少数の者にしか知られていない事だ。その中にアルマも含まれている。


「なるほどな。呪いを解き、勇者を消すには俺を勇者に殺させ運命を終える必要があると...」

「だからと言って、あなた達のくだらない不始末をなぜアルマが拭わないといけないのですか?」

「それは頭の固い奴が悪魔と天使が共に平和を築く事は無理だと言う奴がいるから」


平和の協定を結んだとは言え、長年の因縁が消えたわけではない。それ故に長く生きた年長の天使からすれば親の仇を許せというもの。そう簡単にはいかぬだろう。

結果、今回のような事になったというわけだ。


「挙げ句の果てにあのジジイ共は、我らとの平和を築きたければ誠意を見せろとさ」

「ほう? それは面白い! 自分らの不始末を片付けてくれるなら平和を約束しよう。そういう解釈でいいのか?」

「あながち間違いじゃない。私もそう聞こえたしね」


どこか呆れたように答えるサンダルフォン。その様子に違和感を覚えたさとりはある事を聞いた。


「アルマに死んでほしい筈のあなたが随分とこちらに加担しますね」

「......別に感情の魔王のためじゃない。私はあのジジイ共が嫌いなだけだ」

「その発言が聞かれればお前の立場が危ういんじゃないか?」

「ふん。仮にも私は大天使だ。こんな事で立場が崩れるほど低い位にはいない」

「そうか。それで、実際のところ俺は今回の件を全く呑む気がねぇぞ」


当たり前の事だ。

自分が死んで、この後の魔界の安全が保障されているわけでもない申し出に乗るバカなどいるわけがない。


「分かっています。けれど、一つだけ伝えたい事が」


ラファエルがアルマにだけ聞こえるように耳元で囁いた。

その内容は二人以外には分からないが、いい話ではないのだろう。何故ならそれを聞いたアルマの表情が暗くなったからだ。


「その話は本当か...?」

「申し訳ありませんが事実です」

「......いいだろう。その条件...呑んでやる」


その言葉にラファエルを除く三人が驚いた表情でアルマに視線を向けた。

パルスィは彼の肩を掴み、声を荒げていった。


「アルマ分かってるの!?」

「分かってるよ。ちゃんと考えがあっての答えさ」

「嘘...絶対嘘よ! 今のアルマは死のうとしてるようにしか見えない!」

「おいおい。俺がそう簡単に死ぬたまに見えるか? 大丈夫だって」

「ダメよ! 絶対に行かせない!!」

「パルスィ...」


断固としてアルマを行かせる気はないパルスィにアルマは辛そうな表情をしていた。


「......答えは保留という事にしてあげる。また後で答えを聞きに来るわよ」


サンダルフォンは気を使うようにそう言った。ラファエルはそれに頷くと、失礼いたしますとだけ言い二人は地霊殿を後にした。

一つため息をしたさとりはアルマとパルスィに話しかけた。


「二人とも、とにかく落ち着いてください。今はこれからどうするかを考えましょう」

「...わかりました」

「アルマもいいですね」

「はい...」


そうして、部屋を出た三人は廊下に見覚えのある人物が立っていた事に気づく。その人物の顔を見た瞬間にアルマだけは嫌な顔をし、パルスィはどこか希望を抱くような表情をした。


「いや〜! なぁんかお暗いね〜? いつものラブラブ具合はどこにいったのかな?」

「終作...平然とこっちの世界に来るんじゃねぇよ...」


廊下に立っていたのは白いパーカーと黒いカーゴパンツを着た男。別の世界の住人である終始終作。なぜ彼がここに居るのかはわからない。だが、ある意味タイミングが良いのか悪いのか。

