後日談 その一
はい。コラボ本編が終わり今日から後日談です。
結局、俺は一日安静することにして宴を諦めた。
だが、その翌日。
朝日が昇り、まあ地底だから分からんがたぶん登ったであろう頃パルスィに起こされた俺は二人で客間に向かうと宴はまだ続いていた。
何人かは泥酔していたり、完全に潰れている者や眠っている者もいた。
ちょうど起きた俺はこの光景に唖然とした。いや、そりゃあそうだろ。起きてみれば未だに騒いでるってどんだけだよ。
「お〜う? アルマ起きたかぁ!」
「うわぁ......」
「なんだ〜? その嫌そうな声は〜!」
一目でめんどくさい酔い方をしている磔が話しかけて来た。その横では完全に酔い潰れている快と玉木がいた。お前らどんだけ飲んだ?
「それよりもお前も飲めよ〜!」
「怪我人に酒を進めんな」
「そうだぞ磔。一応怪我人なんだ。労ってやれ」
「何その棘のある言い方」
「あの大怪我が寝るだけで治るお前がおかしい」
「俺はお前らと違ってコメディーの住人なんだよ」
「は?」
うん。メタい話しなんだ。すまない。
事実、俺がどんだけバカみたいな事をしようとここがコメディーの世界である限り俺は死なん。
悪いな霊斗。コメディーの世界であれば俺は誰にも負けんぞ。
「まあ...それはいいとして破月を知らないか?」
「誰それ」
「勇儀みたいな女だよ」
「あ〜...いたような〜いなかったような〜?」
「破月ならイラと外に行ったわよ?」
盃のお酒を飲みながら霊奈が答えた。すぐ横の大量の空の酒瓶が目に入ったが俺は何も言うまい。まあ強いて言うなら君もお酒に強いね。うん。
と、それよりもイラと一緒にいるのか。あの子の様子を見るついでに破月と言う女性に挨拶でもしようか。
「ちょっくら様子を見てくるよ」
「それじゃあオレも行くか。知り合いがいた方が話しやすいだろ?」
「ああ、お願いするよ」
「私は飲み足りないから飲んでるわ」
......何も言うまい。
△▼△
パルスィと霊斗と共に地霊殿の外に出ると白い龍が何かを見ていた。
確か、ファラクだったっけ?
「ええっと...ファラクでいいよな? 何してんだ?」
「ん? おお感情の魔王か。それに橋姫達も。いや何、貴殿らの息子が頑張っているのでな。ちょいと見ておった」
「イラが?」
「ほれ」
ファラクが指を指した方を見るとイラが鬼の女性と戦っていた。どちらかと言うと遊ばれてるように見えるが。
そして、その鬼の女性が霊斗の言っていた破月という人だな。うん。確かに勇儀っぽいな。
「よう破月。何してるんだ」
「...霊斗か。いやこの子が戦いたいっていうから相手してるんだ」
「へぇ...お前が人の頼みを聞くのか」
「文句でもあるのかい?」
「いや珍しいなと思ってな」
霊斗の言葉にどこかムッとする破月。その後ろで戦いを中断させられたからかイラが不機嫌そうに言った。
「お姉ちゃん! まだ終わってないよ!!」
「分かった分かった...もう少し待ちな」
「えーっと...破月...さん?」
「誰だい...あんた?」
うわぁ...いかにも警戒されてる...人見知りかこの人?
「その子の父親の桐月アルマだ。イラの相手して貰って悪いな」
「......そうか。この子の相手は一向に構わない。借りがあるしね...」
「借り?」
「そこの鬼神はイラに助けられたのだ。トリックスターに操られた鬼神を勇敢に助けようとしておったぞ」
ああ、そうか。破月も俺の能力で感情に呑まれた一人だったのか。
「その件については俺の油断で起こったことだ。すまない」
「お前が謝ることないだろ。今回の首謀者はルシファーだ」
「だが一時の感情の流れで能力を奪われたのも事実、そのせいで関係のない奴らも巻き込んだんだ」
俺は償いをしないといけない。死んだ他の魔王達にもこの次元に住む者達全てに。
そんな俺に呆れたのか破月は大きなため息をすると言い放った。
「そんなに償いがしたいっていうなら構えな」
「...は?」
構えなって。どうゆうこと?