パルスィは懇願するように終作の肩を掴み、消え入りそうな声を出した。


「終作も...アルマを止めて...!」

「え〜っと...? もしかして、深刻な話かな?」


終作に諸々の事情を説明すると、納得するように頷いた。


「なるほど。つまり、理不尽な役目を押し付けられたって感じか」

「まあ、そんなところだ」

「アルマ君らしくないね〜! いつもの君ならそんな条件はめんどくさいの一言で断るだろ?」

「俺にもいろいろあるんだよ」

「あの天使に何か吹き込まれたのですか?」


さとりの言葉にアルマは視線を落とした。


「どうやら図星のようですね」

「アルマ...何を言われたの...?」

「......言えねぇ」

「どうして...!」

「これは...俺の...魔王としての問題だ...パルスィ達を巻き込むわけにはいかないんだ」


どこか辛そうに話すアルマに終作は気まずそうに頭を掻くと指を鳴らした。

すると、彼の背後に大きな時空の狭間が生まれた。終作の行動にアルマは首を傾げた。


「何のつもりだ?」

「それはもちろん。おまえを止める&手助けする奴らを呼ぶんだよ」

「おい...!」

「前から思ってたが何で全部一人で抱え込もうとする。おまえはもう少し仲間を頼ったらどうだ?」


終作の真っ当な意見にアルマは目を逸らした。何が彼をそこまで駆り立てるのか。それはわからない。ただ一つ、わかるとすればアルマは決して自分の意見を曲げないということだけだ。


「......勝手にしろ」

「そうさせて貰うよ〜ん!」


終作は次元の狭間の方に向きを変えるとなぜか頭上に狭間を移動させた。すると、中から五人の人間だと思われる者たちが落ちてきたのだ。

相変わらずの呼び出し方にアルマは小さく息を吐いた。落ちてきた内の一人が立ち上がると終作に食って掛かった。


「テメェ終作! 毎度毎度マシな呼び出し方はできないのか!?」

「まあまあ磔くん。落ち着けよ」


磔と呼ばれた青年。白谷 磔は苛立ちを隠さず、そこらにあった小石を蹴り飛ばした。


「あ、あの〜...ここは?」

「ここは俺の世界だ。涙亜」

「アルマだ! でも、なんでって終作のせいか」

「あら涙亜ちゃん物分かりがいいね〜!」


穂恋涙亜。この子は、ある別の世界でアルマが出会った少女。幼い見た目に反して恐ろしい力を秘めている。


「...仲良くしてるところ悪いけど。なぜ私は呼ばれたの?」


同じく終作に別の世界から呼ばれた女性が言った。見たところ、幻想郷の外の世界の住人にも見える。


「あんたは?」

「私は妃彩未来。見たところ私がいた世界とは別の世界ってとこかしら?」

「そうだよ〜! そして、呼んだ理由は強そうだからでぇ〜す!」

「お前なぁ...無闇矢鱈に別の世界の住人を巻き込むんじゃねぇよ...」


顔を手で押さえながら終作に呆れるアルマ。それでも彼はニヤニヤと笑い、反省の色はない。

それがさらにアルマのストレスへと変わっていくのである。


「それで私たちを呼んだ目的は何よ。くだらない内容だったら殴るわよ」

「桜ちゃん横暴だね〜」


そして、もう一人。安倍 桜が自分達がこの世界に呼ばれた目的を聞いた。


「今回はアルマくんを止めて欲しくてね〜」

「アルマを? どういうことだ」

「それはね〜! と言う前になんで幻真くんは気絶してるんだい?」


そう。終作に呼ばれた最後の一人である幻真。彼はどう言うわけか地面にうつ伏せで気絶しているのだ。原因は想像付くが。


「どう考えてもお前が要因だろ」

「俺〜?」

「お前が降らすように呼ぶから下敷きにされて当たりどころが悪かったんだろうよ」

「な〜るほど。まあ、彼には後で説明するとして...改めて今回の目的をしよう」


終作はアルマから聞いたこれまでの経緯を一言一句余すことなく話した。それを聞いた彼らは反応はそれぞれ違った。驚く者もいれば、怒る者もおり、冷静に考える者もいれば、哀れみを感じる者もいた。