「オレと一戦交えなってことだよ。それでチャラだ」
「おいおい。アルマは怪我人だぞ。そんなこーーーー」
「わかった」
「アルマ、分かってるのか? 相手は鬼神だ。例えお前でも多々じゃすまないぞ?」
「むしろ有難いね。戦って償えるのなら正直わかりやすくていい」
「おまえなぁ...パルスィからも言ってやってくれ」
「私はアルマの看病で二人っきりになれるからそれもそれでありかと思ってる」
パルスィの意見に霊斗は呆れていた。二人には何を言っても無駄だと察しファラクの方へと歩くとどっかりと地面に座った。どうやら勝手にしろと言いたげだ。
さて、次はイラか。
「イラ。ちょっと父さんがこのお姉さんと戦うがいいか?」
「...うん! いいよ! その代わり絶対に勝ってね!」
「ああ、任せろ」
俺が自信満々に親指を立てるとイラは嬉しそうに笑いファラクに近づくと彼の上によじ登った。知らぬ間に彼とは仲良くなったようだ。
よし。これで準備は済んだ。破月の方に視線を向けると彼女は拳を鳴らしていた。
「準備はいいね?」
「ああ」
「なら......覚悟しな!」
破月は四股を踏むように地面を踏むと大きな亀裂が入る。すると、彼女の衝撃に反応するように地震が起こった。それに一瞬、戸惑っていると破月は蹴って俺に殴りかかった。
咄嗟に腕を交差してガードするが流石は鬼神。ガードなんぞ無駄だと言わんばかりの力で殴ってきた。骨はミシミシと音を立て俺を背後の壁まで殴り飛ばした。壁に思い切りめり込んだ俺はヒビの入った腕を無理矢理動かして壁から抜け出した。
「いてぇな...もうちょい手加減してくれても良くない?」
「そう言いながら平然と立ち上がるってるじゃねえか」
「そんなことねぇよ。腕の骨ヒビ入って痛いし、背中打ってもう寝たいぜ」
「弱音を吐く暇があったら攻撃でもしな!」
もう一度、殴りかかってくる破月に向けて俺は弾幕を放った。だが、彼女が歯をカチンと鳴らすと空気を伝って振動が放たれた。
その振動が弾幕に触れるとその場で弾幕は弾けてしまった。負けじと弾幕を飛ばす。今度は連続で。
それでも同じように振動を起こされて弾幕は全て破壊されてしまう。なら今度は。
「感情 アルマーニイレイザー!」
両手を構え魔力を集中させて青いレーザーを撃ち放つ。
流石に振動では消せないと察し破月は両腕を交差させて守りの構えをとった。
破月に攻撃が当たり、レーザーが収まると彼女は無傷でその場に立っていた。
「おいおい...無傷かよ」
「いや、少しは効いた。ほんの少しな」
「貶してるのか、褒めてんのか。まあいいやちょっと本気出そうかね」
俺はパチンと指を鳴らす。
黒い感情の炎がツノから噴き出し、目が黒く染まった。口からは黒い稲妻と黒い火炎が吐く息と共に出てくる。
「感情解放:憤怒」
「その炎は...お前はそれを操れるのか?」
「まあな。さあ、お喋りはここまでだ。憤怒 炎獄の型」
両手に真っ黒い炎を集中させ、手のひらを破月に向けるように構えた。
「その構えはなんだ?」
「感情解放の時にそれぞれ集中しやすい型ってのがあるんだよ。これは憤怒の時の型の一つ。俺は炎獄の型って呼ぶ」
「へぇ...面白そうだ。いいぜ! こいよ!!」
破月は俺の攻撃を受けようとそこに仁王立ちしていた。
そんなに受けたいなら全力でぶつけてやるよ。
手のひらに集中させていた感情の炎をさらに一点に集中。今にも爆発しそうな憤怒の昂りを抑えるように拳を握り締めた。
「憤怒の獄 炎獄ナックル!」