話が終わると同時に磔はアルマの肩を掴み、真剣な眼差しで言った。


「お前...本気で死ぬ気か?」

「パルスィにも言ったが俺は死ぬ気はねぇ」

「本当かしら? 私から言わせれば、あの時と同じく、また死にに行こうとしてるわよ」


桜が言うあの時とは、アルマがアフェクトゥルにパルスィを消され、彼は生きる希望を失った。

彼女を失った時に生まれた怒りや悲しみに苦しんだ彼は全ての感情を捨て虚飾の魔王となった。だが、それでも桜には勝てず死のうとしてるアルマを彼女が止めた。

桜に諭されたアルマは何とか希望を取り戻し、アフェクトゥルを倒した。

その時の話を持ち出されたアルマは軽く笑い、冗談でも聞いたかのように答えた。


「おいおい。あの時とは違う」

「...ならいいわ。同じだったら約束通り殺してたから」

「そんなことしたら私があなたを殺す...」


ゾクッと背中にナイフを突きつけられたような寒気を感じた桜は恐る恐る後ろを振り返ると黒いオーラを発しているパルスィが立っていた。

そんな彼女に恐怖を覚えた磔はアルマに聞いた。


「な、なんかいつもより機嫌悪くないか...?」

「さっきの話に出てきた天使にお怒りだったからな。それでだよ」


そう言ってアルマはパルスィの頭を撫でようとしたが、その手を彼女は拒否した。完全にご立腹のようだ。

どこか悲しそうな顔をするアルマは、そのまま何事もなかったように話をする。


「とりあえず、お前らには状況をよく理解して貰う必要があるな」

「そうね。私もちゃんと知っておきたいわ」


その声に磔以外の者が首を傾げた。何故なら、声の主はーーーーー


「と、豊姫!? なんでここに!!」

「来ちゃった」


綿月豊姫。彼女は月に存在する都に住む月の民で、かなり偉い存在。

因みに彼女はこの世界ではなく磔の世界の豊姫であり、彼の妻でもある。故に磔が驚いているのも仕方のないこと。


「あ〜っと...誰だ?」

「あれ? 会ったことなかったか? 俺の妻の豊姫だよ」

「あ〜うんうん...名前だけしか知らんな」

「私のことよりも今回の件について教えてくれないかしら」

「わーってるよ」


急かすように豊姫に言われたアルマは懐からスペルカードを取り出した。


「それは記憶の札だったか?」

「そうだ。説明めんどくさいから記憶に直接ぶっ込んでやるよ」

「......あれ結構頭痛くなるんだよなぁ」

「使うのはいいけど。幻真を起こさなくていいの?」


桜が幻真を指差して言った。それに対し、アルマは少し考えた後にぼそりと呟いた。


「イレギュラーが一人いても変わらないか...」

「え?」

「ああ、こっちの話だ。別に後で説明すりゃいいだろ?」

「まあそうだけど...」

「とにかく、やるからお前らちゃんと札を見ろよ」


そう言ってみんなに見えるようにアルマは札を掲げた。

全員が札を見たのを確認するとアルマは申し訳なさそうな顔をして笑った。


「悪いなお前ら...さよならだ...」


呟かれた言葉の意味を知る前に記憶の札が光り輝き、アルマ以外の者たちの意識を光に包み込んだ。











△▼△











あれ? 俺は何でこんなところで寝てるんだ。

なんか頭痛いし...ああ、思い出した。確か、白玉楼で妖夢と稽古をしてたら突然地面に穴が空いたんだった。

誰の仕業か、と考える間も無く終作だろう。あいつ以外にこんなイタズラまがいな事はしないだろう。

それに磔や桜、多分アルマの世界のパルスィとさとりがいるのを見ると確信を持てる。残りは知らないが。


「お〜い磔! 桜!」


しかし、不可解なことがある。

こいつら呼んでも反応が無いんだ。なんか抜け殻のような感じ。

とりあえず、呼び続けていると磔の目に光が灯った。


「あれ...幻真か...起きたのか」

「どうしたんだよ。こんなところでみんな突っ立ってて」

「いや...アルマが...あれ...?」

「なんだ。またアルマが何かやったのか。それでそのアルマはどこにいんだ?」


キョロキョロと辺りを見渡しても、アルマはいない。全く、なんであいつが呼び出す時は必ずと言っていいほどにあいつはいないんだ。

一人ため息をすると、磔が不思議そうな顔をしていた。どうかしたのか?


「なあ幻真...」

「どうした?」

「アルマって...誰だ...?」

「......は?」


そして、魔王は存在を消した

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