憤怒の炎を拳に変えてアルマは破月へと殴りかかる。流石の彼女も危険を察したのか両手をクロスし防御の構えをとった。
アルマの拳が破月に当たると同時に空間を揺らぐ程の大爆発が起こった。
近くにいたファラクは顔をしかめながら背中に乗っているイラを尻尾で抑える。パルスィと霊斗は平然と座りながら戦況を見据えていた。
爆煙によって辺りの視界が悪くなり、中の二人の状況は見えそうになかった。
だが、それでもハッキリと聞こえてくる鉄同士がぶつかるような金属音が二人がまだ戦っているのを知らせていた。
徐々に晴れてくる爆煙の中では爆発によって多少ダメージを受けた破月と真っ黒な炎を先程よりも強く燃やすアルマが拳で殴り合っていた。
「あはははは!! オレと殴り合おうとするバカなんて何年ぶりだぁ!?」
「うるせぇ!! さっさとぶっ倒れろ鬼野郎が!!」
戦いの興奮によって段々とギアが上がる破月は一発一発が骨を砕くパンチでアルマを追い詰めていく。
アルマはそれを精神力と並外れた魔王の回復力によって耐え、それに応戦するように憤怒の力である爆破する拳で殴り合っていた。
破月に対して肉弾戦を選んだアルマを見て霊斗は呟いた。
「あの攻撃を受けてよく立ち向かえるな...」
「貴殿もそう思うか。吾輩の目から見て感情の魔王は攻撃を受けるたびに骨や内臓がいかれてるように見える」
「そこはあいつの無駄な精神力と魔王と呼ばれるだけの回復力のおかげだろ。それでも無謀に突っ込んで行くことには理解できないが」
「憤怒の時のアルマは軽く理性が飛ぶからすぐああいうことするのよ」
いわゆる戦闘狂...ため息をしながらパルスィは呟いた。
彼女の言った通り、アルマの戦い方は策も何もないただの特攻と化していた。勝算も何もない状況でひたすらに破月に真っ向から攻撃をしている。
どう見てもアルマに勝ち目はない。
「どうした! 攻撃のキレが悪くなってきてるじゃないか!!」
「うるせえ奴だなぁ!? てめぇの異常な硬い体を殴ってれば拳も逝かれるにに決まってんだろうが!!」
「ならどうして突撃するんだい? もう爆破すらしないその拳でさぁ!!」
破月の言う通りアルマの爆破する拳は途中から何も起きず、ただ拳で殴っている状況であった。
少しではあったが爆破のおかげで破月にもダメージはあった。しかし、今では何もないただのパンチ。ダメージなど与えられるはずがない。
それでもなおアルマは怒りに任せて拳を振るい続けた。その拳に黒く燃ゆる炎を焚き付けながら。
「クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ!!」
同じ言葉を何度も繰り返し怒りを露わにするアルマの姿に霊斗は小さくため息をする。
「これは終わったな。完全に怒りで我を忘れてやがる。しかも、ヤケクソに殴り続けてるだけで勝ち目もない」
「うぅ...お父さんガンバレェ!!」
霊斗の言葉にイラは心配そうな表情を浮かべるが父親を必死に応援する。
その姿を見てパルスィはイラの頭を優しく撫でて霊斗に向けて言った。
「アルマが怒りで我を忘れてるって言ったかしら?」
「ああ、どう見てもそうだろ?」
「ならしっかり見ることね。そして、もう一度知ることになるわ。アルマの二つ名の意味を」
パルスィの意味深な言葉に霊斗は首を傾げる。それと同時に破月が大層可笑しそうに笑っていた。
「あっはっはっはっは!! まさにヤケクソだ! いいぜ。トドメを刺してやるよ!!」
闇雲に破月へと拳を振るい続けるアルマを彼女は思いっきり殴った。ボディに突き刺さる右拳にミチミチと筋肉が切れる音が響く。アルマは、くの字に体を曲げられ後ろに殴り飛ばされてしまった。
地面の上を何度も転がり壁に激突すると呻き声を上げながら起き上がろうとしていた。
だが、間髪入れずに破月はまともに動けないでいるアルマに飛びかかった。
「トドメだ!!」
「と....思うだ...ろ...?」
すでに攻撃体制へと入りアルマに襲いかかる破月に向けて彼は指を鳴らした。
パチンという音の後に彼女の体に何重にも重なった黒い魔法陣が浮かび上がった。破月は突如として起こった自らの異変に驚く、ということしらまともにできず全身の魔法陣が一斉に爆発を起こした。
「ほら、やっぱり」
「あ、あいつ何をしたんだ!?」
「あいつはずっと殴りながら彼女の体に魔法陣を埋め込んでいたのよ。しかも、殴った回数分のね」
「なるほど...だから途中から攻撃のキレが悪くなっていたのか」
「しかし、感情の魔王もよく考えおったわ。あんなに狂った戦い方をしておる癖にクレバーにタネを蒔いているとは...」
「アルマは器用にも感情を操って相手を弄ぶ。それがあいつの戦い方で感情の魔王と呼ばれる所以よ」
どこか自慢げに説明するパルスィにファラクと霊斗は苦笑しつつアルマと破月の戦いを見守る。
爆発によって起きた粉塵の中、佇む影が浮かんだ。ゆっくりと晴れていく粉塵がその影、破月の姿を露わにする。
流石の彼女もあの絨毯爆撃でダメージを受けたようだ。
「やるじゃないか...流石に効いたよ...!」
「そりゃあ良かったぜ...」
「だが...あんたはもう動けそうにないね」
「まあ...な...回復が追いつかん...」
壁に背中を押し付けズルズルと地面に座り込んだ。
「俺の負けだ...やっぱり勝てねえなぁ...」
「万全じゃない体でここまで戦った癖によく言うね...」
「ギヒヒ...褒め言葉として受け取って...おく...よ...」
そう言うと意識を手放し、アルマは気絶してしまった。そんな彼を心配し、パルスィとイラが駆け寄った。一応、ただの気絶とわかるとパルスィはアルマを背負った。
霊斗は地面にどっかりと座った破月に近づいて言った。
「お前がボロボロになるのなんて久々じゃないか?」
「まあな...そいつは相当強かったよ。もう一度、戦いたいもんだ」
「....なあ破月。お前、ここに残るか?」
「......は?」
「お前はこっちの世界が気に入っただろ? 別に無理強いはしない。お前の意見を俺は尊重する」
突然の提案に破月は悩んだ。
そんな彼女の手を掴む者がいた。それはイラであった。
「お姉ちゃん...何処か行くの?」
「......いや、オレは何処にもいかないさ」
「ほんと!! やったぁ!」
嬉しそうに跳ねるイラを見て何処か穏やかそうな破月に霊斗は確認するように聞いた。
「いいんだな?」
「ああ、オレはここに残る」
「分かった。アルマには俺が後で伝えておく」
「いや...いい......起きてるよ...」
ポツポツと呟く声に皆がアルマが目覚めたことに気づいた。
「起きてたのか?」
「まあ...ちょっと気絶してたのは事実だ...それと破月がこっちの移住することに関しては俺は何も言わねえよ。俺の世界は騒ぎを起こさなければ誰でも歓迎中だ」
「悪いな。これから世話になるぜ」
「ああ、よろしく...」
「とりあえず帰りましょう。アルマの看病もしたいから」
パルスィが看病と言った時にニヤついていたことに背負われているアルマ以外が気づき、何処か呆れていたのは言うまでもない。